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僕とあたしの海辺の事件慕_33

※真相解明編ですので、ここから読まれると分かりません。

解明

▼▽――△▲

 皆の視線が真琴に集まる。普段なら現国の朗読ですら照れてしまう彼が自信満々で胸を張っているのが、澪には少し癪だった。
「帳簿です」
「帳簿?」
「ええ。僕と澪、それに弥彦さんに共通するのはそれぐらいですから」
 帳簿といえばそんなものもあった。けれど澪自身はそれを見ることもなく亮治に取り上げられてしまったので、特に襲われたり、怖がらせられたりするいわれも無い。
 ――もしかしてあたしが脅かされたのって真琴のせい?
「帳簿には赤い字がたくさんありましたね。でも、和弥さんの話だと、ここの経営はそこまで暗くない。黒字というほどでなくとも、トントンといったところですね?」
「ん、まあそうだろうな。詳しくは知らないが……、亮治さん、帳簿を見せてくれるかい?」
「待ってください。それは僕の話が終わってからにしてもらえますか?」
 真琴の一言に気になったらしい和弥は経理も担当している亮治に話を振るが、真琴はそれを制す。
 そして部屋の入り口のほうへ行くと、扉の前に立ってまた口を開きだす。
「不正経理……」
 真琴は小さく呟く。
 上目遣いは亮治を捕らえ、そして彼の小さな動揺を見逃すまいとしていた。
「はは、私が不正経理? それがばれるのを嫌って弥彦様を突き落とした? 馬鹿を言うなよ。そんなこと……」
「では、おとといの夜、どこにいました? 美羽さんに弥彦さん。それに亮治さんの姿が見えなくなっていたんですけど?」
「それは……その食堂の整理をしていたから……」
「僕も行きましたよ? 絵の秘密を解く鍵はどこにあるか分からなかったから」
 ――真琴、嘘ついてる。だって、おとといって言ったら……馬鹿真琴!
「いや、ガレージに居た……」
「ガレージは美羽さんと文宏さんが居ませんでした?」
「えっと、はい」
「フミ君ってば聞かないから……」
 頭を掻きながら文宏が呟くと、美羽が袖を突くようにして顔を赤らめる。
「そうだ。たしかワインの確認をしていたんだ。だから会わなかったんじゃないかい? あそこは空調が大切だから、基本的に鍵を掛けていたんだが、君はそこも見たかい?」
「そこは……調べてません」
 ――そりゃそうよ。だって真琴はそんな調査してないもん。
「でも、どうして嘘をついたんです? 澪を怖がらせてみたり」
「それはまあ、遊び心だよ。夏といえば怪談。そう目くじら立てることでも無いとおもうけど?」
 窮地に立たされていたはずの亮治だが、徐々に勢いを取り戻しだし、逆に真琴はネタ切れなのか眉間に皺がより始める。
「以前、ワインの盗難があってね、それ以来人が居るときでも内側から鍵を掛けているんだ。アリバイを主張できないのは辛いが、君の見ていないところでも人は活動しているんだ。自分の目に映ったものだけで人を疑うの止めてもらいたいな」
「それは、そうかもしれません」
「……ねえ、亮治さん。ちょっといいかしら?」
 窮地に立たされた真琴を見かねたのか、理恵が「はあ」とため息を着きながら前にでる。
「なんですか? 理恵様」
 亮治は優勢を維持するためなのか、わざとらしく明るい声で頷く。
「おとといの夜、澪ちゃんがお風呂場で悲鳴を上げてたんだけど、ワインセラーに居たら聞こえたわよね?」
「ちょ、理恵さん!」
 ――一体なにを言い出すのよ! ってか、悲鳴じゃなくって……。
「ええ、私が話した怪談がよっぽど怖かったんでしょうね……」
「え?」
 一同、いや、弥彦と沙希を除いた皆が何かに気付いたように亮治を見る。
 理恵は満足そうに胸を張り、真琴は顔を赤らめながらも確信を持った様子で亮治を見る。
「亮治さん、貴方、本当にワインセラーに居たの?」
 最初に口を開いたのは公子。対し亮治は自分の失策に気付いていないらしく、キョトンとしていた。
「私はワインセラーで……澪さんの悲鳴を聞いた……」
「ふふ、澪ちゃんは悲鳴なんて上げてないわよ。ちょっぴり……ね?」
 いやらしい笑いを向けてくる理恵に、澪はただ視線を下げ、原因の一端である幼馴染の隣に行くとゴツンと音が出る強さで彼を殴る。
「痛いよ、澪……」
「真琴の馬鹿。あんたがあんなことするから……」
「でも、そのおかげで亮治さんのアリバイを崩せたでしょ? 亮治さん。おとといの夜はどこに行っていたんですか?」
「な、そんな、馬鹿……なこと……いや、だから……」
 アリバイが崩れたわけではないにせよ、嘘をついていたのはかなり不利。また、動かぬ証拠、帳簿がある限り、不正経理を指摘されるのは時間の問題。
 亮治は真琴の肩を突き飛ばし、強引に突破を目指すが……。
「はいはい、逃がさないわよっと!」
 アルコールの入っていない理恵は音もなく亮治の傍らに忍び寄り、腕に絡みついたと思ったら次の瞬間容疑者を床に組み伏せていた。
「ぐえ!」
「動くと折れるかもよ?」
「さすが理恵さん」
 真琴は尻餅をつきながらえへへと力なく笑うばかりで頼りない。
 結局最後はこうなるところを見ると、どうも幼馴染は最後の詰めが甘いのかもしれないと、澪はオデコに手を当ててため息を着いた。

◆◇――◇◆

 海辺のペンションで起きた事件は管理人である亮治の捕縛で幕を閉じた。
 彼は久弥がそこまで利益追求をしていないのをいいことに、借金の返済に充てていたらしい。しかし、その額は八桁に上る勢いであったらしく、到底返せるものではなかった。
 おとといの夜に弥彦が帳簿を見ていた際、自分の不正経理がばれたと思い込み、夜逃げの準備をしていたらしい。
 しかし、弥彦が崖近くを歩いているところを見て、そのまま殺害、隠匿を試みた。けれど文宏の邪魔が入り、さらに公子に弥彦を発見されるなど殺害には及ばなかった。
 そのため、弥彦の移送は認めても殺害は否定に転じる。しかし、横領、不正経理の罪は免れることはなく、久賀久弥の制裁を待つことになるのだろう……。
 その際、老人の目は今もなお、現役を示していたのは言うまでも無い。

「さすが真琴君ね。今回も見事……うーん、まあ半分ってとこかな? 私のフォローなしじゃ追い詰められなかったぽいしね」
 帰りの電車に揺られながら理恵は楽しそうに呟く。今回も功労者である彼女は真琴に無理矢理おごらせたアイスコーヒーを片手にいう。
 本当はまだ避暑地に滞在していても良かったのだが、美羽と文宏の熱に中てられ恋人に会いたくなったらしく、帰ることになった。
「あはは、でも澪、僕達のがアリバイを崩す……いたっ!」
「アホか!」
 真琴のセクハラ的発言を言い終わることを待たず、澪の鉄拳制裁が飛ぶこととなる。
「だって……澪の……」
「うふふ、まあそうかもね。私もあんまり自信が無かったし」
 ストローに口を付ける理恵は意味深に微笑むので、何か裏があるのではと勘ぐる真琴。
「コーヒーに塩は合わないしね」
「コーヒーに塩? そういえば理恵さん、あの日って二日酔い……」
 二日目の朝を思い出すこと数秒、二日酔いに悩まされていた理恵はどこにいたのか? それは当然酒のある場所。つまりはワインセラー……。
「理恵さんはずっとワインセラーにいたんですか?」
 だとすれば亮治のアリバイが嘘であることを見抜いて当然。
「えへへ、そうなの。だから変だなって思ってさ……」
「理恵さん! もう、恥ずかしいじゃないですかあ。いくら皆知ってるからって、改めていわなくたって……」
 悪びれる様子なく笑顔の理恵。真琴も急に恥ずかしくなったらしく、裏返った声で批難しだす。顔を真っ赤にさせた澪は目に涙を浮かべながら理恵にしがみ付く。
「あはは、ゴメン。だってさ、酔ってたし、わかんなかったんだよね。それに、誰か来たッぽいし……」
「それってまさか亮治さん?」
「んーん、女の子。澪ちゃんでも無いし、多分沙希さんじゃない?」
「沙希さん? なんでだろ?」
 そういえばワインセラーでワインが無くなるとか何とか……。つまりは内部の犯行だろうか?
「まあ、そういう事よ。んでもさ、結局絵のことは分からずじまい?」
 この話はこれでおしまいと逃げ切りを始める理恵。それはほか二人にも都合が良いらしく、すぐさま神妙な面持ちになる。
「あの絵は……、見ての通り東と西の灯台両方が描かれてました」
「うんうん。それで」
 口を開く真琴に理恵も澪も興味津々の様子で頷き、
「その絵の真ん中がヒントだって言うのなら、それは多分二点の中心……」
 顎に当てた手で考えるポーズをしばし、
「まさか海岸に隠してあるとか?」
 思いつきを口にするも、それは絶望的な結末。もしも砂浜にあるというのであれば、それは当時であっても絶望的。探すどころの話ではない。
「いえ、あくまでも描いた場所の中心。つまり、ペンションの中です」
「へえ、言い切るってことはつまり、真琴君は見つけたってことでいいの?」
 真琴はそれに頷かず、ただ一枚の手紙を取り出す。
「えと、そのことなんですけど、理恵さんのお父さん、公務員ですよね? もし良かったら調べてほしいんですけど……」
「ん? 手紙? それってまさか……」
「ええ、あのペンション、シンメトリーでしょ? だからその中心を探したんです。そしたらポストの中、天井が壊れて二重になっていて、そこに隠してありました」
「そう。へ~」
 理恵は黄ばんだ手紙をしげしげと見つめつつ、裏返す。
「あ、名前!」
 何かに気付いた澪は声を上げる。

 古びた手紙の裏、差出人の名前が見える。

 そこにあった名前は……

 進藤妙

 どこかで聞いたような名前であったが、真琴は眼をつぶって首を振るだけ。
 肝心なところはいつも教えてくれない幼馴染が、少し格好付けだと思う今日この頃だった。


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