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僕とあたしの海辺の事件慕_27

骨折?

◆◇――◇◆

 目が覚めたとき、真琴は少しだけお腹が痛かった。
 理由は澪の右足。寝相の悪い澪は彼のタオルケットを奪いすーすーと寝息を立てていた。
「澪ったら……」
 昨日は不安一杯だった彼女も今は安らかな寝顔。自分は一夜のナイトを演じられたのだと悦に浸りたくなる。
「でも……」
 不安の種は既に芽吹いている。ならばそれを刈り取るのが自分の役目。
 真琴は澪を起こさぬようにそうっとベッドから降りると、そそくさと着替えを済ませて部屋を出た。


 食堂に行くと早朝の散歩から戻ってきたのか久弥がタオル片手に牛乳を飲んでいた。
 腰に手をあてぐびぐびと呷る様子はまだまだ元気な働き盛り。とても引退を視野に入れた風には見えない。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「あの、ちょっといいですか?」
「ん? なんだい?」
「どうして島津さんを警察に引き渡さなかったんです?」
 美羽の知り合いとはいえ、不審騒ぎを起こした人物であるのは事実。大事にしないまでも、ペンションに一泊させる理由は無いのだし。
「それはじゃな、まあ、その美羽君とどういう関係なのか知りたくてな」
「美羽さんと?」
 美羽と文宏がどのような関係であってもそれは当人達の問題であり、雇い主である久弥がそこまで口を挟むべきことでもない。
「うむ。美羽君はちょいと事情があってな。その、両親が事故でね……」
「はあ」
「それでおばあさんと二人で暮らしていたそうじゃが、まあ、ワシのスケベ心みたいなもんじゃな。はっはっは……」
 高らかと笑う久弥は喜色満面な笑顔だが、どこか無理をしているのか視線がいつになく真琴から逸れる。
 ――スケベ心って、もしかして久弥さんは美羽さんを?
 不埒な妄想と思いつつ、もしそうなら文宏を一泊させる理由も無く、別の意味での不審感を強めてしまう。
「……あ、真琴! もう、どうして勝手にいなくなるの!」
 半開きになっていたドアから澪の声が刺さるように響く。彼女は早足でやってくるととりあえず一発小突く。
「もう、心配したんだから。真琴が幽霊に……」
「ゴメン、澪」
 ちょっとだけ目が赤くなっているのは涙のせいだろうか? だとしたらそれは嬉しくも胸が痛いこと。
「ふふ、幽霊か。もしかしたら弥彦の幽霊かもな」
「え?」
 昨日は病院に検査入院をしていたはず。
「もしかして何かあったんですか?」
「いや、昨日の夜に連絡があったぞ。不審者が見つかったといったら戻ってくると意気込んでいたぞ」
「そうですか……」
 和弥はともかく突き落とされた弥彦なら冷静ではいられないだろう。それに彼の性格と目的が合わされば這ってでもくるのでは無いのだろうか?
「しかし、幽霊か……、ふふ、理恵の奴酷いことするのお」
「知ってたんですか? 手すりのこと」
 真琴の問いかけに久弥は綺麗にそられた顎髭を撫でるようにして頷く。
「まあな。というか、ワシも昔ここに入院していた頃によくやったわい」
「やっぱりおじいさんもハンセン何とか病だったの?」
 怯えた様子の澪は真琴の影に隠れながら小声で聞く。
「うん? いや、ただの骨折じゃよ? 左足をちょっとな。確か木に登ってそんでおっこちたんじゃが、まあよくあることじゃよ」
 あっけらかんとした様子に澪も「うふふ」と噴出してしまう。
「おじいさん、ヤンチャなんですね」
「まあな、昔はガキ大将じゃったし」
 二カッと歯並びの良い笑顔を見せる久弥に澪もニィと笑顔を返す。
「でも理恵さんがどうして酷いって?」
「ふむ、それはじゃな、まだ理恵がおじょうちゃんぐらい可愛らしかった頃、このペンションに泊まりに来てな、ふふ、ちょっとからかうつもりで手すりでお化けのフリをしたんじゃ。そしたらアイツすごい剣幕で部屋を飛び出して、その後は……ふふふ」
 思い出しては笑い、話が途切れ途切れになるが大体のことは分かる。つまり理恵は例の声に怯えていた一人なのだ。
「おじい様? 余計なことを喋るとおばあ様がそうそうに迎えに来ますわよ?」
 開けっ放しになっていたドアをこんこんとノックするのは理恵その人。今日は二日酔いでは無いらしく、それでも機嫌が悪そうに眉をヒクつかせていた。
「はて、なんのことじゃったかの? 美羽さん、昼飯はまだかい?」
 久弥は誰もいない壁に向ってなにかを呟きだし、一瞬なんのことか分からなくなる。
「おじい様。ぼけたフリはやめてください。リアルで笑えませんわ」
「はは、リアルって……」
 ふうとため息をつきながら椅子に着く理恵。彼女はテーブルにあった温くなったコーヒーをカップに注ぐとそのままゴクリと飲み込む。
「澪ちゃんも気の毒ね、おじい様のイタズラに驚いたでしょ」
「なに? ワシはしとらんぞ。というか、理恵じゃないのか?」
 心外とばかりにボケたフリをやめる久弥。
「私が? んー、だって昨日はさっさと寝ちゃったし」
 理恵は頭の後ろで手を組みながら首を傾げる。
「ふむ、おかしいのお。一体誰が犯人じゃろうて」
 無い髭をさするのはクセなのか、久弥も首を傾げる。
「はは、二人が口裏を合わせてるとか、そんなんじゃないですよね?」
「うむ、それならもっと怖がらせるじゃろう。おじょうちゃんは怖がらせがいがありそうじゃし」
「そうよね」
「それはそれで……」
 ――酷い。
「でもさ、あのイタズラは病院の頃からあったんでしょ?」
「うむ。そうじゃな。あれは確かワシが左足を骨折したときのことじゃった」
「ご飯できましたよー!」
 久弥の話を遮るのは笑顔一杯の美羽と食器を運ぶ文宏の姿だった。

続き

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