――由香さんへ
子供じみてるといわれますが、やっぱりお弁当にエビフライがあるとうれしいです。
最近わき腹がぷよぷよしてきましたが、由香さんが作ってくれたお弁当で太れるのなら本望です。
明日はいったいなにがたべられるのかな?
今読みかけの本より気になります。
井口努
まったく子供なんだから。でもうまくいったみたいね。あんまり揚げ物はしたことないだけど、彼のほうのはちゃんと尻尾まで食べてるし。私のは半生だったけどね。
なんでこう見栄っ張りなんだろ。どうせ食べるのはあいつなんだし、別に失敗したほうでもよかったのに。
――由香さんへ
おひたしの海苔巻き。とてもおいしかったです。
太り気味と書いたらヘルシーなメニューでありがたいです。
やっぱり由香さんは気の利く女性ですね。
きっと良いお嫁さんになれます。
僕が保証します!
でも、たまには揚げ物が恋しくなったりもしますが、わがままはだめですか?
気が利くって、別にあなたのためじゃないわ。
前にもらったのりが賞味期限近かっただけだし、それにもともと私のお弁当のついでにつくってるんだから当然じゃない? 太るのやだもん。
それになに? 保証します? あなたにどんな力があるっていうのよ。いい加減なこと言わないでほしいわ。
……でも、揚げ物には挑戦してみようかしら。レパートリーは広いほうがいいし。
――由香さんへ
いつもおいしいお弁当ありがとう。
でも材料費とかどうしてます? いつでも請求してくださいね。
あと、イカのてんぷら。とてもカリカリでおいしかったです。青海苔の風味も良くてそれにちくわも。あれ揚げただけなんですか? すごく驚いてます。
揚げただけ? なに言ってるのよ、この人は。
あれはちゃんと下ごしらえがあるのよ。イカは切れ目を入れないといけないし、ちくわだって下味つけてるの。砂糖としょうゆ、料理酒と味噌で作ったソースをうずめてから一晩つけてたんだから! こっちの苦労もしらないでよく言うわ。
――由香さんへ
こんなにおいしいお弁当が三百五十円でいいんですか?
なんかすごく悪い気がします。
コンビニのお弁当よりずっとおいしいのに、バランスだって、ボリュームだって……。
言いにくくても大丈夫ですよ。僕はあなたの担任かもしれませんが、お弁当に関しては一対一の人格同士ですし、そのことで貴方の重荷になりたくないですから。
なんていっても、日々のお弁当を頼んでる僕が言うなって話ですよね。
明日もお願いします。
……なんかな。
むしろ私の方が罪悪感かも。
だってお弁当なんて二五十円程度だよ。そりゃたまに高くなることもあるけど、トータルで見れば黒字だし、最近なんて私のお弁当までリッチになってるし。
それに貴方に遠慮なんかしないわ。
貴方なんてただの努じゃないの。
ねえ?
――努へ
お弁当、いつもきれいに食べてくれてありがとう。
つくる私も張り合いがあります。
でも、いつもおいしいばかりじゃなく、たまには別の言葉が聞きたいな。
たまに失敗しちゃうときもあるし、そういうときはちゃんと言ってほしい。じゃないと私の成長になりません。
今日入れたアスパラのベーコンまきはどうでした? 胡椒がちょっと利きすぎていたかもしれませんけど……。
それとハンバーグ、エビフライばかりリクエストしないの。子供じゃないんだから。
おなかが出てきたらもてなくなりますよ?
先生のとりえは若さとスマートさぐらいなんだから、そこだけは死守しないと。
――由香さんへ
正直に言います。
貴方の料理はとてもおいしいです。
前に一緒に行ったラーメン屋ありますよね。最近行ってないんです。
なぜかというと、僕も由香さんを見習って料理をしているんです。でもぜんぜんだめです。目玉焼きひとつきれいに焼けないし、ハンバーグは半生だったりと失敗ばかり。
改めて由香さんのお弁当に惚れ直しているところです。
――努へ
料理なんて慣れれば簡単だよ。
努も一人暮らしがこれからも続きそうなんだし、ひとつぐらい覚えたら? なんなら教えてあげてもいいですよ。
放課後、家庭科室でも使ってね。
ちょっと挑発しすぎかしら?
バカみたい。なんかね。
でも、いつまで続くんだろ。
できれば……私に彼の代わりができるまで?
続き
子供じみてるといわれますが、やっぱりお弁当にエビフライがあるとうれしいです。
最近わき腹がぷよぷよしてきましたが、由香さんが作ってくれたお弁当で太れるのなら本望です。
明日はいったいなにがたべられるのかな?
今読みかけの本より気になります。
井口努
まったく子供なんだから。でもうまくいったみたいね。あんまり揚げ物はしたことないだけど、彼のほうのはちゃんと尻尾まで食べてるし。私のは半生だったけどね。
なんでこう見栄っ張りなんだろ。どうせ食べるのはあいつなんだし、別に失敗したほうでもよかったのに。
――由香さんへ
おひたしの海苔巻き。とてもおいしかったです。
太り気味と書いたらヘルシーなメニューでありがたいです。
やっぱり由香さんは気の利く女性ですね。
きっと良いお嫁さんになれます。
僕が保証します!
でも、たまには揚げ物が恋しくなったりもしますが、わがままはだめですか?
気が利くって、別にあなたのためじゃないわ。
前にもらったのりが賞味期限近かっただけだし、それにもともと私のお弁当のついでにつくってるんだから当然じゃない? 太るのやだもん。
それになに? 保証します? あなたにどんな力があるっていうのよ。いい加減なこと言わないでほしいわ。
……でも、揚げ物には挑戦してみようかしら。レパートリーは広いほうがいいし。
――由香さんへ
いつもおいしいお弁当ありがとう。
でも材料費とかどうしてます? いつでも請求してくださいね。
あと、イカのてんぷら。とてもカリカリでおいしかったです。青海苔の風味も良くてそれにちくわも。あれ揚げただけなんですか? すごく驚いてます。
揚げただけ? なに言ってるのよ、この人は。
あれはちゃんと下ごしらえがあるのよ。イカは切れ目を入れないといけないし、ちくわだって下味つけてるの。砂糖としょうゆ、料理酒と味噌で作ったソースをうずめてから一晩つけてたんだから! こっちの苦労もしらないでよく言うわ。
――由香さんへ
こんなにおいしいお弁当が三百五十円でいいんですか?
なんかすごく悪い気がします。
コンビニのお弁当よりずっとおいしいのに、バランスだって、ボリュームだって……。
言いにくくても大丈夫ですよ。僕はあなたの担任かもしれませんが、お弁当に関しては一対一の人格同士ですし、そのことで貴方の重荷になりたくないですから。
なんていっても、日々のお弁当を頼んでる僕が言うなって話ですよね。
明日もお願いします。
……なんかな。
むしろ私の方が罪悪感かも。
だってお弁当なんて二五十円程度だよ。そりゃたまに高くなることもあるけど、トータルで見れば黒字だし、最近なんて私のお弁当までリッチになってるし。
それに貴方に遠慮なんかしないわ。
貴方なんてただの努じゃないの。
ねえ?
――努へ
お弁当、いつもきれいに食べてくれてありがとう。
つくる私も張り合いがあります。
でも、いつもおいしいばかりじゃなく、たまには別の言葉が聞きたいな。
たまに失敗しちゃうときもあるし、そういうときはちゃんと言ってほしい。じゃないと私の成長になりません。
今日入れたアスパラのベーコンまきはどうでした? 胡椒がちょっと利きすぎていたかもしれませんけど……。
それとハンバーグ、エビフライばかりリクエストしないの。子供じゃないんだから。
おなかが出てきたらもてなくなりますよ?
先生のとりえは若さとスマートさぐらいなんだから、そこだけは死守しないと。
――由香さんへ
正直に言います。
貴方の料理はとてもおいしいです。
前に一緒に行ったラーメン屋ありますよね。最近行ってないんです。
なぜかというと、僕も由香さんを見習って料理をしているんです。でもぜんぜんだめです。目玉焼きひとつきれいに焼けないし、ハンバーグは半生だったりと失敗ばかり。
改めて由香さんのお弁当に惚れ直しているところです。
――努へ
料理なんて慣れれば簡単だよ。
努も一人暮らしがこれからも続きそうなんだし、ひとつぐらい覚えたら? なんなら教えてあげてもいいですよ。
放課後、家庭科室でも使ってね。
ちょっと挑発しすぎかしら?
バカみたい。なんかね。
でも、いつまで続くんだろ。
できれば……私に彼の代わりができるまで?
続き