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僕とあたしの海辺の事件慕_10

コワクナイモン

 一人応接間に残された真琴は携帯を開き、久弥が描いたとされる絵を見ていた。
 歪なシンメトリーの絵は絵の左右から光源が当たっているかのようで、中心へ向って影が伸びている。
 松林を見下ろすところを考えると、平地からではないのが分かる。描いた本人はここに入院していたというのだから、おそらく二階からの景色だろう。
 問題は海が描かれていない点。というより、無理矢理切り取られている印象もある。

 ――右、まあ左かもしれないけど見ればすぐに海があるのにどうしてだろ? 写生ってわけじゃないのかな? でも入院患者が描く不可思議な絵をもらって嬉しいものかな? 何か理由があるのかもしれないけど……。

 絵の謎を解くというにはまだ情報が少ない。そもそも久弥がどういう意図で描いたことから調べる必要があるが、当人は既に二階で高いびき。かといって乗り気ではない和弥が答えるとも思えず、弥彦なら大切な情報を漏らしたりしないだろう。

 ――しょうがない。明日にするか……。

 携帯をしまい腰をゆっくりと上げる。すると扉のほうでノックの音が……、

「は、はい? 開いてますよ?」

 先ほど亮治に聞かされた言葉を思い出す。

『このペンション、夜になると無念のまま殺された人たちの声が病室に響くそうです……』

 非科学的なことは信じないというスタンスの真琴だが、信じることと怖れることは背反せずに存在するらしく、若干腰が退けていた。

「……あ、あのね、真琴。別に怖いとかじゃなくて……」

 ぎぃと開いたドアの向こうには、バスタオルを身体に巻いただけの澪がいた。

▼▽――△▲

 風呂に入ろうとしたら外から物音がした。ついで男の人の声が聞こえたのだ。

 ――もしかして覗き?

 そう思ったらいてもたってもいられず、澪は濡れた髪もそこそこにタオル一枚で脱衣場を飛び出した。

「で、僕にどうしろって……?」

 いつもなら変なところに気がつく真琴なのに、こういう時だけ妙に勘が鈍い。

「だから、あたしがお風呂入ってる間、外で見張っててよ」
「えー、そんな~」
「だって、海水がべとつくし、これじゃ寝られないよ」
「寝ないんじゃないの?」
「いいの。あんたは見張ってなさい!」

 揚げ足を取られた澪は理屈っぽい幼馴染の耳を引っ張ると、そのまま脱衣所へと連れて行った。

***

「いい? 絶対に居てよ?」
「うん、分かってるよ」

 スモークガラス越しに会話する二人。
 澪はようやく落ち着いたらしく、シャワー片手に髪に絡みついた塩分を洗い流していく。
 そもそもこの無駄に広い浴場がいけない。浴槽だけで三畳程度、洗い場はさらに五畳。カランの前立てば背後が無限に気になってしまう。
 つくづく自分は小市民と思う澪であった。

「んー」
「どうしたの澪?」
「目にシャンプー入った……」
「そ」

 大したことないと肩を竦める様子がモザイク越しに見える。けれど澪にとってみれば一大事であり、さらに弱り目には祟り目が重なり……、

「ん? なに? これ……きゃっ!」
「どうしたの澪?」
「わ、わ、わ、真琴、来て、あたし、駄目なの……」

 「来て」の言葉にガラリと戸を開く真琴。Tシャツ、トランクス姿の真琴が駆け出し、水道の下を指差す澪に駆け寄る。

「く、蜘蛛……、蜘蛛なの……」

 よく目を凝らすと足の長い蜘蛛が流れるお湯を避けるようにタイルの上を闊歩していた。
 田舎に居る蜘蛛は何故こうも大きくなるのだろうと思いつつ、真琴は桶に誘導し、窓を開けて蜘蛛を放していた。

「はあ……怖かった」
「あはは、澪ってば可愛い。蜘蛛に怯えちゃってさ……」
「しょうがないじゃない、苦手なんだから……」

 生意気を言う幼馴染に鉄槌とばかりに桶の水をバシャリ!

「うわ! ととっと……!」

 不意打ちに足を滑らせた真琴は大浴場にお尻からボッチャン!

「もう、酷いよ澪……」
「ふんだ、乙女を哂った罰。自業自得よ……あ、こっち見るなー」

 びしょ濡れになった真琴の恨めしそうな視線を感じ、澪は手で胸を隠し、内股になる。

「……恥ずかしがることないじゃん、初めてじゃないんだし」

 真琴は浴槽から出るとシャツを脱ぎ、ぎゅっと絞る。

「澪の裸、綺麗だと思うよ」
「乙女心っていうのは複雑なのよ」

 背中を向ける澪は近づく足音に身体を強張らせる。

「僕、最近それが全然わからないんだ。ねえ澪、教えてくれない?」

 右肩に手を添えられ、濡れた髪が左肩を刺す。

「ちょっとやそっとじゃ分からないもんなのよ……」
「ずるいよ、澪ばっかりさ……」

 肩を滑る手が胸を隠す腕を払い、下から這うように乳房を登り、揉み始める。

「ん……」

 真琴を呼びに行った時点でこうなるかもしれないと予想はついていた。それでも敢えて彼を呼んだのは、何も大きな風呂やペンションの外観が怖いだけではない。
 たまにほしくなる心の栄養成分。愛欲を補給したかったから……。

続き

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