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……タイッ!?_39

どこに行ったの?

 午前中は補習授業、午後はお昼を食べてから陸上部の練習。帰り道では軽くキスをかわして別れた二人。
 行為の濃淡が乱れたスケジュールをこなした紀夫はどこか物足りなさを感じていた。
 セックスもした。一緒にごはんを食べた。練習をした。帰り道でデートもどきをした。キスもした。
 ――なのにどうして?
 誰に邪魔されることなく桃色の青春の一日を過ごしたはずなのに、心にぽっかりと空いた……、むしろ引っかかる気持ちかもしれないが……?
 ――喉渇いたかも。
 たとえマネージャーとはいえ炎天下の元で洗濯物と格闘するわけで、彼も練習中はしっかり水分も補給していた。が、今彼が潤そうとしていたのは別のことかもしれない。
 もちろん、百二十円で潤せるものなど喉以外にないのだが……。

**――**

 その日は風の強い日だった。
 雲も多く、気温も若干低く夏の日にしては過ごしやすかった。
 キャプテンの久恵は部員達に校庭で練習するように言うと、倉庫の鍵を取りにいく。
 彼女がいなくなると同時に、皆勝手に活動を始めだす。
 男子部員は水着片手にプールに向かい、二年の女子も用具を並べて練習する素振りを見せるだけ。
「皆だれてるね……」
 タオルを片手にクーラーボックスを持ち込む紀夫はそのまとまりの無い練習内容にため息をつく。
「しょうがないよ。夏ばて気味だし」
 はつらつとした笑顔で夏ばてを主張する理恵には頷きがたいが、連日の暑さには紀夫も疲れ気味。しかし、そんな中でも稔と優だけはトラックの外周を走っていた。
「市川君に樋口さん、真面目だね」
「真面目? ふふふ、かもね~」
 理恵はどこかにやついた様子で言うが、すくなくとも今こうして練習一つしようとしない彼女よりもそう見えるのだが?
「いいなあ、二人とも……」
 その答えはピンクのジャージを腰に巻いた名前だけの顧問が出してくれる。
「ですよね。幼馴染で同じ学校、同じ部活に家も近い。美人美男子ってほどじゃないけど、そこそこいけてる二人だもん。ああいう青春を味わってみたいわ」
 相槌を打つのは当然理恵。つまり二人はそういう関係だと。
「そうなんだ……」
 軽いショックを受けるのはなにも二人の青春を羨ましがったからではない。
 稔の素行をそれなりに知っていたからだ。
 ――樋口さんは知ってるのかな? 彼が里美さんのこと……? あれ? そういえば市川君はいなかったかも?
 数ヶ月前に溯る里美のレイプ未遂。あのとき聞こえてきた声は悟と二人。おそらくは今プールで汗を流しているのだろう和也と真吾。
 和彦は里美を相手にしなくても愛理がいる。その視点からすれば、稔が例の現場にいなかったのも頷ける。犯罪行為云々を別とすればの話だが。
「あれ、部長は?」
 倉庫の鍵を返しに行った久恵の姿が見えない。
 合宿メンバーを除けば一番真面目に練習をしている彼女がどこで油を売っているのだろうか。
「俺、ちょっと見てくる」
 綾のように倒れていても困ると、紀夫は一人駆け出していた。

 とはいえどこを探せばよいかもわからず、ただひたすらに歩き回る紀夫。
 教室の大半は鍵がかかっているおかげで探す必要が無く、女子トイレに入ることもできず、校舎内の捜索を終える。
 部室棟を覗いてみるも新部室にも旧部室にも久恵の姿はなく、ついでにプールを見たが、やはりいなかった。
 ――どこいったんだろ?
 あと探していないところは……、ふと思いつく。
 ――保健室。
 後ろめたさのせいか意識的に見落としていた部屋に紀夫は向かった。

「失礼します……」
 校内で一つ、異質な部屋。保健室。消毒用のアルコールの匂いが鼻につき、校舎から切り離された存在だ。
「ん? どうした急患か?」
 豪快な裕子の声に気圧される紀夫。それでも入り口でつったっていたところで意味も無いと、ひとまず部屋に入る。
「いえ、陸上部の……久恵先輩!」
 すると裕子の前に久恵を見つける。彼女も彼に気付いたらしく、軽く会釈をしてくれた。
「あらマネージャー。誰か怪我でもしたの?」
「いえ、先輩の姿が見えなくて、それで探していたんです」
「ふーん、そ」
 彼女はあまり紀夫に興味がないらしく、そっけなく一言呟くと視線を包帯の巻かれた右足に向ける。
「先輩、脚怪我したんですか?」
「菅原さんはちょっと足捻ったぽいんでな、シップしといたから……まあ二、三日は様子みたほうがいいんじゃないか? 練習も大事だけどな」
 満面の笑顔の裕子は豪快に笑い、はさみで包帯を切り、きゅっときつく結ぶ。
「ありがとうございます。それじゃあ……」
 処置が終わると同時に久恵は立ち上がり、裕子に頭を下げるとそのまま部屋を出ようとする。
「先輩?」
「私、そういう事だから、先に帰るわね。平山先生に言っといて」
 勝手な言い草の久恵にさすがに腹を立てる紀夫だが、何か言おうとする頃には扉の閉まる音だけが残った。
「ふう、お前のところの部活、変なのが多いな」
「そうですか。そうですね……」
 どちらかというと真面目の部類に入るはずの久恵があの態度。いくら引退間近とはいえキャプテンとして他の部員の模範を示してもらいたいもの。
「それはそうと、ほい!」
「え? うわ!」
 振り返る紀夫の顔面に飛び込んできたのは日に焼けたカーテンとシーツが一組。
「なんですか? いったい」
「それも洗濯しとけ」
「そんな、僕は別に保健係じゃないですよ?」
 わけも分からずわたされた洗濯物をくるくるまとめ、ベッドへと戻そうとする。
「コンドーム……」
 その一言に紀夫の身体は硬直し、嫌な汗が流れだす。
 クーラーは二十五度のエコ設定。レースのカーテンで陽射しを遮り、保健室は部室棟などと比べて非常に快適な空間。にもかかわらず、今は針のむしろを被せられた気分。
「いやさ、私もそういうこといったし、責めるつもりはないよ。でもなあ、ゴム代ぐらいはボランティアしていいんじゃいないか?」
「な、なんのことです?」
「言ってほしいか?」
「いえ、その、洗濯大好きですし、別にいいですよ? これぐらい……」
 それだけいうと、紀夫はカーテン片手に振り返ることなく部屋を出て行った。

続き

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