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……タイッ!?_43

お手伝い

「紀夫が来たんだ」
 綾は心なしか弾んだ声と手を振って出迎えてくれる。
「皆と仲良くやってるみたいだね、綾さん」
「ああ、まあな」
 この前の一件で打ち解けるようになったのは綾にとっても紀夫にとっても大きな前進。
「あらあら、彼女に会いたくてこんな辺鄙な場所まできたの?」
 里美と一緒にいるのを面白そうに見つめるのは紅葉。
「やめてください。彼女なんて……あたし別に……」
 そそくさと隣を外れる里美に後ろ髪を引かれる気がするも、これ以上紅葉にえさをあげてはいけないと我慢する紀夫。
「えっと、ゼッケンに部員名簿、住所っと……えと、君勝手にみてないよね?」
 荷物を受け取った美奈子は確認ついでに釘を刺す。
「見てませんよ。信用してください」
 慌てて取り繕う紀夫に美奈子はさりとて興味を示さず、「提出してくるから」とそのまま事務室のほうへと行ってしまう。
「あらあら、美奈子ちゃんはご機嫌斜めね……」
 綾の後に隠れるような仕草をする紅葉だが、それは里美も綾も同じ感想らしい。
「なんかさ、今度は先輩がへそ曲げたんだよね……」
「そうなんだ」
「うん。まあ、練習は真面目にやってるし……」
「そうだ、それよりタクシー呼ばないと……」
「ん? なんだ、今日帰るのか……。残念だな」
 意味深な「残念」の言葉に紀夫は唾を飲む。
「じゃああたしと紀夫は電話……」
「電話ぐらい一人で行けるでしょ? ほらほら、里美ちゃんも綾ちゃんも練習しましょうね……!」
「あ、先輩……」
「ほらほら、マネージャー君はさっさと帰る。君の仕事は他にもあるでしょ?」
「はい……」
 紅葉のいう事はもっとも。けれど、彼女から言われるとそれはただのイジワルにしか聴こえない。
 ――きっと先生もこんな気持ちだったのかな?
 紀夫は先ほどの悪行にわき腹が痛んだ……。

 山の天気は変わりやすい。それは葛城山系も同じらしく、紀夫が電話をしようと舌頃には雷を伴う酷い雨となっていた。
 ―弱ったな、雷までなるなんて……。
 昔ながらのピンクの公衆電話に百円玉を入れ、早く繋がることを祈ること数十秒。
「はい、こちら相模交つ……」
「あの、タクシーをお願い……もしもし? もしもーし?」
 次の瞬間、激しい明滅とともに電気が消えた。
「え? 停電? 嘘……」
 外では雨粒が激しく窓を叩く。けれど電話口からは何も聴こえない。
「嘘、普通停電しても電話って使えるはずじゃ……」
「無理無理、ここの電話古いタイプだから……」
 先ほど紅葉に連れて行かれたはずの綾がタオル片手にやってくる。彼女は非常ダイヤルを押すが、ピンクの電話は何も反応を示さない。紀夫は仕方なく受話器を置き、お手上げとばかりに両手で天を仰ぐ。
「はは、踏んだり蹴ったりだな。まあ、一日ぐらい大丈夫だろ。布団だってあるしさ……」
「そう? 良かった……」
 とはいえ、これで二日連続の外泊。しかも電話も通じない場所で……。
「弱ったなあ、家に連絡できないと……」
「大丈夫だろ? その頃には電話ぐらいさ……それよかさ、あたし、困ったことあるんだ……」
 両手を合わせて腰を低くする綾はやっぱり変わったのだろう。
「何?」
「聞いてくれる?」
 手招きする綾に、紀夫は何の躊躇もなしに近づく。
「うん。だから、何?」
 笑顔の彼女は昇降口のほうへと行き、誰もいないことを確認したあと、紀夫を強く抱きしめ、唇を交わす。
「ん? んぅ?」
 一瞬の早業に避けることもできず、唇を奪われる紀夫。
 柔らかく、ねっとりと酸っぱい唇。頬には乾いていない汗が流れ、ジャージから匂いがする。
 ――綾……。
 背中を下駄箱に預け、彼女にされるがままになる紀夫。
 身を差し出す献身的なサポート。といえば聞こえは良いものの、ただの性的搾取に過ぎないのではないだろうか?
「んちゅ、あう、れろれろ……ちゅぱ……ふぅ……んぅ……」
 キスの快楽に足が哂う。傘たてに手をつくと、彼女も追いかけるようにその手を重ね、絡めてくる。
「綾……ん、ちゅ……」
 唾液が流し込まれ、逆に吸われていく。そんな栄養補給的なキス。
「ん、はぁはぁ……ありがと、美味しかったよ……」
 ねっとりとした唾液の糸を伸ばしながら綾は唇を離し、「さあ練習練習」と張り切って体育館の方へと走って行った。
 ――綾さん、キス……好きなのかな?
 残された紀夫は快楽の余韻に浸り、まだ腰を下ろしたまま。
 問題は雨音に混じる不審な音に気付けなかったこと……だが?

 停電がおさまったもののあいにくの天気にタクシーが来られないとのこと。いきなり山奥に足止めされてしまった紀夫は合宿のホストである大学側に訳を話し、一晩だけ泊めてもらうことにした。
「はいこれ盛り付けて、それが終わったら今度はテーブル拭いてくる」
「はーい!」
 その代わりは肉体労働六時間。白いだぶだぶのエプロンを借り受け三角巾をつけ、かいがいしく台所を走り回る。
 時給換算してみれば妥当と頷くしかなかったが、高校生大学生合わせて五〇人分の食事の用意は尋常ではなかった。
 午後四時から始まり、用意が終わったのが五時半。食事を運ぶのも台所と食堂をニ十は往復した。しかも途中から練習を終えた学生達がやってきて混雑しだし、さらに時間がかかってしまう。
「……はあ、しんど……」
 身から出たさびとはいえ置かれた境遇を嘆く紀夫。その間も「お代わり」を求めるスポーツマンの卵達にしゃもじを振るうしかない。
「がんばってるねえ」
 おちゃわんと一緒に来たのは里美の笑顔。
「はは、これぐらいどうってこと無いよ」
 彼女の前ぐらいは格好つけたいと強がるものの、彼自身は夕食がまだであり、皆がおいしそうに食べているのを羨ましく目で追ってしまう。
「紀夫はどこで寝るの?」
「えっと、給湯室の奥が空いてるって言われたから、多分そこに布団しくと思う」
「ふーん、良かったね、畳の上で」
「うん。さすがに倉庫で寝袋って言われたら大変だし……」
 はははと笑いあう二人の間にぬっと伸びる手。しっかり茶碗を持っているそれは綾のもの。
「はいはい、おしゃべりしてないで仕事しましょうね」
「なによ。少しぐらいいいじゃない」
「なに言ってるのよ。さっきから里美、浮かれっぱなしで見てるこっちが恥ずかしいってば……そんなに彼氏が来たのが嬉しいの?」
 頭一個近く背の高い彼女は勝ち誇ったように見下ろしてくる。
「な……!」
「え……!」
 毎度紅葉から言われている「彼氏発言」が綾の口から出たことに驚くのは里美。一方で紀夫は別の感想を抱く。
「綾までやめてよ。どうしてそうくっ付けたがるかな……」
「だってくっつこうってしてるんだもん」
「してない」
「してる」
「してない!」
「してる!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて……あ、ほら、他の人のお代わりが……はいはいただいま……」
 言い争う二人の間をぬってお茶碗を受け取りごはんをよそる紀夫。その様子はどこか微笑ましいものでもあった。

続き

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