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……タイッ!?_40

街中

 保健室のシーツを片付ける紀夫とそれを手伝う理恵。
 今日は陽射しが弱い代わりに風が出ていた。そのおかげでシーツ三枚も難なく乾き、今は片付けの最中。理恵も旧式の頃は自分で洗濯も出来たというだけあり、物干しロープからテキパキと働いてくれる。
「でも、なんでノリチンが保健室の洗濯してるの?」
「ん? ああ、綾さんや久恵先輩がお世話になったしさ、これぐらいは別に……、それより理恵さん、練習はいいの?」
「ん? んー、なんかあんまり練習って雰囲気じゃないし……」
 グラウンドのほうを見ると部員達は日陰でストレッチをしていたり、体育座りをしておしゃべりをしている。
 暑さもそうだが、キャプテンの久恵がいないせいか、いつも以上にまとまりのない部活に紀夫は首を傾げてしまう。
 ――ていうか、こういう時こそ顧問がしっかりしてくれないと……。
 ピンクのジャージを探すも彼女はグラウンドの隅で携帯を弄っており、おそらく相手は年下の恋人だろうか?
「今日雨降りそうだし、早めに上がったほうがいんじゃないかな」
 裾を掴む理恵は「今日も一人だし」と甘えた様子で近づいてくる。
「えっと、先生に聞いてみようか……」
 その意図を察した紀夫は焦る気持ちを隠しながら、洗濯カゴ片手にグラウンドへと走る。

「おう、お疲れさん。これやるわ」
 洗濯物を片付けると同時にポツリポツリと雨が降ってきた。
 それは瞬く暇もなく本降りとなり、紀夫と理恵は校舎へと避難する。
 そのついでに保健室にシーツを届けると、笑顔の裕子が飴玉の包みをいくつかくれた。
 彼女からしたら紀夫たちはまだまだ子供。とはいえ飴玉でご機嫌取りをされると思うとどこかプライドに傷がつく。
「ありがとうございます」
 とはいえ弱みを握られている紀夫は言い返すことなどできず、そのうちの一つを理恵にわたし、自分も一つ食べる。
「ん? あれ、その子は?」
「え? ああ、陸上部員ですよ。ただの……」
 「ただの」という言葉のあと、左足のふくらはぎに鈍い痛みがやってくる。振り返るとりえがそっぽを向いているが、ここでも紀夫は言葉を間違えたらしい。
「その、帰ります……」
「ん、そのうちまた頼むよ」
 裕子は笑顔のまま手を振るので、紀夫たちも頭を下げて部屋をでた。
「ふーん」
 しかし、裕子の姿が見えなくなった途端、理恵はつまらなそうに鼻をならす。
「なに、理恵さん……」
「理恵って、ノリチンにとってただの部員なんだ……」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
 紀夫が理恵を「ただの」といったのは理由がある。それは裕子にこれ以上勘ぐられないためだ。そもそも飴玉の包みと思っていたいくつかは例のゴムの残り。
 下の話にも敏感そうな裕子の入らぬ気遣いが紀夫に過剰な反応をさせたのだ。
「しーらない。ノリチンなんて勝手にすれば?」
「え、ちょっと理恵さん……」
 情けなく追いすがろうとする紀夫だが、その気配に気付いた理恵は陸上で鍛えた脚を活かしてそそくさと走り去る。
 それは運動と縁遠い紀夫にはけして埋められない距離だった。

 部の用具を片付ける頃には雨も上がっていた。
 本来なら部員全員で行うはずの、雨にかこつけて逃げ去った部員達が多く、結局残っていた紀夫と稔、それに優と愛理の三人で片付けることとなった。
「ふう、皆おつかれさま。もう、他の子には明日きつく言っておくからね」
 困った様子で言う愛理だが、きっと彼女にそんなことは出来ないだろう。そもそも起こったところで迫力がついてこない。
「それじゃあ僕らはこれで……」
 稔は優に「どこかいく?」と放課後の予定を聞いているが、どうやらかなりの仲なのかもしれない。
 ――なんで稔君は? 変なの……。
「やっぱり羨ましい? 紀夫君は彼女さんとかいるの?」
 一人首を傾げて稔達を見送っていると、その様子を勘違いした愛理が能天気なことを言い始める。
「え、別に、そんなの……」
「紀夫君、理恵さんとか里美ちゃんと仲がいいけど、どっちが本命? あ、そういえば綾ちゃんともなんか話してたよね。ねえねえ、誰なの? 君の恋人候補って……」
「恋人候補って……」
 女子高生、もしくは女子大生の特に脳内お花畑の面積の広い部類の会話を向けられ、紀夫はしばしぎょっとする。相手は自分より七歳ほど年上のはずなのにと思うも、一方で余計なことも蠢きだす。
 ――俺の本命?
 一番最初に頭に浮かんだのは理恵。
 初めての相手であり、つい最近も肌を求め合った仲。先ほどは言葉のすれ違いで分かれてしまったが、それでも明日になれば彼女とも……。
 ――好きってことなのか?
 理恵の誘いをふいにしてしまったのは残念なこと。けれど、我慢が出来ないほどでもない。肌を重ねていながら、今だ彼女をそれ以上に好きになっていない自分が汚いと思えた。
「いえ、別にいません。それじゃあ失礼します」
 だからだろう。言葉が荒々しくなり、愛理を少し怯えさせてしまったのは……。

 一人自転車を走らせて帰り道を急ぐ。つもりだった。
 普段なら理恵を送っていくついでに公園近くで甘酸っぱいヤリトリをするのに、今日は無い。
 それが彼を遠回りさせたのだった。
 街中を自転車で走るのはそれなりに危険が付き纏う。
 買い物帰りの主婦を避けたり、ランダムに行き先を決める子供をかわすなど、運転に集中ができない。
 仕方なく自転車を降りるも、歩く人の波に煽られ、行きたい方向もなくただ流されるばかり。引き返そうにも人は時間とともに増え、それを避けようとすればするほど路地裏へと追い詰められる。
 ――え? ここどこ?
 普段歩いているはずの駅前の商店街。けれど二つ路地を突き抜けた先はきらびやかな飲み処の並ぶ通り。
 会社帰りのサラリーマンを出迎える準備に余念がないらしく、どこの店も忙しそうに掃除をしていたり、乾いた道路に水をまいたりしている。
 ――あんま用もないしな。
 付近に大学もあるため、大学生らしきグループが店を物色していたりするが、自分にはまだあと三年は縁遠い。ひとまず路地を出ようとするも、人波に逆らえず、さらに別の世界へと押し流されてしまう。
 きらびやかなネオンとお化け電灯の蠢く路地。人気が無いのがかなり不安だが、走り抜けるには丁度良い。
 ――よし、行くぞ!
 自転車に跨り、ペダルを踏む。温い風が頬を撫でたら、そのままうらびれた路地を抜けるだけ……。
 ――あれ?
 道を行くさなか、ふと見えた男女のグループ。
 一人の女子が小瓶を掲げているが、そのセミロングは見覚えがある。
 ――キャプテン? 久恵先輩?
 急ブレーキを利かせるとハンドルが横に流れる。そのままではショーウインドウにぶつかると、あえて身体を横にして転ばせる。
 減速のおかげで制御もできた。つま先一センチが削れてしまうも、たかが学校指定の通用靴。惜しくはない。
「うわ、派手にこけたな」
「はは、だっさ……」
 後で男達の笑い声が聞こえる。
 紀夫は少し腹立たしくなりながら立ち上がり、男女のグループの中から例の彼女を探す。
「なんかこっちみてるんですけど……」
 茶色に染めた髪、ねじれたように巻き上げる髪はどういう構造なのか分からないが、重そうな頭をした女がつまらなそうに喋る。
「……」
 知らない女に用は無い。もし見間違えならそれはそれでよい。けれど……、
「久恵!」
 どうして名前で呼んだのかは分からない。ただ、そのほうが都合が良かった気がした。
「なにアイツ、アンタの知り合い?」
 重そうな頭の女が路地裏を見る。すると男達も路地裏を空けるように動き、面白そうに成り行きを見る。
 部活の間の赤いジャージではなく、ジーパンと腰周りにヒラヒラしたスカートのようなもの、上は黒のノースリーブ、ブラの肩紐が見えているが、本人は直す素振りもない。眼鏡は外しており、髪も三つ編みではない。
 が、久恵であるのは確か。彼女が嫌そうに自分に視線を返したのが理由。
「何してるのさ、帰ろうよ」
 彼女は促されるもヒールの高い靴では歩きにくいらしく、腕組みをしながら動こうとしない。
「なんで帰らないといけないのよ。馬鹿じゃない」
 反応はしてくれる。なら脈はある。だがなんて言えばよいのだろう? 下手に出ればたたき出されるだろう。隣の大学生らしき男達には逆立ちしても敵いそうに無いのだし。
「えと……、パパとママが心配してるよ! おねえちゃん、早く帰ろうよ!」
「パパとママ?」
 一瞬の静寂のあと、夕立に匹敵するほどの哂い声が路地裏に響いた。

「何がパパとママよ。マネージャーは言ってて恥ずかしくないの?」
 路地裏を追い出された久恵はつまらなそうに吐き捨てる。仲間というべき存在から見捨てられる格好になった彼女は不機嫌そのもので、先ほどから一度も紀夫のほうを見ない。
「だって、それが最善手だと思いましたから……」
「そうね、その通りだわ。君のせいでせっかくの友達がいなくなったわ」
「すみません……」
「せっかく楽しかったのに、いい気分でいれたのに……」
 横顔はやや赤い。おそらくはアルコールのせい。
 紀夫は酒の類を飲んだことが無いが、酔っ払いは家でもなんどか見ている。
 久恵は特に真面目というわけではない。部室での行為を見ていたせいか、それほどショックはない。
「先輩、もしこんなことばれたら……」
「そうね、停学かもね」
 急ぐ彼女だが、脚をたまに引きずっているのが見える。
「部活は……」
「まあ、活動自粛かもね」
「ふざけないでください!」
「ふざけるって……私が? それとも部員が?」
 ようやく振り返った彼女は挑むように彼を見る。
「どういう意味ですか?」
「そのままじゃない? 陸上部の皆だって真面目にやってると思う? 結局陸上なんて個人技じゃない」
 睨むようにこちらを見る彼女から初めて怒りが見える。
「先輩、やっぱり……」
「私も別に真面目になんかやるつもりないし、だから今日だって遊びたいしさ」
「帰りましょうよ。足、捻ってるでしょ。痛そうですし……」
「うるさいわね。いつまで着いてくるの? アンタストーカー? きもちわるいわね!」
 立ち止まる彼女は言葉だけで紀夫を拒絶する。攻撃し、どうにかして撃退しようとしている。
「ヒールなんて履くから……」
 逃げられないことを見抜いた紀夫は久恵に近づき、自転車に乗るように荷台を向ける。
「馬鹿じゃない、そういう恋愛ごっこは他の子とやれば?」
「なんといわれようと、先輩を放って置けません。先輩がどこにいこうとも、絶対に邪魔しますからね」
 ゆっくりと諭すように言う紀夫にはそれなりの迫力もあったのかもしれない。それともただ足が痛かったのか、久恵は荷台に乗り、つまらなそうに足をぶらぶらさせる。
「早く行きなさいよ。もうツマンナイし、送って行ってくれるんでしょ?」
「ええ、しっかり掴まっててください……」
 再び自転車に跨り、ペダルを強く踏む。理恵を送ることで鍛えた脚は後の荷物をものともせずにスピードを生み出す。
 まだ人通りは少ないが、十五分ごとに来る電車を考えれば表通りを通るのは得策ではない。
「少し遠回りしますけど……」
「うん。いいよ」
 背中に寄りかかる久恵は理恵よりもずっと軽い。
 なんとなく、ペダルを漕ぐ足に力がこもらなかった……。

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