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……タイッ!?_50

気づいて欲しい

 通りの向こう側から気付かれないように監視する紀夫は、家路に着く人達からすればかなり異様な存在。
 彼自身無断外泊を二日ほどこなしたというのに、それを棚に上げてまで彼女を尾行するのは部活のことを思ってなのかもしれない。
 ――もしかしたら家に帰る途中かもしれないし……。
 しかし通りを行く彼女の足は家路と逆の方向に向き、さらにきらびやかになる歓楽街へと歩みだす。
「やっぱり!」
 甘い期待など捨てて急ぐ紀夫だが、信号はなかなか替わらない。そうしている間にも距離が離れ、三つ編みを解いたセミロングの後姿がようやく追える程度。
「く! 逃がさない!」
 ようやく緑になった信号を弾丸のように飛び出し、一路向うは彼女の元へ。
 今回も「おねえちゃん帰ろう」作戦で行くのかと思うと萎える気持ちもあるのだが……、果たして?

「先輩!」
 足を引きずり、特に警戒している風でもない彼女に追いつくのは容易なこと。紀夫は後ろを振り向いて小さく「やば!」と舌打ちする久恵の肩を掴む。
「どうして先輩はそんなこと……、お願いですから部のことも考えて……」
「もううんざり!」
 紀夫の言葉を遮る心の悲鳴に驚いたのは何も彼だけではなく、周囲五メートル半径の人々。中には面白そうに成り行きを見ようとするものもいるが、それらも帰り道を急ぐ人波に流されて去り行くのみ。
「いつも一人」
 周囲が再び二人を置き去りにしたあと、久恵は小さく呟いた。
「そんなこと、ないですよ。部活なら皆、紅葉先輩でもだれでもいるじゃないですか……」
 別段彼女が紅葉と仲が良かったこともないが、今思いついて言葉にできるのは彼女だけ。その頼りになるのかならないのか分からない存在も、今は山奥の施設に隔離済み。
「君、そんなに部活好き?」
「好きって、そりゃ、楽しいし……、先輩は嫌いですか?」
「私は……嫌いになったかもね……」
「何でです?」
「んーん、間違えた。部活とかそういうレベルじゃなくてさ、なんていうのかな、私を取り巻くフリをするもの全部嫌い。大嫌い。パパもママも、部活の皆も、君だって……君だって……嫌いになっちゃった……」
「なっちゃったって……」
 微妙に引っかかる物言いに首を傾げる紀夫はすぐに切り口に気付く。
「どうして? 先輩は?」
「いいじゃない、別に……」
 醒めた様子の久恵はうっかり口にしたモノに気付いていない。
「なんで俺のこと嫌いに?」
 そのほころびが彼女の心を暴くきっかけになるかもしれない。彼自身卑怯とも思える行為ながらも、彼は久恵の脆そうな部分に詰め寄る。
「だって、そんなこと……」
「嫌いになる前はどう?」
「君っていやらしいね……」
 むっとした半眼と腰に当てた両手。ずいと前に踏み出すのは痛いところを突かれたことの裏返し……。
「だって、教えてくださいよ……」
「嫌いじゃなかっただけだもん」
 もしくは開き直ったせいなのか?
「嫌いだもん。君なんか……」
 普段抑えている感情が若干のアルコールで抑えられないのか、久恵は強い口調で繰り返す。
「なんか嬉しいな……」
 対し紀夫は頭を掻いて自惚れからなる照れ笑い。その鼻で人を笑う仕草に彼女の怒りを誘えたのかもしれない。
「な! ……馬鹿じゃない? 普通こういう時ってさ、別にあるでしょ? ほら、例えば、そう、何か悩みがありますか? とか、どうしてそんなことを考えるのとか?」
「そう聞いて欲しいんですか?」
 道端で怒鳴る久恵に再び注目が集まるも、紀夫の肩透かしのような返事に気勢を削がれた久恵は肩から力が抜けてしまう。
「だから、例えばよ。例え」
 怒りに任せて吐露したらもう隠すものは何も無い。怒鳴ったせいか気持ちこそ荒れているものの圧迫は薄れている。今吐き出したばかりなのだ。
「……こっちでーす。こっちこっち……」
 遠くから聞こえてくる声は徐々にこちらに近づいてきている。それがなんなのか、行き交う車のライトが教えてくれた。
「やっば……」
 女性に連れられてやってくるのは青いシャツと紺色の帽子を被った二人組み。なにやら重装備だが、それは世に言うオマワリさん。
「もしかして僕らのこと、補導しにきたとか?」
 もし今捕まったら休み明けに行われる大会に影響が出るのではないだろうか? しかも同じ高校の同じ部活動、キャプテンとマネージャー、男女一組なのだ。
 もし、これが学校に知られたら? 退部? 停学? 場合によっては悪しき連帯責任で大会など外部の活動を自粛など……。
「やばいよ。逃げよっか!」
「はい!」
 今は久恵の夜遊びよりももっと大事なことがあると、紀夫は彼女の提案に飛びつく。
「じゃ、こっち! 着いてきて!」
「はい!」
 足を怪我している彼女は走れないが、それでも急ぎ足で路地裏へと潜り込む。
 ただ一つ気になったのは、先ほど通った曲がり角で見えた彼女の横顔。
 たとえるなら秘密基地に案内する子供のような笑顔で、もしくはこの前朝食を一緒にとったときにごはん粒を取ってもらったときのそれを思い出せた。

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