FC2ブログ

目次一覧はこちら

……タイッ!?_44

また謀られて

 夕飯にありつけたのは後片付けの終わった午後八時。
 明日は朝四時に起きて朝食の準備。それが終われば放免との約束。紀夫はあとヒト踏ん張りといつもより多めにごはんを食べた。
 合宿のメンバーは寝る前にストレッチが義務付けられているらしく、たまに開いている部屋を見ると皆ゆっくりと整理体操をしていた。
「あ、紀夫君……ちょっといいかな……」
 聞きなれない声に振り返るとそこには和彦がいた。
「やあ佐伯君。こんばんは。えっと、何か用?」
 紀夫は特に和彦と仲が良いわけではなく、クラスも別。接点といえば陸上部だが、紀夫はあくまでも女子陸上部のマネージャー。
 ただ、言葉が詰まるのは例の後ろめたさがあってのこと。本来なら愛理が来るはずだった忘れ物を届けるというイベントを、ちょっとしたイタズラ心と嫌がらせで台無しにしたのが原因だ。
「部のほう、どうかな」
「うん、問題ないよ。先生が上手く仕切ってると思うし……」
「そ? そっか……」
「はは、大丈夫だよ……」
「そう……」
 和彦が何を言いたいのかは充分にわかる。けれど、それをいえないのは彼の性格以上に二人の立場と関係だ。
 生徒と教師。しかもプラトニックではなく、身体で始まった関係。言葉選びをしようにも齢十六の彼の語彙には無理な話。
「えっとさ、先生のこと? 何か用があるなら伝えてあげるよ……」
「いや、いいよ。悪いし……」
 その悪いは誰にとって悪いのか? 穿って考えこんでしまう紀夫は自嘲気味に唇の端を歪ませる。
「大丈夫だよ。俺、佐伯君と先生のこと知ってるし……」
「ん? マジで?」
「ああ、だから……」
「そっか……知ってるんだ。じゃあさ、俺、帰りの日にち、一日ずらして親に連絡してたからって伝えてよ……それで多分分かるから」
「そ? 分かったよ……」
「それじゃ、ありがとう……」
「ああ、合宿がんばってね」
 一礼して去っていく和彦を少し羨ましいと思う紀夫。
 一日ずらすということは一日空白を作ったということ。つまりはそれだけ……。
 そしてそれ以上にお互い行為だけでなく、気持ちの上でも結びついていること。
 ――俺は……誰かを好きになれるかな?
 肌を合わせても唇を重ねても、一つになっても他の誰かを考えてしまう自分が少し恨めしかった。

 給湯室にはテレビが置いてあったので、暇つぶしにチャンネルを回す。アンテナの調子が悪いのか、砂埃が酷かったり線が引かれていたりと画質がよくない。
 時間帯もバラエティー番組ばかりで特に見たいものも無い。それでもつけていたのは雨音を紛らわせるため。
「おーい、紀夫くーん!」
「あれ、紅葉先輩」
 ジュース片手にやってきたのはあまり顔を合わせたくない先輩、紅葉だった。
「災難だったね、こんな雨になるなんてさ」
「はあ」
 ジュースを勧めてくれるので遠慮なくもらうことにする。
「でもさ、なんかドキドキしない?」
「なにがです?」
「だってさ、皆とお泊りするんだよ? 君の大好きな里美ちゃんとさ……」
 やけに上機嫌なのはそのせいだろう。この紅葉という先輩はどうしても恋愛沙汰を引っ掻き回したいらしい。
「そうですね、ドキドキしますよ」
「うふふ、そうなんだ。ならさ、夜這いでもしちゃう?」
「はいはい、考えておきますよ」
 適当に頷く素振りをすればつまらなくなって帰るだろう。下手にいい訳をしたところで難癖つけられるのは目に見えているのだし。
「ふーん。そうなんだ……」
 しかし、紅葉は別段つまらなそうでもなく、それどころかしてやったりと笑いがこみ上げている。
「なんですか? 先輩……」
「夜這いされちゃうかもよ? 里美ちゃん……」
「え?」
 ガチャリと扉が開くとそこには里美と綾。綾は明らかにつまらなそうな顔をしており、逆に里美はシャツの裾を目一杯引っ張って視線をどこと無く彷徨わせている。
「あ、いや、これはその、紅葉先輩酷いです! いるならいるって……」
「思ってなきゃ言わないでしょ? 夜這いするなんて……」
「まったく紀夫は節操が無いな……」
「誤解っていうか、罠でしょこれ!」
 醒めた視線の綾に必死でいい訳する紀夫。
「あはは、戸締りするから大丈夫だもん。部屋、鍵ついてるしさ……んじゃさ、おやすみ。紀夫も変なこと考えちゃダメだよ」
 明らかに変なことを考えている様子の里美は二人を待たずにさっさと行ってしまう。
「あらら、里美ちゃん照れちゃって……」
「大丈夫ですよ先輩、里美はあたしが守りますから。この節操なしのヤリチン野朗からね」
 綾は吐き捨てるように言うとそのまま里美と同じ方向へ行ってしまう。
「綾さん……」
「あらら、複雑ね……」
「もう、先輩酷い!」
「うふふ、大丈夫よ」
「何が大丈夫ですか!」
「だって二人とも君に気があるでしょ? その気になったら三人ですればいいじゃない?」
「な!」
 笑顔満面の紅葉に対し凍りつく紀夫。しばしの間、雨音すらも紅葉の哂い声に聞こえた。

 身体は充分に疲弊している。けれど眠れないのは雨音がうるさいからだろうか?
 ――里美さん。結局聞けなかったな。
 一番の理由は久しぶり、といっても二日ぶりにあった里美せい。そして紅葉のせい。
 彼女が自分の何を気にしていたのか? 紅葉曰く、「君にきがある」。それらが絡み合い、渇く心をむず痒くさせる。
 ――俺、もしかして里美さんのこと……。今日まで俺は里美さんをどう思ってたのかな? だってさ、守るとか力になるって……そういうの好きじゃなかったら出来ないよな? それとも憧れ? いや、そういうのは無いよ。だって別にスポーツ見ないし……。でも里美さんの走った姿は綺麗だった……。
 高総体の決勝を走った彼女の姿は今も覚えている。
 スラリと伸びた足が大地を蹴り、後を寄せ付けず、果敢に前を目指して加速する姿。ショートカットの髪が風になびかせていた。
 そして一人雨の中立ちすくむ彼女。
 強がりで構ってほしい駄々っ子のような彼女が自分に寄り添ってくれたのが嬉しかった。
 ――きっと俺……。
「……起きてる?」
「はい!?」
 扉の向こうに女子の声。
 携帯は十二時少し前を示していたが、こんな時間に?
 ――まさか里美さん?
 先ほどのヤリトリが思い出される。
 もちろん彼は夜這いに行くつもりなど無い。そもそも綾がいる以前にここはホテルではない。防音設備など設計の段階で省かれているであろう場所なのだ。
 けれど給湯室は?
 一階のはずれにある部屋で、特に近くに人気は無い。扉も鍵をかけられることを考えれば、それなりに……。
 ――俺は……期待してる?
「はい……今開けます」
 扉の向こうにはきっと里美がいる。寝具を片手に寂しそうな顔、それとも真っ赤にして強がっているかもしれない。「君が遅いからあたしから来た」とか言い出して……。
 鍵を捻り、ドアを開ける。
「えっと……え!?」
 今日何度目か分からないが、再度息を飲む。
 扉の前にいたのは里美でも綾でもなく、美奈子だったから。

続き

Trackback

Trackback URL
http://13koharu.blog73.fc2.com/tb.php/155-1fb09a35

Comment

Comment Form
公開設定

プロフィール

小春十三

Author:小春十三
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ

創作検索ぴあすねっとNAVI
dabundoumei
trt
オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび  
リンク予定


二次元世界の調教師様のサイトです。



無料アクセス解析