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僕とあたしの海辺の事件慕_20

検証

◆◇――◇◆

 太陽はまだ天高く上っており、潮も浅い。
 崖下から岩場までは十数メートル。
 波が岩肌を洗うも、道が見え慎重に歩けば紗江をお姫様抱っこしても充分にたどり着ける距離だ。
「こういうの、なんか素敵ですね。愛の逃避行みたい」

 ドラマに影響されやすい体質なのか、紗江は嬉しそうに言う。

「はは、そうですかね……?」

 これはあくまでも検証に過ぎないのだが、彼女の中では台本でも作成されているのか、しきりに夢見がちな台詞を呟く。

「でね、ヒロインの私はお金持ちのお屋敷でこき使われるメイドなの。真琴君はお客さんでやってきたんだけど、私の境遇に同情して、ついには駆け落ちしちゃったり!」

 お姫様抱っこされる紗江は真琴の首に回した手に力を込め、身体を擦り付けるようにしがみ付く。

「ちょ、紗江さん、そんなにしがみ付かないで……」
「あら、紗江の身体じゃ不満かしら?」

 くいと顔を近づける紗江。風に煽られるカールした髪と、ラメ入りのピンクの口紅、日に焼けていない白い素肌が魅力的。さらには悲しそうに歪む眉のわりにどこか真琴の反応に笑いを堪えている口元が大人の女性の余裕を見せていた。

「そうじゃなくて、そんなにしがみ付いたら検証になりませんよ。弥彦さんが犯人に協力するわけないし……」

 そもそもの目的はあくまでも「人を抱えて岩場へ向うことができるか?」。しかし、今この状況は「愛の逃避行」。
 もし暗い海で誰かに攫われそうになったとして、どうして相手に身体を預けることができるのか? 真琴はこの検証の無意味さを感じ始めていた。

「でもさ、弥彦様が運ばれたのって夜でしょ? 今よりもっと潮が高かったんじゃないの?」
「え?」
「ほら、岩肌みてよ……」

 言われて見ること数十秒。真琴の膝ぐらいの高さにフジツボの化石のようなものが生えそろい、昆布なども張り付いていた。

「夜になるとこの高さまでは潮がくるから、今歩けても夜は水の抵抗とかあるし、一人ならともかく誰かを抱えてなんて無理よ」

 彼女の指摘はもっともで、第一、彼女は弥彦よりはるかに軽い。もちろん真琴の腕力の低さもあるが、それでも運べるとは思えない。

「ねえ、こういうのはどう? 崖から突き落とされた弥彦様は波に攫われて、そのまま岩場に流れ着いたとかさ……」

 名案とばかりに目を輝かせる紗江に、真琴は即座に首を振る。

「それは無理だよ。どこへ流されるか分からないのに、どうして海へ行くの? 足も動かないのにさ」
「ぶー、それじゃあ真琴君はどう考えるの? 絶対に運ぶなんて無理よ」

 頬を膨らます彼女を前にそれを突いてみたいという邪な衝動が起こるが、今はそれどころでもない。

「でも……」

 代案も無く、裏づけも無い。けれど他に考えられない。だから引き下がれない真琴がいる。

「じゃあさ、もう一度夜に来て見る? そうしたら無理だって分かると思うよ」

 自説を即座に否定されたのが悔しいのか、紗江はムキになって抗議しだす。

「そうかなあ、でも、そうしようかな……」

 一方、自信が揺らぎつつある真琴も夜の海での検証が必要と思い始め、それに頷く。

「決まり! じゃあ夜の……八時にガレージで待ち合わせね!」
「え? 紗江さんも来るの?」
「だって、一緒に検証する相手が必要じゃない?」
「いや、それは……澪がいるし、紗江さんに悪いから……」
「そう? じゃあさ、もし澪さんがダメだったら、私と一緒に行こうね? ね?」
「まあいいですよ……」

 なお食い下がる紗江に首をかしげながらも真琴は軽い気持ちで頷く。

「嬉しい!」
「わ、そんなに抱きつかないで……」

 ひしっと抱きついてくる紗江が舌を出して笑っているのは、真琴の視線から隠れてのこと。当然彼は彼女の思惑に気付いていないわけで……。

***

 真琴がペンションに戻ると、応接間のドアから澪が顔を出す。彼女はトランプ片手に仲間に入れと手を振る。けれどオシャレな格好をした紗江が彼の後ろにくっ付いているのを見ると、途端に眉間に皺を寄せて低い声で喋り始める。

「真琴、なんで紗江さんと一緒にいるの?」
「あ、澪、違うんだよ。紗江さんとは岩場で……」
「岩場で二人きりで大切な話をしてたんですよ」

 弁明を試みる真琴をあざ笑うかのように紗江は彼の右腕を強引に取り、にこやかに誤解させるようなことを話す。

「な、紗江さん、そうじゃないでしょ、僕は別に……」

 後ろめたいことなら他にもあるが、紗江とは特に何も無い。だからこそ慌てる真琴だが、それは逆に澪の癇に障ったらしく……、

「そう……そうなんだ。真琴は……ふーん。ま、いんじゃない? 紗江さんと楽しくしてればさ……どうせあたし達はただの幼馴染。なんていうの? 門出を祝してあげるわよ」

 冷静を装う澪だが、こめかみはピクピクと脈打ち、手にもったカードはぐにゃぐにゃと歪んでいる。

「違うよ、誤解だってば!」
「あーそれ前に言われたことあるわ。浮気してた前彼からさ……」

 火に油を注ぐどころかガソリンを注ぐ理恵の一言に澪はガタンと椅子を倒し、そのままどすどすと階段を上がる。

「み、澪……」
「うっさい! この浮気者!」

 ただの幼馴染に浮気者と言うのは矛盾を含まないかと思うも、沸騰した澪を煽ることに意味は無く、真琴はただしょぼくれるだけ。

「あらら、澪さん怒っちゃいましたね、ほんの冗談なのに……」
「まったく、最近の若者はこらえ性が無いわね……」

 元凶である二人に言われるのは癪だが、紗江に付け入る隙を与えたのは自分であり、口喧嘩で勝てるはずも無いとため息をつくばかり。

「真琴さん、浮気はダメですよ!」

 話をかいつまんで聞いていた美羽はぷりぷりしながら真琴を嗜める。

「はい……」

 言われなくとも分かっていると、自らの軽率さを反省する真琴であった。

続き

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