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僕とあたしの海辺の事件慕_09

カクリシセツ?

 ノンアルコールを言い渡された澪は一人つまらなそうに食堂を後にした。
 元病院という薄気味悪いペンションで宝探しに興じることなどできず、かといって一人病室に戻る気にもなれなかった。
 ひとまず灯りのある部屋へと向う。そこは亮治が仕事中寝泊りしている部屋らしく簡易ベッドと洋服ダンス、書類や宿泊客名簿、金庫などがおいてあった。
 しかし、今時間帯は亮治はまだ仕事らしく、代わりに弥彦と真琴の姿があり、他人の部屋というのに遠慮もなしに部屋を荒らし、赤い数字の並ぶ書類を見つめていた。

「こっちも大変そうね……ここにありそうなの?」

 さりとて興味のあることでもないが、それぐらいしか話もないと水を向ける。

「多分ないと思う。けど、今ぐらいしか探せそうに無いしね」

 弥彦は書類の束、アナログなノートとにらめっこをしており、首をかしげたあと、テーブルに置く。

「手がかりとかあるの?」

 何の気なしにノートを開いてみるとそれは帳簿らしく、赤い文字がいくつかある。簿記を知らない澪で
もそれが意味することは理解でき、和弥の言っていた「赤字経営」という言葉を思い出していた。

「これはこれは、皆様おそろいで……」

 やってきたのはこの部屋を預かる亮治本人。彼は散らかされた部屋に動じることなく、蝶ネクタイを解いたラフな格好でいた。

「おおすまん。亮治君。勝手に調べさせてもらっていて悪かったな。今移動するから……」

 散らかすだけ散らかすも片付けるのは専門外らしく、弥彦はでかかった腹の割りに軽快なフットワークで部屋を出る。

「すみません。今片付けますから……」

 逃げ遅れた真琴はしょうがなしに書類を番号日付ごとに分類始める。

「どうかお気になさらずに……といいたいところですが、さすがに一人では大変か……お願いしますね」

 亮治はタブリエを無造作にクローゼットへ放り込むと、早速部屋の片づけを始めた。

***

 書類の束を仕分けする澪と棚に収める真琴。亮治は本棚と帳簿を整理していた。

「そういえば亮治さん、ここって昔は病院だったみたいですけど……」

 作業に飽きたらしく真琴が余計なことを言う。

「ええ……、知りたいですか?」
「はい」

 真琴の即答にしばし上を見つめ、何かを考える様子の亮治。しばらくすると営業スマイルに戻り、静かに口を開く。

「実はここ、昔は療養所とい名目ですが、ほんとうのところは隔離施設だったのです」
「隔離施設?」
「ええ、ハンセン病などがそうですね。今でこそ直る病気でも昔は不治の病。もしくは、忌避する対象でしたから……」
「真琴、ハンセン病って何?」
「ん~と、顔とかの皮膚にできものみたいのができるっていうか、すごく人相に影響する病気で、場合によっては感染しちゃうこともあるみたいなんだ」
「え! それって大丈夫なの?」
「うん。感染っていう言葉がひとり歩きしちゃってるとこが問題でね、大げさになりすぎちゃうんだ」
「よく知っていますね。当時は治る治らないは別として、系譜に対する病気という噂もあり、ここへ隔離したそうです」
「系譜?」
「多分だけど、なりやすい人達っていうふうなレッテルを貼ったんじゃないかな? ほら、村八分みたいなさ」
「ハンセン病患者であることを隠すためにここへ閉じ込め、時期が来たら近くの崖から……」
「やめて~……」

 すっかり怯えてしまった澪は仕分けも出来ずに耳を塞ぐ。

「そのせいかこのペンション、夜になると無念のまま殺された人たちの声が病室に響くそうです……」
「ひぃ……」

 それでも聞こえているらしく小さく悲鳴をひねり出す。

「もう、そこら辺にしてくださいよ。澪、大丈夫だよ。僕がいるからさ……」
「何よ、アンタがいたからってどうだって言うのよ。あんたなんか全然頼りにならないし……」

 今にも泣き出しそうになる澪を抱え、真琴は部屋をあとにする。亮治はその様子にもスマイルを崩さなかった。

◆◇――◇◆

 執務室を出るころには食堂の明かりは消えており、ロビーに常夜灯の灯りが見える。
 時計を見るとまだ八時半を過ぎたところ。昼間遊び疲れたとはいえ今のまま寝かしつけるのも不可能と、灯りのもれる応接間へと向う。

「あら、澪ちゃん、真琴君、仲がいいわね。嫉妬しちゃうわ……」

 部屋には頬を良い色に染めた理恵が居り、風呂上りなのかタオルで頭を巻いていた。

「のん気な話じゃないですよ。理恵さん、このペンション、夜になるとお化けの声がするって……」
「ああ、あれね……ふふ、今にしても腹が立つわ。まったく……」

 苦々しげに呟く理恵は目を細め、「ちっ」と舌打ちする。
 そういえば理恵はこのペンションに対し、何かよくない思い出があるようだが……?

「そうねえ、もしかしたら澪ちゃんの部屋なんか危ないかも、若い子が好きだから……」

 と思っていたら今度は楽しそうな含み笑いを浮かべて言う。

「若くてって……、あたしも理恵さんもそう変わらないじゃないですか……」
「一般論よ。それじゃね、あたしはもう寝るわ」

 後手を振る理恵は酔いもあってか上機嫌で去っていく。

「真琴……」

 それとは対照的に澪は真っ青な顔になっていた。

「あたし、今日は眠らない。んーん、明日も明後日も……」
「無理だよ澪。っていうか、そんなこと無いし平気だよ。理恵さんは人をからかって遊ぶのが好きなだけだし……」
「じゃあ亮治さんは? あの人も?」
「それは……でも、死んだ人が来ると思う?」
「だって……、あ、そうか、多分そういうお化けのせいでここは赤字なのよ。だってそうじゃない? そんなところに泊まりたい人なんていないわよ」

 いくつか論理の飛躍があるものの、大筋では同意できないことも無い意見。とはいえ、恐怖にまつわる感情は理詰めで諭せることでもなく、もし本当に彼女が寝ずの番をしていたら大変と、真琴は悩んでしまう。

「なら、今日は一緒に寝る?」
「え?」
「僕と一緒なら怖くないでしょ?」
「やめてよね。アンタと一緒じゃ貞操の危機だわ!」

 真っ赤になって反論する澪は真琴の手を払い、そのまま部屋を出る。

「澪? どこへ行くの? 一人で大丈夫?」
「うるさい、子ども扱いするな。っていうかお風呂。一人でいいわ!」

 先ほどまで怯えていたのも嘘のよう。澪はぷりぷり怒りながら部屋を出て行ってしまった。

続き

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