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僕とあたしの浜辺の事件慕_08

出世魚

 公子が腕を振るって作った夕飯はどれも美味しく、スズキの串焼きは一見手が込んでみえないが、開きになっており、内臓と一緒に取り除かれた骨の代わりにシソと昆布のうまみが添えられた練梅が甘ずっぱく、表面の焦げた塩がそれを引き出していた。
「スズキがこんなにおいしいなんて、料亭のメニューみたいです」

 料亭など行ったことも無い真琴が感心したように呟く。けれどそれは他の面々も同じ感想らしく、つまらない魚と評価していた和弥でさえも「これは旨い」と舌鼓を打っていた。

「料亭っていうか、料亭で学んだんだけどね」

 得意げな公子は刺身と合いそうに無い赤ワインをくゆらせている。

「そういえば公子、お前仕事は……?」
「えへへ、辞めちゃった……」

 舌をぺロリと出す公子にやれやれという風の和弥。

「なんだよ。今度宴会に使おうって思ってたのに……」

 残念だと言いながらどんどん料理を平らげる弥彦は、どれを食べても旨いを繰り返す。

「ふむ。まあ若い頃の苦労は買ってでもするべきだが、安易な逃げはよくないぞ」
「だってぇ、料理長のセクハラが酷くってさ……私何回もお尻触られて、その気もないのに誘ってくるしさ、うざくなって……」
「まあ男所帯の仕事場ではそれも仕方あるまい。お前が選んだ仕事なのだ。妥協するのは感心しないな」

 カクシャクとした態度の久弥は、年の離れた娘を低い声でしかりつける。

「ごめんなさい」

 シュンと縮こまる彼女は実年齢が気になるほど子供っぽく見え、久弥は年の離れた子を叱りきれずにいるように見えた。

「ちなみに、その料理長、名前はなんという?」
「え? ああ、佐々木隆一っていうけど……」
「まだそこで働いているのかね?」
「多分……」
「そうか……ふふ……わかった」

 意味深な含み笑いに澪も真琴も背筋が寒くなるのを覚えつつ、この一族に下手に逆らわないほうがよいと学ぶ。

「でも叔母様、とても料理が上手だし、どこでもすぐに雇ってもらえますわ」
「ありがとう、理恵ちゃん。でも叔母様はやめてよね。あたしまだ二九よ? 叔母さんは一年待ってくれないかしら?」

 三十路一歩手前の公子はまだニ十で通るほどの肌をしており、服装のせいで隠れているが、たまに腰を捩るときの仕草がセクシーだった。

「なら、公子お姉さまね」
「あら可愛い姪ね」
「公子お姉さま、私にも一杯……」

 ウーロン茶を飲み干したグラスを差し出すも、ワインボトルはそっぽを向けられる。

「お酒は二十歳になってから……もう一年待ちましょうか?」
「あらら、せっかくお姉さまと飲みたかったんだけど……、しょうがない、来年叔母さんと一緒に飲みますわ……」
「もう、可愛くない子ね」

 そういうと公子はつまらなそうにグラスを煽った。

「ふふふ、公子、一本取られたな」

 久弥にしてみればどちらも可愛い娘と孫らしく、二人の掛け合いを楽しそうに見つめていた。

▼▽――△▲

 夕食が済むと久弥は紗江に手を引かれ、そうそうに部屋に戻っていった。本人は弱々しい老人を演じているつもりなのだろうけれど、若い娘と手を繋ぐスケベジジイにしか見えなかった。
 弥彦は料理を全部平らげたあと、絵を睨みつけて何処かへ向い、公子もまたそれに倣っていた。

「和弥おじ様は行かないの?」

 ビールを飲み続ける和弥はタバコを吸いたいのか右手でテーブルの上をトントンと叩いており、落ち着かない様子。

「ああ、どうせ父さんは俺に相続させるつもりだろうからな」

 傲慢とも取れる発言だが、当人はどこかつまらなさそうにしている。
 ペンションの相続といえば単純に資産が増えることでもあり、喜ばしいことなのではと澪は頭を捻る。

「嬉しくないんですか?」
「ああ? まあ、そうだな。これは推測だが、多分相続に条件をつけてくると思うよ。処分はワシが死ぬまで許可しないとかな」

 美羽が運んできた海産煎餅を割りながら言う和弥。

「冗談じゃないよ。こっちは仕事が忙しいっていうのに、さらに赤字ペンションの経営なんて……」

 喉をゴクゴク鳴らしながらグラスを呷る。理恵がお代わりを勧めるとグラスを傾け、ついでに彼女にも勧める。

「いいの? 理恵さん」
「硬いこと言わないの。数え年ならニ十だし」

 ようやくありつけたアルコールに上機嫌の理恵は口を付けゴクリと呷る。

「でもお返しが見つかればいんじゃないんですか?」
「ああ、だが、親父だってずっとさがしていたんだろ? あの話だと親父が子供の頃のことだし、多分半世紀前のことだぞ?」

 五十年近く前の遺物を探せと言えばそれは確かに無理なこと。ペンション自体改装を重ねているらしく、場合によっては工事のさなか紛失されたことも考えられる。

「そうですか。でも一応探してみますね」

 真琴は食堂にある例の絵に歩み寄り、携帯電話で写真を撮ると、そのまま食堂を出て行ってしまう。澪も追いかけるべきかと悩んだが、色とりどりのワインを見ているとこっそり味見してみたいという欲求が生まれてくる。

「そうかい? まあ、せっかく来たんだから老人の思い出に時間を費やすよりも、楽しい思い出を作っていってもらいたいのだがな……」

 頬を赤く染めた和弥は上機嫌な様子で理恵に別のワインを勧めていた。

「理恵さん、あたしにも……」

 グラスを差し出す澪に対し、理恵はふふっと笑い、

「お酒は二十歳になってから……」

 世の無情、矛盾を感じるには充分なはからいであった。

続き

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