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僕とあたしの海辺の事件慕_26

一緒にいてよ。

◆◇――◇◆

「あのね、さっき人の声が聞こえたの。恨めしそうな、そんな声がさ……」
 枕をぎゅっと抱きしめて真琴のすぐ後ろを歩く澪。
「あ、勘違いしないでよ? 怖いわけじゃないんだから。その、こういうの、真琴好きかなーって思ってさ……」
 強がる素振りを見せるも、ギシリと音がするだけで視線がそっちへと向ってしまう。
「んー、僕もそういうのは好きじゃないんだけどなあ」
 二〇三号室と書かれたドアの前に来て苦笑気味に言う真琴。それでも澪から話かけてくれたのが嬉しいのか、にやつきが零れてしまりが緩くなっている。
「あら、情けないわね。いい? 男っていうのは幽霊やお化けの一つや二つ、怖がってちゃいけないのよ!」
 齢十七になって心霊現象に悩まされている女子が言ったところでそれも説得力にかけるというもの。けれど長い付き合いのせいかその強がりも「いつもの澪」を連想させるイベントであり、ペンションに来て久しぶりに安堵できる雰囲気だった。
 ――幽霊だかなんだか知らないけど、ふふふ、良かった。澪が機嫌直ってさ……。
「ちょっと、何笑ってるのよ! あたしは必死なんだからね!」
 少しでも内面が揺らぐと厳しい突っ込みが飛んでくる。ついでに頭を小突かれてしまうが、それすらも嬉しい日常の出来事。もちろん叩かれて笑うところを見せるのも変なので笑いを堪えたが。
「聞き間違いじゃないんだよね?」
 ドアを開けると、キイと短い音が立つ。薄暗い部屋に廊下の明かりが差し込むと、質素な部屋が浮かび上がる。
 暗い以外、別段変わったことも無いが、かすかに聞こえてくるのは波の音だろうか。
「声ねえ……」
 半信半疑な真琴は不用意と思いつつ部屋の中央へと出る。
「ホントなんだからね! 嘘じゃないもん」
 澪は部屋の前で立ちすくんだまま、中に入ってくる様子も無い。
「疑ってるわけじゃないけど、でも昨日は何も聞こえなかったんでしょ? 他にも僕の部屋ではどうだったの?」
「真琴の部屋? そういえば真琴の部屋でも聞こえたわよ」
「ええ、僕の部屋も? ……んー、おかしいな。あ、でも僕は……」
「そういえば真琴、こんな時間にどこに行って……」
 無断外出に見る見るうちに表情が曇る澪。幽霊騒ぎから少しでも話題をそらしたいのか妙にご機嫌な怒りをあらわにしだし、
「ねえ、理恵さんの部屋は? 理恵さんに聞いてみようか?」
 澪の様子に慌てた真琴は少しでも澪が大人しくなる話に戻そうと、必死で話題を振る。
「え? 理恵さんの? ……そういえば、理恵さんの部屋には聞こえなかったわ……多分、幽霊も理恵さんを怖れたんじゃない? あたしみたいなか弱い子を驚かせたいんだろうしさ」
 幽霊の好みなど知らないが、おかしな話になる。
 何故真琴と澪の滞在する二〇二、二〇三でのみ聞こえたのか?
「ん……、ちょっといい? 澪」
 真琴は何かに気がついたのか、部屋を出るとそのまま元ナースステーションへと向う。
「ちょっと真琴、どこ行くの?」
 一人で取り残されては溜まったものではないと必死にあとを追う澪。
「澪はそこで待ってて……」
 けれど真琴はそれを制す。
「イヤよ! あたしも行く」
 当然ながら必死になる澪。
「ダメだよ。そこにいないと幽霊の声が聞こえないから!」
「それがイヤだから行くの!」
 もう恥ずかしさもなく、ただ恐怖体験を思い出したくないとばかりに真琴の腕をひしっと掴む澪。目には薄っすらと涙が浮かんでおり、掴む手の強さもすがりつく感じが強く、無碍に払うこともしたくなくなる。
「大丈夫。幽霊の正体は僕だから!」
「真琴が幽霊なの? どうして?」
 澪は幼馴染の困った発言に困惑を強めてしまう。けれど真琴は得意そうに胸を張り、薄い胸板をドンと叩く。
「それじゃあさ、澪がここに居て。そして……、このパイプかな? それに耳を当てていてよ」
 真琴は外れかけた手すりを指差し、耳を当てるようなジェスチャーをする。
「それが何か?」
「いいからいいから」
 昔から勘が鋭い彼なら何かに気がつくかもしれない。そういう期待をしていた澪は彼の自信ありげな言葉に黙って頷き、一人で廊下に残ることにする。
 もちろん、暗い部屋で一人待つよりもずっと良いという打算あってのことだが。

 実のところ、真琴は幽霊話など信じていなかった。また、ペンションに来て真琴はあることを思っていた。
 元病院であるこの建物には手すりのようなものがある。老若男女問わず利用する施設ならそれも当然のこと。さらに言うと、名称からここが何科であるかもある程度めぼしをつけていた。
 ――えっと、多分、ふふふ、そうだと思ったんだ。
 壁に回っている鉄製の手すりをぐるりと見て一人笑う真琴。そのうちに手すりの一部分、少しずれて空洞が見えているところを見つける。
 ――きっとそうだと思った。
「みお。僕だよ……聞こえる?」
『嘘! 真琴?』
 返って来たのは甲高い女の子の声。ややノイズと山彦のようなエコーがかかっていたが、それはまさしく澪のもの。
「ふふふ、この手すりの中で声が反響して伝わってるんだよ」
『……なーんだ、そんなことだったの』
「怖かったくせに……」
『うるさいわねー! 今からそっち行くから覚えてなさいよー!』
 含み笑いもしっかり伝わったらしく、はなはだご立腹の様子がしっかりと伝わってくる。
 ――やぶへびだ……。
 とはいえ、やってくるのは幽霊ではなく愛しい澪。
 たとえ怒っていてもその気持ちが自分に向くのなら?
 ――僕ってマゾ? 違うよね?
 真っ赤になって腕を振るう澪が来ると分かっていてもいそいそとしてしまう自分が抑えられない真琴であった。

▼▽――△▲

「もう! 人のことを馬鹿にして! 大体声が出たぐらい怖いわけないじゃない! いい? 真琴が暇そうにしてたから教えてあげただけで、本当は全然怖くなかったんだからね!」
「さっき聞いたよ」
 ベッドの上でヒナ座りをする澪に台所から拝借した麦茶を勧める真琴。
 澪はそれを「ありがと」と受け取り、ごくごくと飲み込む。どうやら怒りと恐怖に喉の渇きを忘れていたらしく、コップは見る見るうちに空になっていく。
「うん。でも……」
「でも?」
「誰が犯人なんだろうね?」
「え?」
「だってさ、幽霊の声を出す方法はあれでしょ? でも誰がしてたの?」
 一難さってまた一難。もしあの行為が人為的なものであれば、実質人為的なものであるのだが、それはつまり誰かが自分達を怖がらせようとしていたということ。
 つまり、ペンションの中にも不届きな者がいるということだ。
「え、え、え、それって弥彦さんを突き落とした人と関係するかな?」
「わかんないよ。だって外で突き落とされたんだし、そうなると犯人の対象は御前海岸にいた人全員だもの。ただ……」
「ただ?」
 言葉尻を濁す言い方はいらいらするが、今は心の準備ができるだけましというもの。もし、とりとめもなく不安を煽る言葉を並べられたら、眠ることすら拒否したくなるかもしれないのだから。
「突き落としただけじゃないところを考えると、突発的な犯罪とは思えないよ」
「どういう意味よ」
「あのね、弥彦さんが見つかった場所は落下地点より少し離れた岩場なんだ。でも弥彦さんは動けない。つまり、誰かが弥彦さんを岩場まで運んだってこと」
「それが……」
 大体予想はつく。けれど、それを言葉にしたら不安がやってくる。出来れば彼に否定してもらいたい。そして、安心させてほしい。
「そういうことをしないといけない何かしら理由がある人って限られてくると思うよ」
 突発的犯罪を否定する意見に目の前が暗くなる澪。もちろん、これは真琴の推測の域を出ていない。けれど彼の予想というべきか推理は高確率で当たる。それも悪い方に。
「帰りたい……」
 肩が重い。幽霊の仕業ならどんなにいいのだろう。しかし、今現実を脅かすのは幽霊を思わせるいやがらせと、一歩間違えれば命に関わるかもしれないことをやってのけるものと屋根を一つにしているということ。
 海でのひとときは楽しかったが、それを帳消しにしてお釣りがくるほどの恐怖。
 溜めていた涙が零れるのも時間の問題だった。
「……なかないで、澪……」
 それを指でそっと拭いてくれたのはささくれのある指筋。
 昨日は恥ずかしいことさせられたが、少しの動作でどうしてここまで優しさをくれるのだろう?
「だって、真琴……」
 涙が零れてしまうが、後悔は無い。
 この頼りない幼馴染を、少し大人の男にしてあげるハードルみたいなものなのだし。
「澪、僕が必ず守ってあげる。一人しないよ……」
 寸前まで迫った唇は頬に触れ、ショッパイ水を舐め取ってくれる。
「くすぐったいよ……」
「うん」
「うんじゃなくて……」
「好き」
「好きだけど……」
「澪……」
「真琴……」
 真琴を受け入れたい。このまま朝まで一緒にいれば、繋がっていれば何も怖くない。
 けれど……。
「お願い、一緒にいて……」
「言ったでしょ? 一人にしないって……」
 細い腕は枕に不適合。指を絡めると細かい汗がネトネトして気持ちが悪い。多分塩を含んでいるのだろう。けれどそれも今は都合の良い接着剤。
 ――もし、真琴が求めてきたら……。
 横になる真琴はタオルを丸めて枕を作る。こっちを見ると「ちゅ」とキスの仕草をしてくるのがいやらしい。
 ――一体いつからこんなマセガキになったのかしら? きっと梓のせいね……。
「澪……」
「ん?」
「オヤスミ」
 けれど隣にいるのは自分のよく知っている幼馴染。
 ただの真琴の寝顔でしかないのに……。

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