「じゃあね。またなにかあったらこの公園に来なよ。笑うまで一緒にいてあげるから」
それだけいうと先輩は公園を出て行ってしまった。
なんだか不思議な人だ。そんなに公園が好きなら将来は……になるのかしら?
「なあ、どういうことなんだ? 先輩から由香が泣いてるって聞いて飛んできたけど……」
「なんでもないわ。別に恵に話すことなんて」
たぶんそれがよくないんだと思う。
さっきだって先輩に言われたばっかなのにさ。
「なんでもなくて泣くわけないだろ。由香は人一倍いい子でいる子なんだから……」
ちょっとなによ! 急に……。なに? バスケ部の子って落ち込んでる子を見ると抱きしめるルールでもあるの?
私は彼女の力強い抱擁にそのまま身を預けることにする。
やっぱ運動してるからかな。恵、たくましい。
ちょっと汗臭いけど、でも、男っぽいっていうか、頼りがいがあるかも。
恵が男だったらよかったのにな。そうしたら、きっと……、振り向いてくれるかな? 私なんかにさ。
「由香、話してくれよ。あたしじゃ力になれないかもしれないけど、でもさ自分の中だけで処理しようっていうの? そんなの絶対だめだって」
「うん、あのね」
最近で一番素直になれたのかも。どうしてかな。たぶん先輩のせいかな?
だってさ、人の心に土足で入り込むんだもの?
日替わりの恋人ごっこはもう破綻した。
幸太はもう里奈のとりこ。
それは別に怒ってない。いつかこうなるかもとは予想できたし。
でもやはりそれが現実になるのはつらい。
改めて振られるのだから。
だから泣いていた。
大切な部分ははしょって、大方をつたえるだけでいいよね。
口にしたらそのまま泣き出しそうで怖いし、先輩がせっかく慰めてくれたのにさ。
「そっか。そうだんだ」
ベンチに座る私たち。でも恵は私を離してくれない。
「ねえ、なんで恵は参加しなかったの? 幸太ちゃんのこと好きじゃなかったの」
「ん? ああ、コウのことは好きだよ。それは今も変わらないし、後悔もない。けど」
「けど?」
「好きな子、ほかに居るしさ」
「へえ、意外。恵が好きになる男子なんていたっけ?」
相模原は基本女子の方が多いし、男子もほとんどぱっとしない子ばかり。恵って幸太ちゃん以外と話してるとこみたことないけど、やっぱりバスケ部関係かしら?
「まな。中学時代からの後輩でさ、えへへ、かわいい子なんだ」
「かわいい?」
たまに恵ってよくわかんないことを言う。まあ、幸太ちゃんだってかわいい系の男の子だけどさ。
「あたしのこと追っかけて相模原来てくれたんだぜ? 毎日同じ部活でがんばってるんだ……って、こんなときに言うことじゃないな」
「う、ん?」
相模原って男子バスケ部あったけ? それともマネージャー? なんか変じゃないかな?
「あたしさ、変な趣味っていうか、いや、変じゃない。ただちょっと普通じゃないだけなんだけど、瑠璃はさ、そういうのわかってくれるっていうか、今努力中? はは、けなげなやつだよな」
瑠璃っていうんだ。恵の恋人。男の子にしては変わった名前だね。
「ごめんな、のろけ話なんかしてさ」
「え、あ、そうかな。いいよ。なんか恵の別の一面みたみたいでさ」
うん。恵もやっぱり青春してる子なんだ。でも、さ、それじゃ私、もっと惨めな気にならないかな。みんなして彼氏がいて、相思相愛。それを話す相手もいてさ、私より幸せじゃない。
「落ち着いた?」
「うん。さっきからずっと平気だよ」
「そっか? ま、あたしもさ、あんまり由香とくっついてると浮気してるみたいでアレなんだよな」
「浮気?」
やっぱり変だ。そりゃこんな風に抱き合っていたら、それはそれで変だろうけど、大体女同士じゃない? それで怒る男ってどうんだけ器量がせまいのよ。
「瑠璃には一度浮気ばれてるからさ」
「それって幸太ちゃんとしたとき?」
「いや、それはまあ、別にいいんだ。多分」
「そうなの?」
「ああ、ていうか、今を見られるほうがずっとまずいかもな」
「なんで?」
なんか話がかみ合わない。けど、私は逆に彼女の懐へともぐりこむ。
だって恵ってば、スタイルいいっていうか、おっぱい大きいし、抱きしめるとやわらかくて気持ちいいんだもん。
「おいおい、あんまりくっつくなよ」
「なによ、最初に抱きしめてきたのは恵でしょ? それに女同士だし、いいじゃない?」
「いや、まあ、見た目はな」
「見た目?」
どっからどう見ても恵は女じゃない? それに私だって女っぽい格好してるよ?
「ほら、あたしってば、頭ん中はオトコだしさ」
「え!?」
私は驚いて彼女を見た。
いつものように細い整った顔の彼女がいたけど、でもなんか後ろめたいっていうか、そういう、変なわだかまりみたいなの隠した、そんな顔だった。
「恵って、えっと、バイセクシャルっていうやつ?」
「多分。あんまり難しいことわからないけどさ、自分が女じゃないって感覚があるんだ」
「え、え、え?」
あんなに気持ちよかったハグがなんか下心のある行為に思えてくる。
「瑠璃さんて、もしかして女の子?」
「あはは、かわいい子なんだ。猫みたいでさ、まだキスとハグしかしてないけど、気持ちっていうの? そういうのはお互い……」
「離して!」
私は彼女を突き飛ばそうとした。
けど、がっちりとつながった腕の戒めは解けず、いまだ彼の腕の中。
気分もそんなに悪くない。
力強くて安心できる彼の腕。いままで多分、ずっと求めていたそういう感覚。それをまさか恵からもたらされるなんてさ。
「だめだ。まだもう少し抱いてやる」
「離してよ。気持ち悪い」
そういいながら私は彼女の胸に顔を押し付ける。彼も私の真意を汲み取っているらしく、ぎゅっとする抱擁からただ髪をなでる優しいものへとシフトする。
「ねえ、いままでも私、っていうか女の子のことそういう風にみてきたの?」
「そういう風って?」
「だから、エッチな目で見てきたんでしょ?」
「相手ぐらい選ぶさ」
「なにその言い草」
「でも、由香のことは見てたな」
「エッチ」
「ああ、でも由香のこと好きだったし」
「え?」
「もし、今瑠璃が居なかったら、このままお前のこと俺のモノにしてたさ。それぐらいできる。わかるだろ?」
傲慢。恵らしい。というか、言い返せない。私、その気はないけど、今みたいに落ち込んでたら、んーん、いつだってこんな風にされたら、ころっと騙されちゃうよ。
「でも俺は瑠璃を裏切りたくない。二度も……、いや、あの時は付き合っていないからノーカンだな。まあ、そのコウとセックスしたのも付き合ってないといえばそうなるし、別に裏切ってなんかいないかも?」
「ねえ」
「ん?」
「私が今恵のこと誘惑したらどうする?」
「すごく困る」
「なんで?」
「俺は由香のこと好きだし、女に餓えてる。もし今、それも落ち込んでる由香がしていいよなんていったら理性も瑠璃もどっかいっちゃうかもな」
していいよ。って何をする気? 何をされるの?
「だからさ、由香。そんなこといわないでくれよ。俺もつらいんだから」
「そっか、そうだね。ごめんね。でも、一言ぐらいいわせてよ」
「ああいいよ」
「恵が男の子だったらよかったのにさ」
「俺もそう思う」
「ね、一度くらいいいよね?」
私は目をつぶっていた。
「一度くらいなら」
ふふ、恵ってホントオトコの子なのね。
誘われたら断れない。
そういうのって男子の特権かしら?
すっぱい唇。女同士。けど、幸せに似てる何かがある。
今日だけごめんね。借りるよ、瑠璃さん。
明日になったらきっとあなたのものだしさ。
続き
「なあ、どういうことなんだ? 先輩から由香が泣いてるって聞いて飛んできたけど……」
「なんでもないわ。別に恵に話すことなんて」
たぶんそれがよくないんだと思う。
さっきだって先輩に言われたばっかなのにさ。
「なんでもなくて泣くわけないだろ。由香は人一倍いい子でいる子なんだから……」
ちょっとなによ! 急に……。なに? バスケ部の子って落ち込んでる子を見ると抱きしめるルールでもあるの?
私は彼女の力強い抱擁にそのまま身を預けることにする。
やっぱ運動してるからかな。恵、たくましい。
ちょっと汗臭いけど、でも、男っぽいっていうか、頼りがいがあるかも。
恵が男だったらよかったのにな。そうしたら、きっと……、振り向いてくれるかな? 私なんかにさ。
「由香、話してくれよ。あたしじゃ力になれないかもしれないけど、でもさ自分の中だけで処理しようっていうの? そんなの絶対だめだって」
「うん、あのね」
最近で一番素直になれたのかも。どうしてかな。たぶん先輩のせいかな?
だってさ、人の心に土足で入り込むんだもの?
日替わりの恋人ごっこはもう破綻した。
幸太はもう里奈のとりこ。
それは別に怒ってない。いつかこうなるかもとは予想できたし。
でもやはりそれが現実になるのはつらい。
改めて振られるのだから。
だから泣いていた。
大切な部分ははしょって、大方をつたえるだけでいいよね。
口にしたらそのまま泣き出しそうで怖いし、先輩がせっかく慰めてくれたのにさ。
「そっか。そうだんだ」
ベンチに座る私たち。でも恵は私を離してくれない。
「ねえ、なんで恵は参加しなかったの? 幸太ちゃんのこと好きじゃなかったの」
「ん? ああ、コウのことは好きだよ。それは今も変わらないし、後悔もない。けど」
「けど?」
「好きな子、ほかに居るしさ」
「へえ、意外。恵が好きになる男子なんていたっけ?」
相模原は基本女子の方が多いし、男子もほとんどぱっとしない子ばかり。恵って幸太ちゃん以外と話してるとこみたことないけど、やっぱりバスケ部関係かしら?
「まな。中学時代からの後輩でさ、えへへ、かわいい子なんだ」
「かわいい?」
たまに恵ってよくわかんないことを言う。まあ、幸太ちゃんだってかわいい系の男の子だけどさ。
「あたしのこと追っかけて相模原来てくれたんだぜ? 毎日同じ部活でがんばってるんだ……って、こんなときに言うことじゃないな」
「う、ん?」
相模原って男子バスケ部あったけ? それともマネージャー? なんか変じゃないかな?
「あたしさ、変な趣味っていうか、いや、変じゃない。ただちょっと普通じゃないだけなんだけど、瑠璃はさ、そういうのわかってくれるっていうか、今努力中? はは、けなげなやつだよな」
瑠璃っていうんだ。恵の恋人。男の子にしては変わった名前だね。
「ごめんな、のろけ話なんかしてさ」
「え、あ、そうかな。いいよ。なんか恵の別の一面みたみたいでさ」
うん。恵もやっぱり青春してる子なんだ。でも、さ、それじゃ私、もっと惨めな気にならないかな。みんなして彼氏がいて、相思相愛。それを話す相手もいてさ、私より幸せじゃない。
「落ち着いた?」
「うん。さっきからずっと平気だよ」
「そっか? ま、あたしもさ、あんまり由香とくっついてると浮気してるみたいでアレなんだよな」
「浮気?」
やっぱり変だ。そりゃこんな風に抱き合っていたら、それはそれで変だろうけど、大体女同士じゃない? それで怒る男ってどうんだけ器量がせまいのよ。
「瑠璃には一度浮気ばれてるからさ」
「それって幸太ちゃんとしたとき?」
「いや、それはまあ、別にいいんだ。多分」
「そうなの?」
「ああ、ていうか、今を見られるほうがずっとまずいかもな」
「なんで?」
なんか話がかみ合わない。けど、私は逆に彼女の懐へともぐりこむ。
だって恵ってば、スタイルいいっていうか、おっぱい大きいし、抱きしめるとやわらかくて気持ちいいんだもん。
「おいおい、あんまりくっつくなよ」
「なによ、最初に抱きしめてきたのは恵でしょ? それに女同士だし、いいじゃない?」
「いや、まあ、見た目はな」
「見た目?」
どっからどう見ても恵は女じゃない? それに私だって女っぽい格好してるよ?
「ほら、あたしってば、頭ん中はオトコだしさ」
「え!?」
私は驚いて彼女を見た。
いつものように細い整った顔の彼女がいたけど、でもなんか後ろめたいっていうか、そういう、変なわだかまりみたいなの隠した、そんな顔だった。
「恵って、えっと、バイセクシャルっていうやつ?」
「多分。あんまり難しいことわからないけどさ、自分が女じゃないって感覚があるんだ」
「え、え、え?」
あんなに気持ちよかったハグがなんか下心のある行為に思えてくる。
「瑠璃さんて、もしかして女の子?」
「あはは、かわいい子なんだ。猫みたいでさ、まだキスとハグしかしてないけど、気持ちっていうの? そういうのはお互い……」
「離して!」
私は彼女を突き飛ばそうとした。
けど、がっちりとつながった腕の戒めは解けず、いまだ彼の腕の中。
気分もそんなに悪くない。
力強くて安心できる彼の腕。いままで多分、ずっと求めていたそういう感覚。それをまさか恵からもたらされるなんてさ。
「だめだ。まだもう少し抱いてやる」
「離してよ。気持ち悪い」
そういいながら私は彼女の胸に顔を押し付ける。彼も私の真意を汲み取っているらしく、ぎゅっとする抱擁からただ髪をなでる優しいものへとシフトする。
「ねえ、いままでも私、っていうか女の子のことそういう風にみてきたの?」
「そういう風って?」
「だから、エッチな目で見てきたんでしょ?」
「相手ぐらい選ぶさ」
「なにその言い草」
「でも、由香のことは見てたな」
「エッチ」
「ああ、でも由香のこと好きだったし」
「え?」
「もし、今瑠璃が居なかったら、このままお前のこと俺のモノにしてたさ。それぐらいできる。わかるだろ?」
傲慢。恵らしい。というか、言い返せない。私、その気はないけど、今みたいに落ち込んでたら、んーん、いつだってこんな風にされたら、ころっと騙されちゃうよ。
「でも俺は瑠璃を裏切りたくない。二度も……、いや、あの時は付き合っていないからノーカンだな。まあ、そのコウとセックスしたのも付き合ってないといえばそうなるし、別に裏切ってなんかいないかも?」
「ねえ」
「ん?」
「私が今恵のこと誘惑したらどうする?」
「すごく困る」
「なんで?」
「俺は由香のこと好きだし、女に餓えてる。もし今、それも落ち込んでる由香がしていいよなんていったら理性も瑠璃もどっかいっちゃうかもな」
していいよ。って何をする気? 何をされるの?
「だからさ、由香。そんなこといわないでくれよ。俺もつらいんだから」
「そっか、そうだね。ごめんね。でも、一言ぐらいいわせてよ」
「ああいいよ」
「恵が男の子だったらよかったのにさ」
「俺もそう思う」
「ね、一度くらいいいよね?」
私は目をつぶっていた。
「一度くらいなら」
ふふ、恵ってホントオトコの子なのね。
誘われたら断れない。
そういうのって男子の特権かしら?
すっぱい唇。女同士。けど、幸せに似てる何かがある。
今日だけごめんね。借りるよ、瑠璃さん。
明日になったらきっとあなたのものだしさ。
続き