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僕とあたしの海辺の事件慕_28

尋問?

▼▽――△▲

 テーブルに並べられたのはバタートーストにハムエッグ、レタスとトマトの簡単なサラダ。コンソメスープとミルク、オレンジジュースの並んだ簡素なもの。
 メインシェフの公子がいないとこのレベルまで下がるらしい。
「それでは何かありましたらおよび下さい」
「待て、せっかくじゃから君らも一緒に食べて行きなさい」
 ぺこりと頭を下げて戻ろうとする美羽達を呼び止める久弥。本来従業員である彼女達が身内とはいえ客と食事を共にするのは異例といえる光景。
 もっとも老人の暇つぶしと理恵などはそう気に止めておらず、もさもさとパンを飲み込んでいた。
「それでは遠慮なく……」
 とはいえ文宏にしてみればいつ警察に突き出されるのかと内心ひやひやしているらしく、椅子を引く手も震えてがたがたと音を立てる始末。
「して、文宏君とやら、君は美羽君とはどういう知り合いなのかね?」
「え? えっと、その、昔からっていうか、高校の頃の知り合いで、そんで……じゃなくてそれで、その時、実行委員だっけ? 文化祭の」
「うん。みんなが全然協力してくれなくて……」
「そうそう、そんでお前だけ残ってたんだよな、教室に」
「一人でいるの寂しかったよ」
「それでも泣かないんだから、美羽は強いよな」
「えへへ……」
「こほん」
 二人だけで盛り上る光景に久弥は短く咳払い。
「あ、すみません」
「それで、君らは実行委員をしてたというわけか。他には?」
 神妙な面持ちに戻る文宏に、久弥は先を促す。
「えっと、それで親しくなりました私達は高校を出てからも連絡を取り合いまして、そして、その、晴れて恋人同士になりました」
 緊張でカチコチになる文宏を見ていると笑いがこみ上げてくる。隣でフォークを振るう真琴も笑いを堪えているらしく、フォークの先は黄身をしっかりと潰している。
「そうか。ふむ、それでは……美羽君のご両親のこともしっているのじゃな」
「はい。ミィ……じゃなかった、美羽さんのことはその、辛いと思います。けれど、その、自分に何ができるかって考えたとき、俺、じゃ無かった私はその、傍に居てあげることしかできなくて、それでも彼女を大切に……」
 しどろもどろになりながら懸命に言葉を選ぶ様子には、見た目と裏腹な誠実さが現れてきており、いつの間にか含み笑いも途切れていた。
「そうか。ふむ、して美羽君もそうなんじゃな?」
「はい? あ、はい。そのフミ君がいてくれたから……あ、もちろんペンションで働かせてもらっているのはとてもありがたいですよ。お給料も良いし、おばあさまのお見舞いにいけますし……、でも、やっぱりそういうの、気持ちの上で頼れるフミ君がいてくれて嬉しいっていうか、ありがと、フミ君」
「どういたしまして、ミィ……」
「……それはもういいっつうの……」
 再び見つめ合う二人を裂くのは一人やもめの理恵。小声で「あたしだって楓がいるもん」と呟いているのが哀愁を誘う。
「ふむ。そうじゃったか。なら良いのじゃよ。うむ、仲良きことは美しきかなというべきじゃの。はっはっはっは……」
 相変わらずの高笑いで強引に締める久弥と、突然の祝福を受けて呆気に取られつつも手を取り合う美羽と文宏。
「えっと? まあ一件落着ってことよね?」
「うん。多分……」
 とりあえず拍手でそれを祝福すると、目の前のカップルは照れくさそうに頭を掻いたり、頬を染め始める。
 ――そういえば、あたしもこんな感じだったかも?
 今年の春を振り返ると思い出されること。真琴の無邪気な「一緒に帰ろう」から始まる恋人認定に、梓からの妙なライバル意識。周囲のからかいと瘤つき認定はあまり思い出したくない記憶。
 ――んでも、しっかりしてもらわなきゃね!
 隣でコーンフレークをかき混ぜるそいつにはその自覚も無いらしく、ただ無邪気に笑っているようにしか見えなかった。

◆◇――◇◆

 夕食に比べるとずっと簡素な朝食を終えると、ぽつぽつと雨音が響いてきた。
「えー、雨~……。せっかく泳ごうと思ったのに……」
「あーあ、残念だわ」
「まあ、天気雨じゃろうからすぐ上がるじゃろ。それまでの辛抱じゃ」
「私辛抱とかそういうの苦手……」
 テーブルクロスに指を走らせてつまらなそうな態度を示す理恵。すると再び食堂のドアが開き、前掛けをしただけの公子が茶色い石ころのようなものを持ってくる。
「暇なら手伝ってくれる? 胡桃がたくさんあったから、それを割ってほしいのよ」
「え~、そんな~」
「あ、あたし胡桃好きなんです。お手伝いしますね~」
 あからさまに嫌な顔をする理恵を尻目に、澪はひょいと前に出てかごとカナヅチを受け取る。
「澪ちゃん、胡桃好きなの?」
「はい、胡桃のパンとか香ばしいし、ちょっぴり渋みがあるところが大好きです」
「ふうん、大人ねえ……あ、そっか、大人だもんね」
「う、うるさいです」
 理恵のからかいの声に耳まで真っ赤にして俯く澪は、道具を受け取るとそのままテラスへと出て行く。
「あ、澪、僕も……」
「そういえば真琴君とやら、絵の秘密は分かったかね?」
 後を追おうとしたところを久弥に止められる。代わりに理恵が澪の隣に腰掛け、面白そうにかなづちを振るい始めるが、どうも出遅れたらしい。
「はい、それはその……まだ全然……」
「そうか」
 無い髭をさするのはクセなのだろう、久弥は遠い目をしながらただ黙りこくっていた。
「でも、あの絵はどこを描いたんです?」
 ひとまず話を合わせようとする真琴。
「うむ、実のところ言うと、ワシも覚えておらんのじゃ。確か窓から見える景色を描いたはずなのじゃがのお」
 久弥は腕を組むとそのまま感慨深く「ふう」と息をつき、昔を思い出すように目を閉じる。
「窓からですか。でも何で海を描かなかったんですか? 御前海岸は綺麗な海なのに」
「ふむ、そういえばそうじゃの。多分、海は見飽きたとかそんな理由じゃったかもしれん」
「見飽きた? ああ、なるほど、絵はここに入院していた人に描いたんですよね。いったいどういう人だったんですか?」
「それはじゃな……ふふ、とても美しい人じゃった」
 にやりと笑う久弥は到底齢六十六の老人には見えなかった。

続き

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