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僕とあたしの海辺の事件慕_24

不審者

「紗江さん、しっかり掴まっててくださいね……」
「うん」

 夜の海、浜辺どころか岸壁に近い道なき道を行く二人。真琴は紗江の身体をしっかりとお姫様抱っこし、紗江が彼にしがみ付くように抱きつくのを嫌がらなかった。
 目的であった検証はどこかへやら? それでも今二人で築いた幸せの余韻に浸っていたかった。

「ん、もう下ろしていいよ……」

 崖の下の岩場まで来ればあとは濡れる心配も無い。もっとも彼女は水着にパーカーという濡れても良い格好であり、むしろ真琴のズボンやシャツの方が酷かった。

「もう少し……いいじゃないですか」

 もやしっ子な真琴の腕はもう限界近い。けれど男子としての矜持がそれに延長を求めていた。

「んーん、ダメ。君には澪ちゃんがいるんでしょ? これ以上抱っこされてたら、私ホントに君のことほしくなっちゃうしさ……」

 鼻をちょんと突く紗江。お互い快楽を貪りあった仲なのに、今だ自分は子ども扱いと、真琴は悔しさを覚える。とはいえ澪は……?

「はい。我侭言ってごめんなさい」

 ゆっくりと腰を下ろし、彼女を下ろす。

「あ、でも、こんなところ見られたらまた澪ちゃん怒るかもね? そしたらどうする?」

 今更気付いたとばかりに言う紗江。そもそも彼女が澪の前で「待ってるから」といったのが原因なのに。

「え、それは……」

 とはいえ澪にそんないい訳が通用するわけもなく、また彼女を怒らせたまま。現状を回復させる方法など一つも無いのだ。

「ひとまず帰ってから考えますよ……」

 紗江はとぼとぼと歩く真琴の後姿をクスリと笑い、小さくくしゃみをした。

▼▽――△▲

 澪は一人自室でタオルケットにくるまっていた。
 シャワーを浴びても気が晴れない。仕方なくロビーにいくも、酔っ払ったまんまの理恵の相手をするのもめんどくさい。かといって真琴を待つまねは惨め過ぎる。
 だから一人で寝ることにした。

 ――なによ、真琴の馬鹿。ちょっと可愛い子がいたらすぐに手だしちゃって、ほんとやらしいの。っていうかさ、近くにあたしみたいな素敵な女がいてどうして浮気とかするわけ? おかしくない? だってさ、あたし達、その、しちゃったんだよ? えっち……さ。

 頭の中で渦巻いているのは浮気性の彼氏のことばかり。
 そこにいないというのに思考を支配する彼にさらに腹を立てしまう、まさに無限ループに陥っていた。

 ――だいたいさ、アイツは女の子をなんだと思ってるのよ。好きってそんな軽いもんじゃないのよ? だってそうでしょ? あたしは平気だけどさ、処女っていうの? 女の子にはすごく大切なもんじゃない? その、一般的にね、あたしは別にそうじゃないけど、人によってはそれを捧げたイコール結婚なんてのもあるわけじゃない。それなのに、どうしてアイツはああも簡単にエッチしちゃうのかな? 他の子に手を出すのかな? そんなにもてるとでも思ってるの? 馬鹿じゃない? あんな男女、ショタコンぐらいしか相手にしないわよ。あたしの場合はその、幼馴染で、守ってあげたいっていの? その、しっかりしてもらいたいっていうか、男として、その、成長してほしいっていうのがあったからだけど……、そりゃまあ、あたしだって真琴のこと……好きよ。好きって言われて嬉しかったし、だから、いいかなって思ってさ……でも、なんで紗江さんと? あたしを誘えっての! 馬鹿真琴。こんなんじゃあたし、真琴のこと信じられないよ……。お願い、真琴、もっと……。


 ……てく……れ……


「!?」

 周囲を見渡す澪。
 薄暗い部屋には自分以外に誰もいない。

 ――きっと理恵さんよ。あの人、お酒呑むとすごい人変わるしね……えへへ、あはは、うふふ、そうよね……うん。そうだ……。


 ……痛い……傷口が……


 窓の方から再度誰かの声。

 ――嘘! でも聞こえた! 空耳じゃないよ。なんで? だって、そんな、夏だからって怪談とかありえないし、それに、そんな話……あるわけ? ……そういえば、昔ここ病院で、しかも隔離病棟だとか……。

 思い出されるのは亮治の話。

 ハンセン氏病患者を集め、遺体はすぐそばの崖から捨てていた……。

 ――そんな、幽霊なんているわけ無い。きっと誰かのイタズラよ。そう、真琴だわ! アイツ、あたしに冷たくされたからってこういうイタズラしてくるのね。うん。よし、ちょっと懲らしめにいってあげないと!

 タオルケットをふっとばし、スリッパすら蹴飛ばす勢いで部屋を出る澪。彼女は早速二〇二号室のドアを乱暴に叩く……が、抵抗無く開いてしまい、そのまま中央へと歩みでてしまう。

「と、ととと……? 真琴? いないの?」

 部屋の隅には大きめのリュックとテーブルに携帯が置いてあるだけで、肝心の主の姿が無い。

 ……ノロッテヤル……

 例の声はこの部屋にも怨念があるらしく、低くくぐもった、恨みがましいそれが響く。

「やだ、そんなの……そうだ、理恵さん……理恵さんは?」

 こうなったら酔っ払いでもいないよりましと、さらに隣の部屋を叩く。二〇一号室もまた開けっ放しらしく、難なくドアが開く。けれどやはり主は居らず、脱ぎ捨てられたスーツがベッドにあるのみだった。

 ――やだよう、どうして皆いないの?

 耳を塞いで立ち尽くす澪。しかし、それでも忍び寄る音。

 ……あっはっはっは、それは言いすぎですわ、おじい様……
 ……何を言う。ワシは本当に……

 ――え?

 のん気な笑い声は理恵と久弥の声。どうやらこの部屋には怨霊の声も

「……あ、そっか、下で飲んでるのか……うん」

 取り乱したものの、幾分冷静さを取り戻せた澪は一呼吸おいてから部屋を出る。このままここに留まっていても例の声に怯えるのみだろうと思いつつ、彼女は灯りの漏れる階下を目指すことにした。

◆◇――◇◆

 水を含んだサンダルは歩く度にぎゅうと水が絞り出され、足跡が点々と残ってしまう。
 紗江は真琴の足跡を見て「コレは犯人の足跡かしら?」などと探偵気取り。

「ふむ、だんだん歩幅が短くなっておりますわ」
「もう、紗江さんってば……」

 歩が遅くなるのは澪に会いにくいから。その理由は当然紗江との夜間外出にあるのだが、当初の目的も果たせず、あまつさえ……。

「はぁ……」

 真琴は重いため息をつきながら、それでもペンションのほうへと歩いていった。

「あ、あれ? 誰かいる……」

 灯りの下に人影が一つ。それは駐車場のほうへと消えていった。

 ――なんだろう。もしかして弥彦さんを突き飛ばした犯人?

 突飛かもしれないと思いつつ、狭い範囲で連続する事象を関連付けたくなるのは道理。そして単純に不審者がいるのであれば身の安全、特に大切な誰かを守る為にも放置することはできない。

「……紗江さんは……理恵さんを呼んできて……」

 女性を助勢に呼ぶのは情けないと思いつつ、空手に剣道、合気道有段者の彼女の手並みは並ではない。弥彦や和弥がいたとしても、一番頼りになるのはおそらく彼女だろう。

「……うん、わかった……」

 紗江は頷き、音を立てないように慎重にペンションのドアへと向う。真琴も人影を追い、暗がりの方へと向った。

***

 ――こんなところに何の用だろう……。

 暗がりの中、送迎用のワゴンに隠れるようにたたずむ不審者。

「……待った?」

 ガレージの裏口のほうからもう一人やってくる。彼女は隅っこにあるスイッチを弄り、蛍光灯をつける。ぱっと明るくなる駐車場だが、光は弱くまだ薄暗い。それでも赤いカチューシャとまん丸おめめの人懐っこそうな彼女が誰か、すぐにわかった。

 ――なんで美羽さん? まさか、美羽さんは犯人とグル?

 ペンション経営権を巡る久賀一家の争い。そこに暗躍するは美人従業員の美羽。愛嬌のあるほんわかした仮面の下で光るのは、金銭欲に塗れた錆び色の瞳。
 サスペンスドラマの見過ぎと笑いつつ、真琴は息を潜めて成り行きをうかがう。

「美羽、あの話……」

 若い男の声だった。

「だからあ、そんな話ないってば。フミ君の勘違いだって……」

 美羽は不審者に親しげに話しかけているが、一体どのような関係なのだろうか?

「だいたいあの久弥って爺さん胡散臭いんだよ。何かって言うとお前を贔屓してるっぽいし、本当は……」

 低くもなく、高くも無く。ただ、彼女を呼ぶ声には自信のようなものがあり、どこか鷹揚としていた。

「それはまあ、私も不思議に思ってるけど……」

 どこかで聞いたことのある声だが、それは果たしてどこだったろうか? 首を傾げたところでそれは分からない。

「……理恵さん、こっちです。こっちに不審者が!」

 その時紗江の声と駆け足二人分。

「まずい! 逃げて!」

 美羽は不審男性を庇うようにすると、ガレージの裏口を塞ぐように座り込む。

「美羽さん! 大丈夫? 何かされなかった?」

 駆けつけた紗江は彼女の肩を揺すりながら声をかける。対し美羽はしゃくりあげて「あの、その、今……」と繰り返す。

 経緯を知っている真琴にしてみれば、それは不審者を逃がす為の時間稼ぎに過ぎない。

「待て、逃がさないぞ!」

 ガレージを出ようとする不審者に立ちはだかる真琴。

「あ、貴方は……」

 なんと不審者は昼間見た男。弥彦をペンションまで運ぶのを手伝ってくれた文宏だった。

「なんで?」
「く……」

 呆気に取られる真琴と切羽詰った文宏。本来ここに今いるべきでない文宏は真琴の隙を突き、その場を逃れようと必死。しかし……、

「はいはい、ごめんなさいね……よいしょっと!」

 音もなく文宏の傍らに忍び寄った理恵は彼の腕を捻り上げ、間髪いれずに足を払い、埃っぽい地面にたたきつける。

「あが……」

 せめてもの情け、背中から叩きつけられた文宏は一瞬呼吸困難になり、苦悶の表情と「ぐぬぬ」と呻き声を上げるばかり。

「理恵さん、さすが!」

 文宏を捕縛しようと駆け寄る真琴だが……。

「もういっちょ!」
「うわあ!」

 軽々と腕を捻られ、そのまま地面に背中から落とされる。

「んで? 誰が悪いの?」

 頬を赤らめる理恵は頭を掻きながら「あはは」と笑っていた……。

続き

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