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僕とあたしの海辺の事件慕_19

岩場で……

 ……が、真琴が今一番気になるコトは絵の謎ではなく弥彦の件。
 彼は昼食を終えると海に誘う理恵を断り、一人で例の崖と岩礁地帯へと向った。
 崖を慎重に探すもそれらしい痕跡は見つからない。けれど、崖下に下りると千切れた白い布と、岩場に生えたフジツボの隙間に土の付いた新しい雑草を見つけることが出来た。
 ――ここで突き落とされたんだ。

 周囲を見ると波は激しいものの、水辺は膝下十数センチ程度の深さしかなく、充分に歩けることがわかる。

 ――でも弥彦さんが自分で歩いたわけじゃないし、そもそも浜辺と逆方向に行く必要もないよね。

 岸壁沿いに歩くこと数分、灯台から見下ろしたあの岩にたどり着く。
 その岩場はリゾートビーチや沖から見えにくい場所にあり、それは真琴にある仮説を立てさせた。

 ――多分、犯人は弥彦さんをここに運んで……殺すつもりだったんじゃないかな?

 彼自身突飛な発想と思いつつ、人目につかない場所に運ぶというのは何かしら意味があってのこと。
 ただし、推測の域を出ないのは、弥彦が殺されなければならない理由。

 ――どうしてだろう?

 一人首を傾げる真琴。すると背後で波をかき分ける音がして……、

「はぁ……いたいた。真琴さんだっけ? こんなところで何をしているの?」

 振り向くと紗江がいた。従業員の野暮ったいブラウスにエプロン、タイトスカート姿ではなく、クリーム色のフリルの付いたキャミソール。風が吹くと裾が捲れ、素肌にピッチリ張り付くハーフパンツが見えた。

「えっと、紗江さん? どうしてここに?」

 むしろ彼女こそこんなところで何をしているのか? 真琴はその言葉を飲み込むことにした。

「君の姿が見えたから追ってきたの」

 ――見えたら追うって? どういう事?

「で、何してるの? 絵のことを調べるんじゃないの?」
「あ、いえ、ちょっと、その、弥彦さんのことで気になったから……」

 休憩中なら他にも暇つぶしの方法もあるだろう。ただ、普段から海を眺めている彼女にとってみれば、絵の謎を解こうとする真琴の方が好奇心の対象になりやすいのかもしれない。

「多分、弥彦さんはここに運ばれたんですよ」
「ふうん。でも、どうやって? 誰が? どうして?」
「それは、まだどれも分かってませんけど……」

 いきなりの質問攻めに真琴は答えに窮する。

「でも、真琴君はここにいる。探偵ごっこ? たのしそうね。あたしも協力してあげるわ」

 紗江は真琴の様子を伺うように覗き込み、「いいでしょ? ね、いいでしょ?」と聞いてくる。
 眼鏡の奥に隠れた目は少し冷たい感じの印象のある切れ長のモノ。仕事中は三編みにして整えている髪もプライベートのときは解いており、可愛らしくカールさせている。
 そして、前かがみなると布地の少なく、肌にゆったりとした衣服は……。

 ――結構大きいんだ……。

 隙間から見える水色のブラジャー。小一時間ほど前に見たそれと比べれば小振りだが、それでも発達途中のものと比べれば充分な大きさ。

「ねえ、いいの? どうなの?」

 じれた紗江はずいと一歩踏み出してくる。それなりの乳房はゆさっと揺れ、鼻の頭に甘ったるい花の香が届く。

「うん。別にかまいませんけど、そんな大したことしませんよ」
「でも面白そうじゃない? 崖から突き落とされた弥彦、彼を岩場に運んだのは誰か? そして背後で渦巻く遺産相続の闇……」

 岩場で跳ねる波しぶきをバックに紗江は握りこぶしを固めて熱弁する。その様子は二時間の推理ドラマを連想させるも、どこかコミカルであった。

「そこまで大げさなこと……第一、みんな遺産相続には否定的ですよ?」

 紗江のモノローグに必要なのは犯人の影と醜く争う相続権利者の姿。
 犯人の影の候補は突き落とした不審者、大声を上げた誰か、ガレージにいた不審者がいるものの、遺産相続に関しては弥彦の独り相撲。和弥にいたっては「絵の謎」如何に関わらず自分が相続させられてしまうと嘆いている程だ。

「そこなのよ。だからつまらないのよね……」

 握った拳を下ろす彼女は「はあ……」と切ないため息を漏らす。

「なんか面白いこと無いかしら……」
「だから事件が起こったじゃないですか」

 少々不謹慎と思いつつ、真琴は苦笑いする。

「けど、御前町はリゾート地よ? こんな人の出入りのある場所じゃ、犯人だってもうどっか行っちゃったんじゃない?」
「う~ん。多分そうだろうけど……」

 当初、真琴もそう考えていた。しかし、全身打ち身すり傷多数、右足首捻挫の弥彦が岩場で発見されたことを踏まえると、その事実が突発的な事故というよりも、起こるべくして起きた事象に思えてならない。

「で、運べるの?」
「正直やってみないと……」
「ならさ、私を運んでみたら? ここからあの崖の下まで」

 笑顔で言う彼女は真琴に抱きつき、「うふ、お姫様抱っこがいいな」と耳元で囁いた……。

▼▽――△▲

「真琴さんて、澪さんの彼氏なんですか?」

 昼さがりの穏やかな午後、澪と理恵は休憩中の美羽と一緒に暇つぶしがてらババ抜きをしていた。
 そんな中、突然の質問に澪は面食らってしまう。

「あ、いや……その、ね……あはは」
「澪ちゃんと真琴君は付き合ってないそうよ。いわゆる恋人未満、せふ……」
「理恵さん!」

 「れ」がきてはたまらないと続く言葉を遮る澪。彼女の中では、「真琴は恋人以下の関係」が正しいのだから。

「へえ、でもすごく仲が良くて羨ましいです」

 羨望の眼差しを送る美羽は「はぁ……」とため息を漏らして理恵からカードを引く。そして「げげ」と一言。どうやらジョーカーを引いたらしい。

「美羽さんはいないの? ステディな人」

 面倒なカタカナ語を使う理恵は新たな獲物ににやりと笑いながら水を向ける。
 すると美羽はモジモジした様子で俯きだすので、澪も理恵も「いるな」と断定する。

「ちょっと勘違いすることのある人で振り回されちゃうし、疲れるところあるんですよ。でも、一度決めたらこうっていうか、すっごい行動力で……」
「へえ、なんか真琴とは大違いね……」

 澪は彼女から一枚カードを取り、ペアになったものを捨てる。

「そんな、真琴さんだって素敵な方ですよ。それに可愛いじゃないですか」

 およそ誉め言葉ではない感想に澪は頭を抱えてしまう。
 最近男子としての成長が見え始めている彼だが、それは普段から粒さに観察しているからこそ分かること。昨日今日初めて会った相手からすれば、子犬のような目をした可愛らしい男の子でしかない。

「ペットとしてはいいわよね……っと」

 澪から一枚引いたところで残り二枚、理恵は勝ち誇ったように胸をそらす。

「ペットって……、でもそういう理恵さんだって彼氏……」
「楓のこと? うふふ、アイツはまあ、便利な男よ。ただ、最近は私のありがたみを忘れたっぽいし、ちょっとお仕置きしないとね……」

 柔道、空手、合気道の有段者である彼女が言うとそれは冗談に聞こえず、夏の終りに待っているであろう長身の青年の悲劇に胸を痛めてしまう。

「いいですね。みんな彼氏がいて……」

 ペアが揃わない美羽は眉間に皺を寄せて「むぅ」と唸る。実年齢は聞いていないが、どこか仕草が子供っぽく、そういう彼女だからこそ「行動力」のある「周りをふりまわしてしまう」彼氏がつくのだろう。

 ――あたしの場合、どうして真琴なんだろ……?

 アイツがだらしないから。
 アイツが頼りないから。
 あたしが守ってあげないと……。

 少し前まで並べていた文句が最近出てこない。
 それが悔しく、また嬉しくもあった。

続き

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