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僕とあたしの海辺の事件慕_12

東の灯台

◆◇――◇◆

 枕が違うせいか、目が覚めたのは早朝と呼べる時間帯。他の人を起こしてはいけないと、真琴はしのび足で階段を降りた。
 玄関の鍵が開いており、窓から見える陽射しが眩しかった。
 まだ夜の涼しさがあるので、散歩するのに丁度よいと外へ出る。東の空を染める太陽は闇を剥ぎとり、ぐんぐんと昇っていく。

「ほう、真琴君とやら、朝が早いのう」

 松林のほうからタオル片手に歩いてくるのは久弥。昨日はよる年波などと言っておきながら、早朝から浜辺を散歩とは、やはり食えない老人である。

「あ、久弥さん。おはようございます。散歩ですか?」
「ああ、ワシのライフワークじゃな。朝の海辺は格別じゃから、君も暇なら行ってみると良い。それじゃあワシは先にフロを浴びてくる……」

 元気な老人は額の汗を拭い、そのままペンションへと向う。

「朝の海か、出来れば澪と……なんてね……」

 昨日確かめあった気持ちはまだ心の中でざわめいている。興奮が抑えられなかったのが早起きの原因かもしれないと、未だ夢の中にいる澪が少し恨めしくもなる。

 ――いやいやいや、それより……灯台に行こう。

 早朝の海もいいが、今は絵の謎を解くことの方が彼にとって魅力的であった。

***

 東の灯台までは結構な距離があり、急ぎ足で十分ほど。今はもう使われていないらしく、注意の看板はあるものの見学自由となっていた。
 真琴は早速螺階段を駆け上がり、展望台を目指す。けれど早朝マラソンと階段駆け上がり、空腹も重なってか少々ばて気味でもある。

 ――ふう……、やっぱ運動不足かな……。

 ようやくたどり着く頃には息も上がり、へたり込むしまつ。それでも四つん這いになりながら展望室に入り、壁伝いになんとか立ち上がる。
 三六〇度パノラマな部屋は有料の望遠鏡が設置されているだけで特にめぼしいものも無い。ポケットにあった百円玉を取り出し、料金箱に入れる。かちゃりと音を立てながら望遠鏡の視界が明るくなる。
 海を見ると早朝にも関わらず波を相手にするサーファーがいたり、屋台やテントの設営に励む人が見える。

「もう仕事してるんだ。まあ遊んでる人もいるみたいだけど……」

 西、ペンションのほうへと向けると、松林に囲まれた建物が見える。近くにも数件似たような建物があり、もっと遠くには灯台が見えた。

 ――あの絵の灯台ってこっちなのかな? それともあっちなのかな?

 「灯台が二つある」なら既に条件を満たしている。けれど「海を挟まずに二つの灯台を絵に納める」というのなら無理がある。

 ――なんかおかしいなあ……。

 ひとまず風景を携帯に納め、他に気になる場所が無いか探してみる。
 西の灯台は東のなだらかな丘に比べて急勾配な丘であり、距離のせいでミニチュアにみえてしまうが松林を参考にで計ると、おおよそ二十メートル程度。崖の下をみると砂浜が途切れており、白い波しぶきが何度となく上がっている。
 さらに海上には赤いポールが並んでおり、遊泳禁止と明示されていた。

 ――もしかして本当に死体を捨てていたとかないよね。

 骨が沈む海だから禁止……。
 背筋が寒くなる妄想を振り払うもトイレが近くなったのを言い訳に、真琴はそそくさと灯台を後にした。

▼▽――△▲

 目を覚まして最初にすることは髪を梳かすこと。昨日はよく洗ったものの、どこかべたつく感があって落ち着かない。そしてジュンとする股間にも……。

 ――ああ、なんであたしってば……バカなんだから……。

 風呂場での痴態を思い出すと顔が真っ赤になる。
 見極めるつもりあっての「恋人以下宣言」も夏の熱気に中てられ、流されるままに求め合っていた。
 好き同士愛し合うのは自然なこと。けれど、自分の意思の弱さが嫌だった。

 ――真琴がいけないんだ。あたしが好きなこと知ってて梓と……。

 自分は単に嫉妬しているだけなのかもしれない。そう思うとヘアブラシを握る手に力が入り、絡まった毛がぶちりと抜けた。

「もう、なんであたしってこうなの?」

 複雑な恋模様もクセ毛のごとく抜けてしまえばとため息をつく澪だった。

***

 食堂へ行くとコーヒーの甘い香りが漂ってくる。
 朝食のフィッシュサンドを抓む真琴が気付いて手招きする。
 新聞を開きながらカップを取る和弥は目の前でだれている姪に対し、「コーヒーに塩を入れると酔い覚ましになるぞ」と塩とカップを向ける。

「うう……。おじ様それホント?」

 例え嘘と分かっていても塩を一さじ、スプーンをくるりと回転させて……、

「ん、ごく……、ってまっずー!」

 吐き出しそうになるのを堪えつつなんとか飲み干す理恵。

「理恵さん大丈夫ですか?」

 美羽は慌てて水を運んでくると理恵は奪うようにグラスを受け取り、ゴクゴクと飲む。

「ふふ、溺れるものは藁をも……いや、塩水を飲んだわけか……」
「おじ様感じ悪い……」

 やはり騙されたとごちる理恵は一緒に運ばれてきた梅干のおかゆを啜り始める。

「お酒は二十歳になってからですね」

 昨日の意趣返しとばかりに腰に手を当て勝ち誇る澪。

「うるさいわね……。っていうか、誰かさん達のせいで深酒したのよ」

 理恵は眉間に皺を寄せながらもにやっと笑って言い返す。

「誰かさん?」

 当の澪は気付いていないらしく、首を傾げてしまうが……、

「だ、だめぇ、真琴~、澪~、いっちゃいなよ~……」

 くねくねしながら嬌声を上げる理恵に誰かさん達は真っ赤になって縮こまる。

「あ、あはは、聞こえてましたか……」
「その、お風呂広かったし……ね、澪」
「馬鹿」
「ふー、若いうちはそういう火遊びもいいのかもね」

 新聞を折りたたむ和弥は美羽に食器を下げさせるとタバコを取り出し、席を立つ。

「おじ様寛大ですね。もし宏美ちゃんがしてたらどうします?」
「娘も年頃だから気にならないと言えばウソになる。けれど、宏美も一人の人格、縛ることはできないし、信じているよ」
「ご理解ある家庭ですこと……イチチ」

 苦々しく答える理恵に対し和弥は顎に手をつけ「ふむ」と頷く。

「もちろん、相手は別だがな……」

 眼鏡の奥で光る眼光は昨日の久弥と同じものがある。

「……怖いね」
「……うん」

 和弥がいなくなるまでの間二人は目を伏せる。

「理恵さんのとこの親戚って怖い人ばっかね……」

 気を取り直してサンドイッチに手を伸ばす澪。三角に切られたパンは焦げ目を入れられており、バターの塩気、パプリカの酸味とサーモンのまろやかな風味はが空腹の胃を締め付ける。

「公子さんは料理が上手だけど」
「そうねえ、でもウチの父さんは普通よ。公務員だし……、イタタ……」

 覚醒遺伝という言葉を思い出しつつも口には出さない。ただ、例の別荘で見た長身の青年の気苦労は、きっと今後も続くのだろうと人事ながら心配してしまう。

「理恵ちゃん二日酔いだったわね。えっとコーヒーに塩を入れると……」

 昨日と同じくコック姿の公子が前掛けで手を拭きながらやってくる。

「それはもう試しました……」

 ぴしゃりと手を返す理恵はコーヒーのお代わりをもらい、ミルクで冷ます。

「あれ、弥彦兄様は? まだ寝てるの?」
「ん、あそういえばいませんね」

 周囲を見回してもそれらしき人影は無い。昨日は暴れいのししのようにペンションをひっくり返していた彼ならどこにいても目立つはず……。

「えっとお、朝起こしに行ったところ、既に部屋にはいませんでしたよ」

 美羽は食器を片付ける手を止め、今朝の出来事を反芻する。

「多分、絵のことでも調べてるんでしょ? 弥彦兄様は良くも悪くもお父様の期待通りに動く人だし……」

 手製のサンドイッチを抓む彼女は昔のことを思い出してか、含み笑いをしている。

「弥彦おじ様が?」
「ええ、勝彦兄様も和弥兄様も二人とも久賀商事への就職蹴ったでしょ? 弥彦兄様だけお父様の跡を継ぐってはりきっててね」
「へえ」
「それに今回の絵の事だって多分お父様……、あー、なんかこっちを見てる人いるけど……」

 公子の視線の先には窓にべったり張り付く久弥の姿があった。
 どうやら自身にまつわる話だと妙に耳がよくなるらしく、ひとさし指を口にあてては「しー」と口を横に開いていた。

「……お父様、お年のわりに子供っぽいところ残ってるからさ、たまに相手してあげないとすぐ拗ねちゃうのよね。理恵ちゃんも暇だったら謎解きのフリぐらいしてあげてね?」
「二日酔いが治ったら……。それまでは真琴君、お願いね……」

 粥をずずずと啜る理恵はちらっと顔を上げ、熱心に携帯画像を見ている彼に手を振った。

続き

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