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……タイッ!?_37

合宿

 合宿に向う里美たちを見送ろうと、紀夫と理恵は朝五時始発にあわせバス亭へとやってきた。
 隣では会社に向うサラリーマンがあくびをしており、通りの向こうでは犬に散歩をせがまれる飼い主たちが急かされている。
「がんばってね、里美さん」
「うん。分かってる」
 早朝とあってかテンションも上がらない三人だが、それでも表情は晴れやかだ。
 その理由は合宿のメンバー。
 悟が合宿に参加したことは里美にとって嬉しくないことだが、取り巻きは参加を見送った。また、綾の参加もあり、憂いも薄れていた。
「アヤッチも参加してくれて良かったね」
「うん」
 練習で倒れたと聞かされた陸上部一同は合宿どころではないと一時騒然となったが、次の日の部活では元気一杯、かつこれまでの非礼を謝る素直な綾がいた。
 底意地の悪い部員はどこか薄ら笑いを浮かべていたが、美奈子がそれを睨むことで、彼女の謝意は受け入れられる運びとなった。
「でも、綾はあたしのライバルだもんね。よーし、今度の合宿で追い抜いてやるんだから!」
 めらめらと闘志を燃やす里美は天高く拳を突き上げていた。
「ふふふ、サトミン、元気だね」
「はいそこくっつかない。白線の内側までさがーる!」
 紀夫に寄り添うように首を傾げる理恵に気付いた里美はやけに近い二人の間をわざわざ通り抜ける。
「んもう、嫉妬しちゃってさ」
「これは嫉妬じゃないの。あくまでも高校生の清く正しい異性交遊というのがですねえ」
「いいよ。サトミン、しばらくノリチンとあえないし、理恵はバスが来るまで身を引いてあげましょう……」
「な、別にそんなことしなくていいわよ! あたしは紀夫なんかと……」
「いいからいいから……」
 理恵は振り向くことなくバス亭をあとにすると、そのまま近くのコンビニエンスストアに入り、携帯を弄りだす。
「あはは、理恵さんて変な気の遣いかたするから……」
「まったく、困ったもんだわ」
「そうだね」
「違うわよ。君よ、君」
 同じくらいの背丈の二人だが、里美がやや腰を曲げて下から睨みを利かせるように目を吊り上げ、ひとさし指で紀夫の顔の中心をちょんとつつく。
「俺が何したっていうのさ?」
「ふん。知らない!」
「もう、里美さんまでわかんないや……」
 自分勝手に機嫌が悪くなる里美をよそに、紀夫は腕時計を見る。
 もうしばらくすればバスも来る。合宿が始まれば十日近く会えなくなるというのにこの態度。女性の扱いもそれなりに学んできた紀夫でも、最近の里美の扱いは手に余る。
 あと数分程度、彼女が黙っていてくれれば何事もなく見送れる。
「ねえ……」
「何?」
 けれどそれは唇を尖らせた里美によって打ち砕かれる。
「綾をどうやって説得? したの」
「えと、綾さん、ちょっと男のことで悩んでたんだって」
 悩み事を軽々しくはなすのはマナー違反。けれど下手に隠して勘ぐられても困る。
「ふーん、君が男のことをねえ……」
「いや、あくまでも一般論だよ。その、気にし出したらきりがないっていう感じのさ」
「ふーん」
 つまらなそうに頷く里美はどこか上の空。もしかしたら綾の変遷もそう気にしておらず、ただ話のきっかけがほしかっただけなのかもしれない。
「ねえ、里美さんは……」
「あんたは悩みって無いの?」
「え? 俺の? 里美さん、聞いてくれるの?」
「いや、別に。ただあるのかな~って思ってさ」
 そしてまた目を伏せる。
「悩みかあ……俺の場合、そんなにないかも」
「そう? あたしはあるかも……」
 視線の端にバスが映る。低い振動音を響かせながら徐々にやってくるそれが、急に邪魔に思えてくる。
「なにかな?」
「うん。それはね……」
 目の前に止まる市営バス。ドアが開いても乗ろうとしない里美を避けてサラリーマンが先を行く。
「君のこと」
「え?」
 軽く胸が痛む。
 そんな朝の出来事……。

**

「で、サトミンと何はなしてたの?」
 帰り道、理恵は屈託の無い笑顔でそう切り出した。
 気を利かせて二人きりにしたハズの彼女からいわれるのは予想外だったが、そういう話が気になる年頃。
「別に。大した話はしてないよ」
「あー、なんか格好つけてる。あやしいんだ!」
 けらけらと笑う彼女は里美と違って素直で可愛らしい。
 なのに紀夫はどこか上の空。
 去り際に残された「君のこと」。ただそれだけなのに、どうしても耳に、心に残る。
 これならいつものように「理恵にエッチなことしちゃダメよ?」といわれたほうがまし。これから十日間、場合によっては彼女から明確な答えが聞けるまで続くのでは無いだろうか?
「もう、ノリチンのムッツリスケベ……」
 反応が芳しくないことにいらだった理恵はぶーと呟くも、彼の周りから離れようとしない。それどころか誘惑するように腕をとり、暑苦しいのもお構い無しに擦り寄ってくる。
 季節はずれの金木犀とバニラの匂い。ケチな理恵のことだから足りない香水をブレンドしているのだろうか? それに女性特有の甘い匂いが重なると、首を傾げたくなるフレーバーになる。
「ねえ、今日パパもママもいないだけど……、勉強教えてあげよっか?」
 ――理恵さんのクセに……。
 しかし、紀夫もすぐに思い至り、誘惑に逆らう気にもならなかった。


続く

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