日々、嬉々としてお弁当を作る私。パパもママも手の込んだお弁当に首をかしげながらも喜んでくれている。昨日なんてお小遣いをくれたし。
うん、財布の方は太ってきてるわ。使う予定も無いのに。
そして今日もお弁当を届けて三百五十円とハグをもらった。
不満があるとすれば、彼の心を独り占めできていないこと。
いったいいつまでこんな恋愛をするのだろう。繰り返すのだろう。
でも、求めている自分がいる。
一度しってしまったが最後、この欲望に尽きるところもないのかもしれない。
でなければどうしてあんな臭くて汚いことを愉しみたいと思うの?
知らなければ楽だったかな? 愛のある行為ってやつをさ。
「はぁ……ただいま」
私は家に帰ると誰もいないと分かっていてもただいまを言う。
シャワーも浴びずにベッドに仰向けになってクーラーを入れる。
――アスパラのベーコン巻き、おいしかったよ。
抱きしめてるときにいうべき言葉かしら。なんかアイツの恋愛的思考ってずれてるのよね。そりゃ私もいきなり告って悪かったけどさ、大人なんだしもっと余裕というか、懐をみせてよ。
でも、なんで告白なんかしちゃったんだろ。
だって私、本当に努のこと好きなのかな? 自信ないよ。
お弁当、おいしいって言ってもらって、抱きしめてもらって、デートもしたけど、でも、まだ、好きにならなくてもいいのに。
……多分、ライバル心かもしれない。
橘紅葉。
あの子のせいだ。
恋人としてはいささか雑なところがあるけど、未来はわからないあいつの周りをうろちょろする紅葉。
すでにキスをしてる。セックスも。
私がそれを知っていることを彼らは知らない。
もしかしたら努からしてみれば火遊びなのかもしれない。
でも、今度は譲らない。負けたくないんだ。
譲るだけの恋愛なんて嫌だもの。
「努」
さっき抱きしめてくれた。それを思い出すとよだれが出ちゃう。
意地汚いのはお似合いね。でも、私のほうがちょっぴりエッチだ。
最近してないし、一人でする?
んーん、それはだめだ。今はハングリーにならないと。そうじゃないとどこかで折れてしまいそうだし。
だからお預け。
「努のイジワル」
太ももをこすりながら彼に見立てたタオルケットにつっぷす。
彼、多分昨日は我慢してたんだとおもう。
ぷるるるる……。
「きゃっ!」
いきなりの着信音に私は簡易版努を投げ、携帯を見る。
相手は美奈子だった。
私は安堵に混じるがっかりした感覚を意識的に気づかないフリをして応じる。
「はい、もしもし」
「あ、由香? 元気?」
「元気も元気、すごく元気よ」
「そ。あは、なんか心配になっちゃってさ」
「そんなに心配になることなんてあるかしら?」
「んー、思いつめてないかなって思って」
「そんなことないよ。ていうか、私、あきらめない」
「あきらめないって、浮気オトコを?」
「うん。いわば略奪愛って奴ね」
「あらら、なんか妙に闘志を燃やしてるみたいね。でも、元気そうでよかった」
「元気そうって、別に二三日じゃない、美奈子こそ心配しすぎだよ」
「そっかな? 由香の場合、しっかりしようとしすぎて逆に危ないのよね」
「どういう意味?」
「裏切りに弱い。とか?」
「……かも」
「でも安心して。私はいつでもあなたの味方だから」
「うん。ありがと。そういえば、綾って子、もう大丈夫なの? 後遺症とかないよね」
「綾? うん、元気でやってるよ。もうなんか今日も里美、あ、後輩ね。あの子たち妙にライバル意識だしちゃってさ、なかなか熱い感じだわ」
「そう、それはそれは……」
「あ、やば、コーチ見てるわ。それじゃね」
「うん。じゃね」
私の弱点か。
裏切りには弱いよ。信じれば信じるほど。
でも、あなただって弱点ないかしら?
たとえば、面倒をみたがるっていう依存心。
綾さんは多分あなたの手のかからない子になったんだよ。だから私に電話してるの。
気づいてるかな?
「あーあ、合宿か。なんか楽しそうだな。大変そうだけど」
彼女の好意を嫌なとり方をしてしまう自分が嫌だ。努も今は床で不貞寝してるし、気持ちを切り替えようと声にだしてみた。
「あーあ、せっかくの夏休みなんだし、私もどっか遊びに行きたいな。努ももう少し気を利かせればいいのにさ」
いつもお弁当ありがとう、アレがおいしかった、これがおいしかったよ、だけじゃなくてさ、今度の日曜日に映画にでもとかさ……。
でも怪獣映画は勘弁してね。いったい誰の趣味なんだかしらないけど。
**
雨。しかも突然。夕立ってほどじゃないけど、人が傘を忘れたときに降るのは勘弁してもらいたい。
昇降口の傘たてにはいくつか忘れ物があるけど、どれもさび付いてたり破れてたりで使い物にならない。
不満だ。すごく。
こういうとき、気が利く男なら傘を持ってくるんじゃない? もちろん気があればのはなしだけど。
やっぱり独りよがりなのかな。
紅葉。
あの子、釣り目なとこあるけど男からみればかわいいのよね。身体だって結構細いし出るとこは出てる。私よりも。
足もきれいで細いし、女としてうらやましい。
勝てるところなんてお弁当を執念深く届けるぐらい。さもなくばストーカーみたいな武器じゃ勝負にならない。
やっぱり折れそう。
雨、冷たいし。
「おーい、ゆ……、相沢……」
「え?」
振り返ると彼がやってきてた。
袖をめくったしわだらけのワイシャツによじれたネクタイ。スーツだって年季が入ってるのか、所々光沢みたいになってる。
どこを見ても一人暮らしで精一杯、服装なんかに構ってられないって感じ。
それじゃもてないよ。私ぐらいにしか。
続き
不満があるとすれば、彼の心を独り占めできていないこと。
いったいいつまでこんな恋愛をするのだろう。繰り返すのだろう。
でも、求めている自分がいる。
一度しってしまったが最後、この欲望に尽きるところもないのかもしれない。
でなければどうしてあんな臭くて汚いことを愉しみたいと思うの?
知らなければ楽だったかな? 愛のある行為ってやつをさ。
「はぁ……ただいま」
私は家に帰ると誰もいないと分かっていてもただいまを言う。
シャワーも浴びずにベッドに仰向けになってクーラーを入れる。
――アスパラのベーコン巻き、おいしかったよ。
抱きしめてるときにいうべき言葉かしら。なんかアイツの恋愛的思考ってずれてるのよね。そりゃ私もいきなり告って悪かったけどさ、大人なんだしもっと余裕というか、懐をみせてよ。
でも、なんで告白なんかしちゃったんだろ。
だって私、本当に努のこと好きなのかな? 自信ないよ。
お弁当、おいしいって言ってもらって、抱きしめてもらって、デートもしたけど、でも、まだ、好きにならなくてもいいのに。
……多分、ライバル心かもしれない。
橘紅葉。
あの子のせいだ。
恋人としてはいささか雑なところがあるけど、未来はわからないあいつの周りをうろちょろする紅葉。
すでにキスをしてる。セックスも。
私がそれを知っていることを彼らは知らない。
もしかしたら努からしてみれば火遊びなのかもしれない。
でも、今度は譲らない。負けたくないんだ。
譲るだけの恋愛なんて嫌だもの。
「努」
さっき抱きしめてくれた。それを思い出すとよだれが出ちゃう。
意地汚いのはお似合いね。でも、私のほうがちょっぴりエッチだ。
最近してないし、一人でする?
んーん、それはだめだ。今はハングリーにならないと。そうじゃないとどこかで折れてしまいそうだし。
だからお預け。
「努のイジワル」
太ももをこすりながら彼に見立てたタオルケットにつっぷす。
彼、多分昨日は我慢してたんだとおもう。
ぷるるるる……。
「きゃっ!」
いきなりの着信音に私は簡易版努を投げ、携帯を見る。
相手は美奈子だった。
私は安堵に混じるがっかりした感覚を意識的に気づかないフリをして応じる。
「はい、もしもし」
「あ、由香? 元気?」
「元気も元気、すごく元気よ」
「そ。あは、なんか心配になっちゃってさ」
「そんなに心配になることなんてあるかしら?」
「んー、思いつめてないかなって思って」
「そんなことないよ。ていうか、私、あきらめない」
「あきらめないって、浮気オトコを?」
「うん。いわば略奪愛って奴ね」
「あらら、なんか妙に闘志を燃やしてるみたいね。でも、元気そうでよかった」
「元気そうって、別に二三日じゃない、美奈子こそ心配しすぎだよ」
「そっかな? 由香の場合、しっかりしようとしすぎて逆に危ないのよね」
「どういう意味?」
「裏切りに弱い。とか?」
「……かも」
「でも安心して。私はいつでもあなたの味方だから」
「うん。ありがと。そういえば、綾って子、もう大丈夫なの? 後遺症とかないよね」
「綾? うん、元気でやってるよ。もうなんか今日も里美、あ、後輩ね。あの子たち妙にライバル意識だしちゃってさ、なかなか熱い感じだわ」
「そう、それはそれは……」
「あ、やば、コーチ見てるわ。それじゃね」
「うん。じゃね」
私の弱点か。
裏切りには弱いよ。信じれば信じるほど。
でも、あなただって弱点ないかしら?
たとえば、面倒をみたがるっていう依存心。
綾さんは多分あなたの手のかからない子になったんだよ。だから私に電話してるの。
気づいてるかな?
「あーあ、合宿か。なんか楽しそうだな。大変そうだけど」
彼女の好意を嫌なとり方をしてしまう自分が嫌だ。努も今は床で不貞寝してるし、気持ちを切り替えようと声にだしてみた。
「あーあ、せっかくの夏休みなんだし、私もどっか遊びに行きたいな。努ももう少し気を利かせればいいのにさ」
いつもお弁当ありがとう、アレがおいしかった、これがおいしかったよ、だけじゃなくてさ、今度の日曜日に映画にでもとかさ……。
でも怪獣映画は勘弁してね。いったい誰の趣味なんだかしらないけど。
**
雨。しかも突然。夕立ってほどじゃないけど、人が傘を忘れたときに降るのは勘弁してもらいたい。
昇降口の傘たてにはいくつか忘れ物があるけど、どれもさび付いてたり破れてたりで使い物にならない。
不満だ。すごく。
こういうとき、気が利く男なら傘を持ってくるんじゃない? もちろん気があればのはなしだけど。
やっぱり独りよがりなのかな。
紅葉。
あの子、釣り目なとこあるけど男からみればかわいいのよね。身体だって結構細いし出るとこは出てる。私よりも。
足もきれいで細いし、女としてうらやましい。
勝てるところなんてお弁当を執念深く届けるぐらい。さもなくばストーカーみたいな武器じゃ勝負にならない。
やっぱり折れそう。
雨、冷たいし。
「おーい、ゆ……、相沢……」
「え?」
振り返ると彼がやってきてた。
袖をめくったしわだらけのワイシャツによじれたネクタイ。スーツだって年季が入ってるのか、所々光沢みたいになってる。
どこを見ても一人暮らしで精一杯、服装なんかに構ってられないって感じ。
それじゃもてないよ。私ぐらいにしか。
続き