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僕とあたしの海辺の事件慕_25

そんなことよりも……。

 騒ぎを聞きつけた久弥が、公子と一緒に応接間にやってくる。
 急いできたのか興奮気味の彼は鼻息を荒げ、どこか楽しそうにしていた。
「で、君が不審者なんじゃな?」
 久弥はソファに深く腰を下ろすと、ストレートに言う。対し背中を庇うようにしている文宏は憮然とした表情を返すのみ。
 美羽は先ほどから文宏のそばに居り、打った部分にシップをあてがうなど、どこか彼を庇う風があった。
「あ、あの、オーナー、実はその……」
 おずおずと前に出る彼女に周囲の視線が集まる。
 文宏を拘束してから十数分程度だが、彼は未だ黙して語らず、ただ緊張した空気が流れていただけだった。そのためか、一層美羽への視線はきついものとなり怯んでしまう。
「美羽さん、彼……ええと、島津さんだっけ? 知り合いなの?」
 このままではラチがあかないと理恵が口火を切る。
「はい。その、幼馴染って言うか、その……」
「恋人です」
 モジモジした美羽に代わり、文宏が答える。
「えー!」
「うそー!」
 すると沙希も理恵も口を揃えて声を上げる。
「なんだよ、悪いかよ?」
「だって、イメージ全然違うし……」
 美羽のイメージはおっとりとした可愛らしい子。揃えられた髪と子顔のせいで実年齢よりも五歳は若く見え、メイドというよりもお姫様に近い。
 対し文宏は海の男とでも言うべきか浅黒い肌と無精ひげ、茶色に染めた髪をオールバックにしている風など、まったくイメージが合わない。
「イメージって、別にいいだろ」
 悪態をつくと言うよりいつものことと投げやりな態度の文宏。
 話が前に進まないことに久弥は「コホン」と咳払いをして色話を制す。
「して、文宏君とやら、君はどうしてここへ……、というかペンションの周りをうろついていたのじゃ? まさか美羽と会いたいがためだけではないじゃろ?」
 ペンション従業員とはいえ、四六時中拘束されているわけでもなく、ベッドメイキングや掃除が終わったら夕食の準備までは暇がある。会うだけなら夜中よりもその時間帯の方が容易というもの。
「それは、だから……」
 林檎のような頬をさらに赤らめる美羽は見ていられないほどになり、俯き加減に「フミ君が……」と呟くばかり。
「島津さん。島津さんも知っていると思いますけど、弥彦さんが誰かに突き落とされたんです。犯人は分かってませんが、今の島津さんはすごく立場が悪いですよ?」
 真琴が背中をさすりながら口を開く。その様子に沙希が「大丈夫?」などと声をかけているのに、澪は少し引っかかってしまう。
「島津さんは弥彦さんを助けるのに協力してくれたから疑いたくありませんけど、でもなんでこんな遅くにきていたのか、それを教えてくれませんか?」
 責めるというわけではなく、諭すと言うほど上からでもなく、平たんな様子で淡々と語る真琴。皆の視線は文宏の返す言葉を聞き漏らすまいと彼に向う。
「美羽が、結婚するかもしれないから……」
 結婚の一言に皆目が丸くなる。
「だから、それはフミ君の勘違いだってば……」
 一人俯く度合いを強める美羽はか細い声を消え入りそうにさせながら彼を叩く。
「何? 美羽さんが結婚するじゃと? 相手は誰じゃ? ツマラン相手なら……」
 久弥は顔を曇らせながら声を落とす。
「それは久賀家の誰かだろ? 都会の息子を呼びせて美羽とお見合いさせるって!」
「お見合い? ハテ……なんじゃろう? ワシ、そんなこといったっけ?」
「誤魔化すなよ! その、そっちのガキか? そいつと美羽を!」
 文宏は真琴を指差すと今にも飛び掛りそうな雰囲気で口の端から泡を飛ばす。
「な、僕は違いますよ。理恵さんとの連れです……」
「じゃあ他か?」
「他って言っても、和弥叔父様も弥彦叔父様も結婚なさっているし、公子叔母様は女性だし、結婚できるといっても……」
「ワシぐらいじゃな……、ばあさんにゃ悪いが」
 しれっとして笑顔を浮かべる久弥に文宏はがくりと肩を落とすも、どこか安心した様子で「ふう」と息を漏らす。
「なんだよ、俺の勘違いかよ……」
「だから言ったじゃないの……、でもフミ君が私に本気だって分かって嬉しいよ」
 床に手をつく文宏にそっと近づく美羽。
「美羽。俺にはお前だけなんだ、頼むから驚かせないでくれ……」
 顔を上げる文宏は、キスが出来そうなくらいの距離にいる美和を抱き寄せ……。
「はいはい、ストップストップ。そいうのは他所でやってよね」
 他人のラブシーンを見せられても虚しいだけと無理矢理中断させる理恵。どこか嫉妬めいた風があるのはおそらく楓のせいかもしれない。
「ね、それじゃあ弥彦叔父様が見た不審者ってのも君なの?」
「ん? ああ、昨日も美羽に会いに来たんだが、そんときあのおっさんに見つかってさ……」
「追いかけられたから逃げたのね……。まあ弥彦兄様だしねえ」
「ふむ、弥彦らしいわい」
 どこか納得している公子と久弥。とはいえたかだか数時間程度の付き合いの澪でも久弥があわてんぼうでがむしゃらな人であるのは予想がつく。
「それじゃあ、そのあと島津さんはどこへ行ったんですか?」
「ん? ああ、人気の無いほう無いほうって逃げてたら灯台の方についちまってさ……」
「そこで突き落としたとか?」
 沙希が目の色を変えて口を挟むので、浅黒い青年も冷や汗交じりに首を横に振る。
「いや、何とか巻いたんだが、なんか別に人がいるような気がしてさ、ひとまず灯台に隠れてやり過ごしてたんだ」
「ああ、それで誰かが入った形跡があったんですね?」
「ん? ああ、少し休んだしな」
「ふむ、文宏君とやらの話を信じるとすると、まだ他に不審者が居ることになるのお。かといって、君が嘘をついていない証拠もない」
「おいおい、爺さん、俺は弥彦さんを助けるのを手伝ったぜ?」
「そうじゃの……しかし、君がこの時間帯にワシのペンションに不法侵入をしていたのは事実じゃぞい?」
 にやりと笑う久弥と言葉に詰まる文宏。現時点においてのパワーバランスは単純な力でも法的な力でも全て久賀家が勝っている。
「ああ、警察沙汰かよ……、親方にどやされる」
 とほほと頷く文宏は小さくなり、床にしゃがみこんでしまう。その傍らでは健気に美羽が「大丈夫、元気出して」と励ましている。
「ふむ、文宏君よ、君は警察には行きたくないのじゃな?」
「ハイ。どうかそれだけはご勘弁ください……」
「そうか……なら、ちょいと留まってもらおうかの。このペンションに……」
「へ?」
「お父様?」
「いいの?」
 おかしな提案に驚きを隠せない一同。確かに力仕事ができる人員がいるのは良いことだが、素性は美羽の恋人としか分からない相手をどうして留まらせるのだろうか?
 この判断には文宏自身呆気に取られていた。
「構わんよ。まあ、雑用、主に肉体労働をしてもらうがの。とりあえず、今日は弥彦の部屋でも使うといい。美和君、案内してやってくれ」
 そういうと久弥は立ち上がり、「ほっほっほっ」と高笑いをしながら部屋を出て行った。
「おじい様も何を考えているのかしら? ま、変なこと考えたら……分かってるわよね?」
 まだアルコールが残っているのか顔の赤い理恵だが、技の切れは証明済み。むしろ力加減を考慮すれば、酔っているときこそ注意が必要なのかもしれない。
「そうね、まあ美羽ちゃんが一緒にいれば変なことはしないわよね? それとも変なことしてたりする?」
 意味深に笑う公子はついでに真琴と澪のほうも見るが、二人は顔も合わせない。
 からかってもつまらないと公子と理恵はそのまま部屋を後にするので、美羽も文宏に肩を貸しながらそれに続いた。
「えっと……、あたしも仕事思い出した!」
 いたたまれない空気に沙希は濡れた髪を指摘される前に部屋を出る。
 部屋に残された澪と真琴はしばし無言のまま明後日の方向を見るばかり。けれど言い難い引力がそれを不自然にさせる。
 時計を見るたびに視界がお互いを捉えようと動き、物音を立てるとその素振りを隠そうとわざとらしく咳払いをしてしまう。
 クーラーの止まった部屋は蒸し暑く、汗がふつふつと沸いてくる。
「あのさ、真琴……お願いがあるの」
「何? 澪!」
 自然を装ったつもりが内面から沸き起こる嬉しさのせいでつい大げさに声を上げてしまう。
「今日、一緒に寝てほしいの……」
 ぼそりと呟く澪は目を合わせず、それでも手を繋ごうと右手を伸ばしていた……。

続き

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