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僕とあたしの海辺の事件慕_07

探し物

▼▽――△▲

 夏の海を楽しんだ三人は、日が沈む頃にようやく家路についた。

「はぁ、海は楽しんだけどさ、後始末がね……」

 海辺のシャワーを浴びたものの、まだ潮の香りが漂い、またべとつく感じが不快。

「そうですね。早くお風呂はいって落とさないと」

 澪は皮膚に張り付く塩をパラパラと落としながら、ニガリと塩気のある腕をぺロリと舐める。

「でも、なんだか怖い建物よね……このペンション」

 日が落ちると玄関に飾られていた時代めいたランプには電気が通っており、親指大の蛾が群がっていた。

「まあね。っていうかここ、昔病院だったし」
「え?」

 衝撃の告白に目を丸くする澪。彼女は幽霊や物の怪の類は好きではなかった。ホラー映画を見るときは部屋を必要以上に明るくし、トイレは見る前に行き、観覧中は絶対に水分を取らない。さらに言うと夏であっても毛布を頭から被り、窓は絶対に開けないほどの徹底振りだ。
 もちろん病院が怖いわけではないが、それについてくる尾ひれはひれには、例え嘘であっても拒絶反応を示してしまう。

「大丈夫だよ、澪。そんなに怖がらなくてもさ」
「あたしは別に怖がってなんか……」
「そうよ。皆気のいいお化けだし!」
「いやー!」

 耳を塞いで金切り声を上げる澪はそのまましゃがみ込み、宥める真琴の言葉にも首を振るばかり。

「うふふ、冗談よ……」
「どうかなさいましたか?」

 扉が開き、中から中年の男性が顔を出す。黒のズボンにワイシャツ、蝶ネクタイ。前掛けのような茶色のそれはタブリエと呼ばれるらしく、身なりから判断するにソムリエなのだろう。

「あら三崎さん。あはは、ちょっとイタズラが過ぎてね、それで……」
「はは、そうでしたか。私はてっきり出たのかと思いましたよ。もうすぐお盆ですし」

 状況を把握した三崎はにやりと笑うと口裏を合わせる。

「やめてー!」

 ようやく立ち上がったものの再び尻餅をつく澪。海辺のひとときは楽しかったものの、ペンションホネオリに不安を抱いたのも事実だった。

◆◇――◇◆

 腰砕けになっている澪をどうにか食堂まで連れて行った真琴は、夕食までの間、荷物を部屋に持っていくことにした。何故か理恵の分も持っていくことになったが、泊めてもらうのだからと文句も言えない。
 階段はどこか学校の階段のようなつくりでやけに幅が広い。もともとが病院だとすれば人の出入りもあるのだと納得がいく。

 二階につくとカウンターのような窓口のある一室があり、そこを中心にシンメトリー構造になっていた。
 西側は二〇一から二〇三まであり、東側は二〇五から二〇六まである。

「えっと、真琴さんの部屋はこちらで~す」

 従業員の進藤美羽は間延びした声で手招きする。
 彼が案内された部屋は二〇二号室。
 部屋はどれも六畳一間の一人部屋らしく、ベッドとタンス、テレビやシャワーは無いもののトイレが設置されていた。また、大きめな窓からは御前海岸が見え、遠くには小高い丘と灯台の明かりが見える。時折吹く潮風が心地よく、風鈴のリーンと言う音がすがすがしい。

「結構広いんですね」
「ええ、もともとは二人部屋だったところを一人部屋にしたみたいですから」
「やっぱり病院だったんですか?」

 シックな色合いの壁紙で舗装されているが、周囲にある金属の手すりは錆が目立つ。

「ええ、でもずっと前だし、今は街の方に移ったみたいですよ」

 ――澪が怖がるかもなあ……。

 荷物の整頓もそこそこに、理恵の部屋、二〇一号室へ行く。
 元病室であった部屋のつくりはほぼ同一であり、隣の部屋から伸びている手すりが切断されていた。また、窓が一つ多く、外に灯台が見えた。

「ふう……重かった」
「理恵お嬢さんはこの部屋が好きなんですよ」
「外が見えるし、いい部屋ですもんね」
「うふふ。それだけじゃないですよ」

 含み笑いをする美羽は優しそうな垂れ目をにやつかせ、カチューシャで纏められた前髪を揺らしながら今にも大笑いしそうになるのを我慢している。

「それってもしかして……」
「内緒です」

 ピンクの唇の前で人差し指を立てる彼女に、真琴は可愛らしいと思っていた。

***

 荷物を置いてくると、既に夕飯の支度がされていた。
 食堂は診療室を改造したのだろうか? ならば調理場は手術室……?
 不気味な想像に首を振る真琴は、澪の隣に腰をかける。
 白いテーブルクロスの引かれたテーブルの上には不釣合いかもしれないが、尾頭付きの鯛の刺身があり、鯖の黄身酢和え、わかめとエビ、ホタテのサラダにハマグリのお吸い物。山菜の味付けごはんから良い香りが漂い、空きっぱなしのおなかがキュウと鳴る。

「ちょっと真琴ったら、恥ずかしいわね……」
「ゴメン……えへへ」

 戸が開くと美羽が串焼きの魚を持ってくる。塩の焦げた跡とカボスの爽やかな酸味に口腔内ではフライング気味な涎が溢れ、ついつい凝視してしまう。

「えっとこれはなんていう魚です?」

 空腹を誤魔化そうと身近にいた美羽に質問する。

「えっとこれは~、なんでしたっけ?」

 しかし彼女は右上を見て首を傾げるばかり。

「それはスズキです。出世魚ですので縁起物でもありますよ」

 和弥に渡しながらもう一人の従業員が答える。

「そういえば親父、一代の立身出世だからな……。なんつうか、記念日とか給料日のたんびにスズキ食ったけ」

 昔を懐かしむように弥彦が言うと、和弥は「嫌いじゃないが、好きにもなれないってとこだな」と皮肉を言う。

「あら和弥兄様、私の料理に文句を言うつもりかしら?」

 白衣とコック帽姿の女性が手を拭きながらやってきて、弥彦の下座に腰をかける。三崎に「亮治さん、私にはロゼを」と言い、グラスをくゆらせて兄を睨む。

「いや、公子の料理に文句はないさ。ただ、クリスマスにスズキを食べるのもどうかってことさ」
「まあ、それはそうかもね……」

 くいっと食前酒を煽る公子は二人と比べて一回り年下に見える。

「何を言ってるかと思えば……」

 仰々しく扉が開くと久弥が杖をつきながらやってくる。しかし、昼間見たときはそんなものは持っておらず、今も足取りは軽やかで、どちらかというと杖の扱いにもたついているようにも見える。

「なんだよ親父、杖なんかついちゃって……」
「ふぅ……ワシも寄る年波には勝てんらしい。今はコレが手放せそうに無いんじゃ……」
「なら会社は? 社長はもう……」
「いや、それはまた別の話じゃ」

 ぱっと額を……もとい表情を輝かせる弥彦に対し、久弥は剃り跡の目立たない顎を撫でながらしれっと答える。

「あきらめろ。父さんは死ぬまで現役だろうさ……」

 手酌をしようとする弥彦にビールを注ぐ和弥は、どこか誇らしげに見える。

「でも父様、なんであんな話を?」

 そろそろ本題に入ろうと公子が先を促すと、久弥は急にしょぼくれた風を装い、声のトーンを落とし始める。

「有無、実をいうとな、ワシも来年で六十六を迎える。見ての通りの老いぼれになりさがり、最近は死んだばあさんが枕元でおいでおいでをする始末じゃ」
「……どっちかっていうと「まだくるな」かもね」

 小声で皮肉を言う公子に、弥彦は「違いない」と含み笑い。

「あの世に金はおろか会社ももっていけん。そこで事業を整理していこうと思っておる」
「まずこのペンションからってことですか? おじい様」

 グラスにはウーロン茶が注がれており、残念そうに酒瓶を見ていた理恵が口を開く。

「うむ。じゃが、ここはワシにとっても思い入れのある場所。そこをよく理解してくれるものに相続してもらいたい」
「……ペンションの相続なんて、なんか雲の上の話ね……」
「……うん。僕らには関係ない世界だよ……」

 乾杯を待つ二人にしてみればペンションの経営よりも、目の前のご馳走が冷めないか気になってしまう。

「考えたのじゃが、昔この診療所でお世話になった人がいてな、その人が……これ、紗江君」
「はい……」

 紗江と呼ばれる従業員が持ち出してきたのは立派な額縁に入った陳腐な絵。
 中央に松林があり、その両脇に灯台が立っている。構図はシンメトリーではなく、灯台の高さが違い、他にも陰影などがでたらめであった。
 パステルカラーの絵の具はところどころ剥げており、青い空も若干黄ばんで見えるところから、値打ちものという印象もない。

「父さん、まさか買ったのか?」
「ワシの絵じゃ、馬鹿たれ」
「おじい様の絵でしたの……。でもそれがどうかしたの?」
「まあ聞け。その知り合いにこの絵をプレゼントしたんじゃが、彼女は私に対し「この絵の中央の見えない場所にお返しを隠しておく」と言ったんじゃ」
「まさか親父、それを探せって言うのかい?」

 呆気に取られる一同に対し鷹揚に頷く久弥。

「うむ。ワシの知り合いが隠したお返しとやらを見つけてきた者にこのペンションの相続権を与えよう。ただし、三日たっても見つからない場合は、ワシが指名しよう」

 無茶な提案にも関わらず、弥彦はやる気マンマンで拳を握る。

「父さん、それはもしかして……」

 弟ののん気な態度に頭を抱える和弥に対し、久弥は勝ち誇ったように笑みを浮かべる。

「ふふ、和弥、いつでも戻ってこいといっているはずじゃが?」
「父様、私が見つけた場合は……?」

 条件に目を輝かせたのは弥彦だけではなく、公子もまた乗り気の様子で身を乗り出す。

「うむ。お前のものじゃな」
「じゃあ私が見つけた場合はどうします? 他にもこの子達が見つけた場合は?」

 理恵は冗談交じりに真琴たちを指差して聞く。

「そうか、彼らが見つけた場合は……、理恵、お主の連れじゃからお前の手柄ということにしようかの」
「へー、それならがんばらないとね。期待してるわよ? 真琴君」
「え、そんな……」

 相続ゲームに参加することとなった真琴たちは顔を見合わせてしまう。

「がんばるがよい、若者よ」

 満足そうに笑う久弥に真琴はどことなく反発を覚えてしまう。
 きっとこの子達に見つけられるはずが無い。そんな予想。

「ええ、がんばりますよ。ね、澪」
「え? そう? うん、がんばってね」

 どこか心ここにあらずな澪は部屋の隅を見たりと、何かに怯えている様子。

「よし、それでは諸君の健闘を祈って乾杯!」

 久弥が高らかに掲げるグラスに向い、全員の視線が交差した……。

続き

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