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……タイッ!?_30

気ニナル

 その日の補習授業は小テストと称してプリントが配られただけだった。
 予定していた化学の教科担任が急に来られなくなり、出席を取るついでに余っていた去年のテスト問題の処理をさせられたわけだ。
 理恵は他の生徒達同様に出席簿に丸をつけたあと、プリントをもって解散した。
 二人は図書館にいるはず。紀夫も里美もいるし、プリント一枚程度わけない。
 そう思った彼女は廊下を走り、途中注意されつつも図書室へと向った。

 しかし、今日はあいにくの休館日であり、別のところを探し始める。
 教室や音楽室、視聴覚室と調べるも、どこも鍵がかかっており誰もいない。
 ふと窓の外を見ると見慣れたピンクのジャージと、複数の男女が見えた。
 ――あ、サトミンとノリチンだ。もう部活してるの? がんばるね~。
 理恵は窓を開けて二人に手を振る。
「ヤッホー、もう練習なのー?」
 しかし、二人は別の女子と話しており、気付く様子が無い。そして……。
「ノリチン!」
 二人の間に入った紀夫が思い切りビンタをされ、そのままグラウンドに倒れたところまで見えた。

「で? なんでノリチンがビンタされてるの?」
 理恵は保健室でアイスノンを借りて紀夫の頬を冷やしてあげながら、原因である里美と綾を見る。
「その俺が余計なことをしたから……いちち」
「じゃあその余計なことを話してよ。ノリチン」
「たいしたことじゃないし、そこまで大げさにしなくても……」
「だめだよノリチン。ノリチンが我慢しても二人の間のわだかまりっていうの? そういうのが無くなるわけじゃないんだからさ」
 たまにはまともなことを言うらしい理恵に驚きながらも、紀夫は話すつもりが無いらしく、頬の腫れ具合だけを気にしていた。
「あ、まあ、そのなんだ。わだかまりっていうか、そのなあ」
「うん。えっと、まあ暑さでカッとなっただけでさ……別に、ねえ」
 幾分冷静さを取り戻したらしい綾と里美は言いづらそうに言葉を濁し、視線を宙に泳がせている。
「それじゃわかんないでしょ? これじゃあ叩かれたノリチンが可哀想じゃない?」
「ごめんなさい」
「面目ない」
 空調の効いた涼しげな保健室のおかげか、珍しくまともな理恵に気圧されてか素直に謝る二人は、バツの悪そうに目を合わせたあと、しぶしぶ話し始める。
「あのな、里美があたしのジュースを飲んでさ、それで……」
「それで?」
「なんていうか、あたし他人が口にしたの飲むの苦手でさ、だからいらないっていっただけで……」
「それだけ?」
「そしたら紅葉先輩が「キスするとき大変ね。ゴム越しにするの?」とか言い出してさ」
「あたしもバカだからゴム越しにジュース飲めばって言い返しちゃって……」
「それを俺が下手に止めに入ったから……」
「ふーん。で紅葉先輩は?」
「逃げられた」
「さすが総体入賞しただけあるな」
 妙な感心を覚えてしまうが、問題はそこでは無い。
「んでも、アヤッチ、なんでそんなに気にするの? サトミンは別にばっちくないよ?」
「ばっちくないって……」
 ぞんざいに扱われることに不満気な里美は両手をじっとみてしまう。そうしたところで細菌が見えるわけも無いが、みょうな敗北感があった。
「いや、その、なんつうの? 性格っていうか、性質っていうか、とにかく、その……」
「昔は普通だったじゃん。回し飲みとかしてたし、みんなでお好み焼きとか食べてたしさ」
「へえ、いいな。どこの?」
「んとね、ウチの中学校の近くにあるんだけど、安くてボリュームがあるの。キャベツばっかりだけどね。そうだ、今度みんなで一緒に行こうよ。あやっちとサトミンの祝勝会にさ」
 脱線から和解の場所へと持っていく手並は強引ながらも、彼女の人懐っこい笑顔ならそれも自然を装える。
「そうね、それいいかも」
 総体が終わったあとはテスト期間が重なったせいで特になにもなかったことを不満に思っていた里美は、これ幸いとばかりに手を合わせて賛成する。
「ゴメン、あたしパス。悪いな」
 しかし、肝心の綾はそれだけ言うとそのまま保健室を後にしてしまう。
「何よ、綾ったら感じ悪い!」
「まあまあ里美さんも怒らないで……」
 ヤカンがごとく沸騰する里美に対し、煽るようなフォローをしてしまう紀夫を、理恵は内心「それがよくないのに」とため息を着いた。

**――**

 お昼を軽く済ませた程度だった紀夫たちは、昼間理恵が話題にした例のお好み焼き屋へと寄り道していた。
 店内では部活帰りの中学生が多く、ジュージューと生地の焼ける音と、青海苔と鰹節、他に豚肉の食欲をそそる匂いがした。
「でね、ここはとろろ昆布をいれて、あと山芋が入ってるから生地が崩れにくくなるの」
 理恵は得意そうにヘラを振るい、ブタ玉とイカ玉を焼いていた。
「へー、上手だね」
 里美も真似しようとエビ玉の生地で円を描くが、途中でブタ玉とくっ付いてしまう。
「あらら、サトミンってばお好み焼きでもノリチンと一緒がいいの?」
「な、馬鹿言わないでよ! 別にそんなんじゃないわよ」
 口を尖らせて抗議する里美はそのままヘラで紀夫の領土の一部を奪う。
「あ、ちょっと!」
「へへーんだ、ご祝儀って奴ね」
「それじゃあたしのもあげるね」
 今度はイカ玉の領土が献上され、倍近い島を成す里美のエビ玉……だが、
「あ、そろそろ返さないと焦げるんじゃない?」
 裏返しにするとこんがりキツネ色になっており、理恵は一回り小さくなったブタ玉とイカ玉をくるりと反転させる。
「すごい、理恵さん上手だね」
「えへへ、お好み焼きとホットケーキは得意なの」
 素直に照れる理恵が頬を掻くと、その拍子に青海苔が舞って鼻の頭についてしまう。
「理恵さん、鼻についてるよ……」
 お手拭でそれをちょんちょんと取ってあげると理恵は舌を出してはにかむ。
 その様子は高校生のカップルを彷彿させるワンシーンであり、横目で睨んでいた里美は正直面白くない。とはいえ、目の前の領土は焦げた匂いがしだし、それどころでもない。
「よい……しょっと!」
 両手に持ったヘラで裏返すも重量オーバーなせいで三割ほど不時着……。
「あーあ、失敗しちゃった……」
 しょんぼりする里美はヘラと割り箸でなんとかフォローするも、重なった部分は既に癒着してしまう。
「元気だしてよ里美さん。俺のを少し食べていいからさ」
 理恵の焼いた綺麗な丸の一部が差し出され、代わりに領土の一部が返還される。
「ありがと……」
「ならあたしも」
 遠慮なく一部を切り取り、代わりにイカの脚の見える扇型がやってくる。
「わーい」
 特製ソースを少し焦がしてから頬張るのが「通」らしく、カツオ節を躍らせながらがぶりと一口。
 青海苔の風味とフンワリもちもちした歯ごたえ、極限まで細く刻まれたキャベツにしっかり火が通っており、ブタの過剰な肉汁とが重なり、塩気も甘みも充分だった。
「う~ん、熱いけど美味しい!」
 口の中を焼けどしそうになりながらお冷と交互に口に運ぶ里美。理恵はさらに紅しょうがを加え、酸味を楽しんでいた。

「ねえ、そっちのエビの奴美味しい?」
「うん。あ、俺もイカの少しちょうだいね」
「あ、ここはマヨネーズをもっとかけないと……」
「テンカスが入ってるんだ?」
「昆布かな? なんかぬるっとして美味しいね」

 三人のヘラが仲良く交差しつつ、あれよこれよと話しているうちにオヤツにしてはややボリュームのある三玉が平らげられてしまう。
「ふう、お腹一杯……」
「うん。ちょっと動けない……」
 別段込んでいるわけでもないと長居を決め込む三人は、背もたれに深くかかり「ふう」と満足気なため息を漏らす。
「……やっぱりお好み焼きは皆でわいわい食べるのが楽しいし美味しいのよ」
「そうだな。俺も初めてお店で食べたけど、家で食べるよりずっと美味しかった」
「なんであやっち、来なかったんだろ……」
 まったり具合に横槍を入れる一言に二人は苦笑い。とはいえ同級生、同部員である綾を無視し続けるわけにもいかず、すこしばっかり陰が差す。
「綾って昔はどうだったの? っていうか何時からあんなふうになったんだっけ?」
「んとね、中学三年かな? アヤッチに彼氏が出来たとかそんな話で盛り上ってたんだけどさ……」
「かれしぃ~?」
 明らかに不機嫌そうに聞き返す里美と「妥当かな?」と首を傾げる紀夫。理恵は里美のリアクションを見て、内心「羨ましい」のだろうと笑いを堪えつつ続ける。
「でね、受験だったし、遊ぶ余裕もないから別れたんだってさ。多分それだと思うけど、違うかな?」
「へー、そうなんだ。でも、彼氏を振ったにせよ振られたにせよ、男を嫌いになるならともかく……」
 拒まれたのは紀夫だけではなく里美も……。
 この原因を調査究明しない限りは今の状況が続くわけで、それはあまり部の雰囲気にとって良いことではない。それでなくともまとまりの無い部であり、このままでは来年の新入生に示しがつかない。それは根っからの運動部員である里美にとって、由々しき事態なのである。
「アヤッチってさ、結構どころか、かなり思い込みが激しくてね、一度こうだ! って決めちゃうと人の話全然聞かないの」
 ここ三ヶ月、練習のときの彼女を見ていたが、たまに来る先輩の美奈子の助言についても断ることが多かったのを覚えている。むしろ良くそこまで扱いづらい後輩に手を焼こうとする美奈子に部活愛を感じたほどだった。
「天才肌っていうのかな? ちょっぴり付き合いづらいの」
「あーそれわかる。だからあたしも……」
 胸の前で手をぎゅっと握る里美は何かを思い出しているようだが、ここを突くと余計な話に脱線しかねないと敢えて放置する。
 むしろ紀夫としては別件でもう一つ気になることがあったりもしたわけで……。

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