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僕とあたしの海辺の事件慕_21

機嫌直して……

▼▽――△▲

 夕飯時、真琴は澪の回りをコマ鼠のように付き纏っていた。

「ねえ澪、このお刺身美味しいね。あ、エビの髭に気をつけて、刺さると痛いからさ」
「飲み物いる? 頼んであげるね……」
「僕が取ってあげる? あ、大丈夫……、そう」

 気を惹きたい一心で動き回る彼を見ていると気の毒になるが、澪にしてみればちょっと目を離した隙に別の女と……。到底赦せるはずもなく、先ほどから真琴とは一切口を聞かず、彼の頭越しに理恵や美羽に話を振っていた。

「美羽さん、ドレッシング下さい」
「あ、理恵さん、また飲みすぎたら駄目ですよ」
「ん、エビの頭の味噌ってまったりして美味しいですね」

 しょんぼりする真琴と上っ面な笑顔の澪。
 理恵はその様子をクスクスと笑っていた。


「で、弥彦兄様は大丈夫なんですか?」

 遅れて食堂にやってきた公子はエプロンの前にクリームをつけていた。どうやらデザートかなにかの準備をしていたらしく、続く紗江が生クリームでデコレートされた色とりどりのアイスを運んでくる。
 公子はアイスにラズベリーの風味のするリキュールをかけ、バーナーを近づける。
 ボンと火の玉が出来上がると、辺りに甘い香りが漂い、満腹になりかけた胃を整理してくれる。

「わあ、綺麗……ねね、ほら澪、すごいね……」
「ねえ公子さん、それなんていうんですか? アイス溶けたりしないですか?」
「これはフランベって言うの。アイス表面にはメレンゲが薄く塗られてるから平気なの。いい香りでしょ?」
「はい!」

 食後のデザートにわざとらしく目の色を澪は、まだ真琴のことを赦していないらしく、意識的に無視しているように見える。

「ふむ、病院で検査をした結果では骨に異常はないそうじゃ。まあ、アイツには良い薬じゃしの」
 焼き色の付いたマグロの刺身に箸を伸ばし、しょうが醤油で一口。お猪口に入った日本酒をぐびぐびと飲むと、彼は上機嫌になる。
「叔父様に悪いですよ」

 そういってこっそりと手酌する理恵。

「そうね、でも弥彦兄様ってお父様と似てますからね」

 公子はひょいとその勺を奪うと、ぐびりと煽る。

「くう……」

 寸前でアルコールを攫われた理恵は悔しそうに唸るも、公子はフランベを済ませるとさっさと席に戻る。

「ワシとアイツが似てるかなあ……」
「ええ、昔の私が母様のお手伝いで餃子とシュウマイを作っていたとき、お父様は腹に入れば一緒とおっしゃって餡を交ぜちゃったことがあったでしょ? 弥彦兄様もそれを真似してジュースでも牛乳でもなんでも混ぜるようになって……」

 「ウフフ」と笑う公子に対し「そうじゃったかの」と頬を掻く久弥。

「ふふふ、おじい様もおおざっぱというか、そういうところありますからね」

 一人お酒を呑めないでいた理恵も楽しそうに口を挟む。

「ふむ。いいよるのお。時に理恵、一人で眠れるようになったかの? ここは怖いお化けが出るからのお」
「ええ、可愛い姪が大人のたしなみを求めると目を光らせる怖いおば様が……」

 右へ左へ受け流す理恵にしてやられたという風に眉を顰める公子。皮肉の飛び交う食事になれていない澪も真琴も冷や汗交じりにその流れを見る。

「……いつもああなんですよ。久賀一家は……」

 紗江が澪の空いたグラスにお茶を注いでくれる。

「毎年一回はここに集まって親族会議というか、昔の恥ずかしいことをほじくりあって……まったく仲が良いんだか悪いんだか……」
「へえ、それって僕と澪……」

 仲直りの口実を探す真琴は必死に会話の糸口を探すが……、

「真琴さん、食事が終わったら後片付け終わるまで待っててくださいね?」

 わざわざこのタイミングで水を差す紗江。にっこり笑うその視線の端ではしっかりと澪を見つめており、あたかも「彼氏借りますね」といわんばかりの優越感を醸す。

「え、あ、はい……」
「良かったわね、真琴君。年上のガールフレンドが出来て……。あたしは君とただの友達だから文句なんてありませんけど……」

 澪はお茶を一気に煽ると汚いものでも見るかのように真琴を睨みつけ、「フン」とつまらなそうに食堂を後にする。
 まだ日も完全には落ちておらず、アルコールの入った三人の声が賑やかなうちに汗を流してしまいたいのも、その理由ではあったが……。

◆◇――◇◆

 澪に完全に誤解されてしまった真琴はしょんぼりしながらもガレージにいた。
 現場に一人で行ったところで分かるのは水域の高さぐらい。検証をするには誰かの協力が必要なのだ。
 そして出来れば紗江を説得して、澪の誤解をとかせたいということ。むしろそちらの方が比重が高くなっているような気もする。

「お・ま・た・せ!」

 急に視界が柔らかいもので塞がれる。

「わぁ! ……ん、紗江さんからかわないでよ……」

 ぎゅうとしがみ付くようにする彼女の手を振りほどこうと頭を振るが、紗江は笑うばかりで離そうとしない。

「ちょっと、いい加減にしてくださいよ!」

 女性相手に手を上げるのもどうかと思いつつ、真琴は彼女を押しのけようと腕を伸ばす。

「あん!」
「へ?」

 ぐにゃりとした柔らかさは女性特有のもの。特に自分はこの感覚が好きであり、あわよくばその感触を楽しみたくもある……が、

「ご、ご、ご、ごめんなさい! あの、わざとじゃないです! その、けしてオッパイが好きなんじゃ……いや、おっぱいは好きですけど、そうじゃなくて……」
「うふふ、かわいいな真琴君。やっぱり童貞なんでしょ? 澪ちゃんの気を惹きたくてたまらないって感じがするし、ねえねえ、そうなんでしょ? 童貞君……」

 パーカー姿の紗江は揉ませるように胸を張り、真琴をペットか何かを愛でるように見つめる。

「う、そんなこと……」

 どう答えてよいものかわからず、真琴は沈黙の金を選ぶ。ただ、どうやら金の相場もまた移り変わるらしく……。

「正直に言えばいいのに。君みたいに可愛い子、どこでも需要があるわよ?」

 その需要なら昼間しっかり供給を果たしてきたわけだが、それとは別に彼女のどこか遊び半分な態度を見ていると、この調査も時期に暗礁にのりあげるのではと心配になっていた……。

続き

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