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……タイッ!?_紛れ話_12

ラーメン。

「ああごめん、気づかなかった。どうしたんだいそれ、待ってて、今ハンカチ出すから……! わっ、冷て!」

 茶色の液体が私の前でひざまずく彼の頭に落ちる。しょうがないよね。だって私の腕しびれてきちゃったんだしさ。
 誰かさんが楽しそうにしてる間、ずっと持ってたせいで……。

「由香? どうしたんだい?」

 どうしたですって? そんなのあなたの隣にいた人に聞けばいいじゃない。

「怒っちゃったのかな? ごめんよ」

 笑顔で謝る彼を見ているとなんだかむなしくなる。だってその笑顔、彼女にも向けてたんでしょ?

「私帰ります」
「どうして急に……。あと5人なんだし、せっかく」
「帰ります」

 怒ってるのになんかね。変な顔してると思うんだ。

「由香? ……うん、わかった。出ようか」

 鼻でため息みたいにふうと息を吐くと、彼は私の手を強く握ってきた。
 本当は振りほどきたかったけど、でもそんな力ない。
 だってしびれちゃってたし。

**

 私の家は駅から結構離れている。むしろ学校の方が近いけど、でも人の目があるしバス停とかで下ろしてもらえた方がいい。
 でも車の向かう先はぜんぜん違う。明らかに遠回りだもの。いったいどこへ連れて行く気? かぼちゃの馬車ならお城でしょうけど、魔女はあなたの隣にいるのよ?

「先生、どこへ行くんですか?」

 一駅先へ行ったところでようやく口をきいてあげた。
 たしかこっちのほうは繁華街というか、桃色な町並みだったきがする。
 もしかしてこのままホテルとか? そんな勇気あるの?
 もしあるなら……見直してあげる。
 それとも、いつもの手なのかしら?

「うん、おなか減ったからさ」
「おなか?」

 お昼は場違いなレストラン。おやつは落っことしちゃったし、確かにおなかは減ってる。時間帯も時間だし、でもここってそういうところじゃないよね。
 それとも私はあなたのフランクフルトを食べればいいの? そしてあなたは私を?

「ラーメン。手打ち麺なんだ。すごくおいしいの」
「ラーメン?」
「うん。週代わりでつくワンタンも手がこんでてさ」
「へえ」

 なんか、正直がっかりだわ。

**

「おい……しい」

 私は運ばれてきた塩ラーメンをすすった後、そうつぶやいた。
 つれてこられたラーメン屋はいかにも老舗っていうか、どっちかというとうどん屋さんみたいないでたちで、ご主人さんもすごく愛想が悪い。その分奥さんらしき店員は笑顔をくれた。
 そして井口が勧めるままに塩ワンタン麺を頼んだけど、スープはすごくあっさりしてて、細い麺なのに弾力のあるのがにくい。いつもならとんこつとかそういう系しか食べない私だけど、確かにおいしいわ。

「だろ? 僕、ここの店だけは自慢して勧められるんだ」

 得意そうにいうけど、あくまでもお店がすごいんであって、努は関係ないからね?

「ワンタン、とろっとしてて、餡もえびとかしいたけとかすごく味が出ておいしいです」
「うん。ここのメインだからね」

 あのレストランには悪いけど、やっぱり庶民にはこういう味のほうがいいな。

「僕はここをよく使うんだ。由香が気に入ってくれてうれしいよ」
「そうですか。でもいつも他の子とか誘ってんじゃないですか?」

 おなかがいっぱいになったせいか、さっきのことを言うだけの余裕も生まれる。というか、一番気になってることだし。

「う~ん、実のところ、ここは由香にしか教えてないんだ。だってさ、ここのご主人……」

 急に小声になり身を乗り出す彼に釣られ、私も前のめりになる。

「一日五十食ぐらいしか作らないんだ。ほとんど道楽みたいなものらしくてさ」
「へ~」

 なるほど、誰かに教えたら食べられなくなるのね。それじゃあ話せないわね。

「でも、私が他の子に言うかもしれませんよ? ここ、すごくおいしいし」
「あ、そうか。ごめん由香、ここのことを忘れてくれ!」

 努は大げさに手を合わせて謝るけど、なんかすごくかわいいかも。

「うふふ、いいですよ。でも、その代わりまた連れてきてくださいね」
「え? うん! いいよ! いつだって、それこそ毎日だって……」

 毎日だとさすがに飽きるかも。いくらおいしくてもね。

「毎日って、先生毎日来てるわけじゃないでしょ?」
「あはは」

 ん?

「井口さんはお得意様ですよ。今週だけで四回は……」

 週に四回? それってどうなの?

「先生、自炊とかは?」
「してない」
「野菜とかは?」
「ジュース」
「それ、絶対からだに悪いですよ」
「そうだよね、はは」

 照れたように笑うかれだけど、そこは照れるべきじゃない。むしろ反省なさいってば。

「もう、お昼はコンビニ弁当ばっかりだし……。それじゃいつか体壊しますよ? たまには自炊して栄養のバランスをとらないと」
「そうは言われても、そういうの苦手だし」

 なんとなくわかる。こいつの場合、自炊しても好きなものしか食べそうにないし。

「誰か作ってくれる人っていないの?」
「さすがにこの年で母親を頼るのはなあ」
「彼女とかは?」
「いないよ」

 いたら私なんか誘わないか。

「じゃあ、私が作ってあげましょうか?」

 なんてね。

「ほんと? うれしいな!」

 え?

「由香のお弁当、いつもってわけじゃないけど、たまに見るとおいしそうだったからさ」

 なんかすごいうれしそう。ていうか、ラーメン伸びるよ?

「そ、そうですか。それならまあ、明日からでも……」

 いまさら社交辞令ですなんていえないし、まあ一日ぐらいなら。

「でも悪いな。じゃあ材料代をださせてよ。相沢弁当屋でさ」

 相沢弁当? なんか愛妻弁当って感じなのかしら?

「はぁ、それじゃあ何が食べたいですか?」
「えと、そうだね。ハンバーグかな」
「そんな、子供じゃないし。努はもっと野菜を食べないとだめ」
「野菜は苦手なんだ」

 まるで子供みたいにしょげる彼。ふふふ、なんかほんと年上なのかしら? こんな人が担任で私の内申書大丈夫かしら? できれば推薦ほしかったんだけどね。

**

「それじゃあここで」

 家よりちょっとだけ離れたところでおろしてもらった。

「家まで送ってあげたいけど……」
「私の家を探ってどうするつもりですか?」

 名残惜しそうな努はまるで捨て猫みたいに私を見ている。けど、親に知られたら大変よね。世間的には担任と生徒なんだし。

「そうだ」
「何?」
「ピーマンは苦手なんだ」
「! ……だめです。明日はピーマンも入れます」
「由香は厳しいな」
「それじゃあ失礼しますね」

 彼は私に手を振るとそのまま車を走らせた。私はそれを見送ってから思い切りわらっちゃった。
 さて、明日はピーマンと豚肉の細切炒めにしようかな? きっとピーマン好きになれるからさ。

続き

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