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……タイッ!?_45

詮索

「あのさ、島本君は綾とどういう関係なの?」
 雨音が小降りになった頃、ようやく美奈子は口を開いた。
 先ほどまでは二人とも正座したまま押し黙り、紅葉の置いていったジュースを定期的に飲むぐらいしか動作が無かった。
 動き出した時間は意外にも綾について。
 てっきり里美や理恵との関係と部活についてのお小言かと思っていた紀夫にしてみれば、肩透かしを食らった気分。
「えっと、どういうといわれましても、綾さんとは部員同士とういか、マネージャーとして悩みを聞く立場で……」
 彼女特有、というよりは思春期なら誰でも大なり小なり感じてしまうこと。その治療法は少々役得感があるものの、結果を見れば綾の心理的障壁を取り除くこととなったのだ。
「キス。してた……」
 ハーフパンツの上で固めた拳を握る美奈子。
「あ、はい。してました」
 見られていたのなら言い訳も無駄。綾との唇の交歓はあくまでも自由恋愛なのだし、先輩だからといってとやかく言われる必要もない。問題は場所だが、彼女以外に目撃者がいないのなら特にないはず。
「そういう関係なの?」
 しかし、一番のネックは美奈子らしく、問い詰める声に徐々に力が入りだす。
「いえ、違います」
「なら!」
 すっと出た言葉は自分でも卑怯な言い草と知る紀夫。けれど、それが本心。というよりも、まだ彼の中の彼女への気持ちが固まっていないのが正しいのかもしれない。
「君は恋人じゃない子とキスするの? 信じられない!」
 小さな体躯の美奈子が立ち上がる勢いで抗議をするも迫力はそれほど無い。
「いえ、その……ただ、綾さんがしたいっていうから……」
「綾のせいにするの? キスを? 君って卑怯だね」
 明らかな侮蔑を含む彼女に今度は紀夫が視線を落とす。
 キスをされたのは事実。抗わなかったのも事実。

 ただ、求めたのは彼の方。

 それを美奈子は……。

「保健室でもそう? 綾がしたいって言ったから?」

 知っていたらしい。
「あれは、俺から……」
「ならキスだってそうじゃないの?」
「いえ、アレは不意打ちで……」
「もう! 煮え切らないのね……」
「すみません」
「謝ってどうするのよ……」
 そしてため息が交差。続くのは無為の静寂のみ。
「…………」
「………………」
 氷の無いジュースは外気に当てられ温くなっている。飲むと甘さが強くなっており、喉がイガイガと痛む。無理をして飲むのは喉に詰まった溜飲でも下げる目的か?
「ふぅ……」
 今飲んだばかりなのにもう喉が渇く。窓を閉め切っているせいで湿度も室温も上がる一方。それ以上に美奈子の放つ見えないプレッシャーが重苦しい。
 そもそも彼女とはほとんど接点が無い。前々から何かと綾に世話を焼いていたのと、彼女自身しっかりものなおかげで、彼からすることといえばタオルを渡して受け取る程度。栄養補給から何まで彼女が自主的に行っていたのだ。
 ――前園先輩、どうして綾さんを?
 綾とは対照的な美奈子。背は小さく、髪もクセ毛が跳ねるのが嫌らしく、少し長くして二つに束ねている。目は伏せ目がちで横に長く、細い眉に似合っている。胸やお尻は長距離、フルマラソンの選手のようにしまっており、あまり女性的魅力には恵まれていない。そのせいか、あまり目で追うこともなかった。
「綾ってすごいよね。あたしより年下なのにさ、大会でて記録だして……」
「え? あ、はい……」
 綾の走っているところまではビデオに録画していた。ただ、見返していないせいで記憶には薄い。
「あたしさ、綾と同じ高校だったの」
「ああ、それで……」
「また今年から一緒に部活できるって思ってたのにさ、なんか綾変で……」
「ええ」
 おかしくなった理由は元恋人の何気ない一言。頑固で一直線、時に極端な彼女ならではのヘコミかたの結果。
「それがさ、君とエッ……チ、エッチしてからまた昔の綾に戻ってさ。ふふ、綾ね、あたしにも謝ってきたよ」
「そうだったんですか……」
「君のせいで」
「俺のせい?」
 そこは「おかげ」だろうと思うも笑顔になりかけた彼女に言い返すのも得策ではないと飲み込む。
「えっとさ、それで、なんでエッチしちゃったの?」
「それは、ゴムがあったし、あと、綾さん、初体験があんまり良くなかったみたいだし……」
「えー! 島本君って意外に自信家だね。なに? 俺なら綾にセックスの良さを教えてやれるって意味?」
 嫌味ではなく素直に驚いているらしく、美奈子は口元に手を当てながら興味津々という様子で紀夫の顔と、ある一点を交互に見る。
「いや、そういうつもりじゃ……でも、綾さんの身体で、男はその、喜ぶっていうか、変なんかじゃない、素敵なんだって、そういうのを伝えたくて……」
「それって言葉じゃだめ?」
 目を伏せる美奈子はまた手を握りしめる。
「伝わりませんよ、言葉じゃ……」
 紀夫もそれに倣い、畳に指を立てる。
「ふーん、そういうもんなんだ……エッチって……」
「いえ、その、綾さんの場合ですよ、綾さん、そのことでなんか悩んでたみたいで……」
「君のおかげで昔の綾。けど、君のせいでまた遠くなった綾」
「遠く?」
「そ、また差をつけられたって感じ」
「差ですか……」
 美奈子の言う「せい」の意味。反芻すればかすれそうな距離にあるも、未だ届かない。
「あたし、綾みたいになりたかった」
「え? え?」
 膝が痺れたのか脚を崩し体育座りになる美奈子。彼女は歪な一文字に唇を噛み、眉を小刻みに動かしている。
「脚は早いよ? けど背がちっさいし、髪だってなんかクセ毛だし、スタイルだってそうでしょ? よくないよね」
 意識的に動かせるものでもないそれらが示す感情は?
「男の子にもそういうのされたことないし、好きとかそういうのも無いの」
「うん。うん」
「綾さ、聞いたかな? 彼氏が出来たって……あ、古い話だよ」
「別れた人ですね?」
「うん。なんでか知らないけどさ、でも、そのときあたしちょっと安心した。まだ追いつける。背だってそういうのだって! ってさ……」
「はぁ……」
「でも背はちっちゃいまんま。そういうほうだって君のせいで……」
 睨む目はどこかコミカル。本気なのか、冗談なのか? それも分からない。
「あたし、このままじゃ綾に追いつけないや」
「そんなこと……ありませんよ」
「だってさ、毎日牛乳飲んでもだめなんだもん」
 うふふと笑う彼女は少女を装い愛らしい。綾には無い魅力とでもいうそれに、紀夫はムキになって反論したくなる。
「先輩、どうしてそんなこと! いいじゃないですか、先輩は可愛いし、それに……」
「それに?」
「足が速いし……」
「そんなの嬉しくない」
 ふうと鼻を抜ける音と一緒に美奈子は視線を外す。
「そんなの嬉しくないな……」
「でも、すごく……」
「いいよ。無理しなくて……」
「はい、すみません」
 言葉はいくらでもある。のに、彼女を励ますそれが見つからない。
 普段かじりついていた教科書、もしくは恋愛の指南書はそれを教えてくれはしない。
「ねえ」
「はい!」
「島本君はさ、平気なの?」
「何がです?」
「綾とエッチしちゃって……」
「平気って、病気とか?」
「そうじゃなくて、気持ちの上でよ……だって君、里美さんとも……」
 ――やっぱりそこに行くんだ……。
「俺は別に里美さんと付き合ってるわけじゃないですよ……」
 真実を告げるはずが、喉にいがらっぽさが残る。
「えと、そうなんだ……。知らなかった」
「なんだと思ってたんです?」
「浮気者」
「酷いです」
「ヤリチン」
「誤解です」
「女好き」
「そりゃ好きですけど」
「エッチしたい?」
「ええ、したいですよ」
「あたしとする?」
「え?」
「君って相手がしたかったらしてくれるんでしょ?」
「それはその……」
「ゴムもあるよ。だからしよ」
「美奈子先輩?」
「綾にこれ以上置いてかれたくないの……だから……お願い……」
「せん……美奈子……」
 雨が再び降り出したのは、二人が唇を重ねた後のこと……。

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