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……タイッ!?_紛れ話_21

初めての場所

 助手席に乗るのも久しぶり。サイドボードにはタバコがあるけど、もしかして紅葉なのかな? あの子、結構遊んでるところあるし、でも運動部だし、もしかして他に女の影があるのかしら。

「ねえ、このタバコ……」

 誰の?

「悪かったね。こんな雨の日まで届けてくれて」

 そういいかけたとき、彼は私を見ずにハンドルを切る。

「んーん、大丈夫。それに突然だったし」

 なんか話しづらいし、いいそびれちゃった。
 気恥ずかしさを覚えた私は視線を窓に移して頬杖をつく。雨でにじむ視界にはライトの光が屈折して届く。赤や黄色、信号からは緑。現実感がないな。

「そういえば……」
「そういえば?」
「なんでもない」
「そ」

 赤信号に止まる私たち。努はなにか話題を探すけどそんなものはない。そりゃそうよ。お弁当の文通だって、一緒に食べるときだって言葉少なだし。

「由香さんは……」
「何?」
「進学希望だよね」
「そうですけど」
「そっか」

 ここにきて進路希望の話とか出されてもつまらない。というか、時と場合を考えてよ。

「他の選択とかは?」
「それって専門学校とかですか? 別にそういう具体的な道っていうのはまだ考えていませんけど……」

 今の不景気、いったい何をしていいのかなんてわからない。大学に行くのも両親の勧めだし、私自身、やることを見つけたいと思ってる。四年もあれば何かひとつぐらいみつかるでしょうし。

「いや、そうじゃなくて、ただ、まあ、なんだろ、その」

 彼の優柔不断が嫌いじゃなくなったのは、つい最近のこと。
 バックミラーから彼の困った顔を見てあげる。
 おでこから冷や汗垂らして、そんなに暑いならクーラーかければ? 凍るぐらいにさ。

「由香」
「ふぇう!」

 内心のおかしさをこらえていた私は突然名前を呼ばれたことに驚いておかしな返事をしてしまう。
 努はそれにかまわず、私の手をとる。

「え? え?」

 進路希望からどんな展開よ。てか、前……見てるのね。

 車は緑の信号を合図にゆっくりと走り出し、私の知ってる、私の家とは違う方向へと向かう。

 嫌じゃない。だから好きにさせている。けど、視線は窓の外。
 指、とらないでよ。絡ませないでよ。努って指フェチなのかな。前もそうだったし。
 人差し指、中指、薬指、小指の順にさすられる。
 汗ばんでくすぐったくて、なんか変な気分。
 お互い視線を合わせないのに、意識はそこに向けられてる。
 意地っ張りだ。そういうところも似てる。

「ラーメン、でいいかな」
「うん。ちょうど食べたかったし」

 通りを少し過ぎればそこは恋人たちの憩いの場。
 けれど車は寂れた老舗のお店の駐車場に止まる。

 今日はこれでいい。ここまででいいの。
 奪うもなにも、私、そんないい女じゃない。自分でわかってるから。

**

「ワンタンメン二つ」
「はいはい、少々お待ちください」

 彼がオーダーする間、私はずっとうつむいたままだった。
 なぜなら今日の私の格好。この前のカジュアルなファッションじゃなくてブラウスに赤いリボン。プリーツスカートを履いていれば女子高生だと即わかる格好だもの。
 いまさらだけど、ちょっとした冷や汗もの。
 だってこのお店の人、努のこと知ってるんでしょ? 常連みたいだし。なにげにやばいかも。エンコーって思われたりしないかな。

「そんなに硬くならなくてもいいよ」
「だって」

 そういう堅苦しさを見抜いてか、努はわざと明るく言う。

「僕の従姉妹って言ってるから」
「従姉妹? なにそれ」

 従姉妹か……。なんか複雑ね。でも、恋人なんて言われたらさすがにまずい。絶対おかしなことになる。それが世間様よね。

「でさ、由香さんは進路は……」
「私は大学行くつもりだけどな。だってそれ以外考えられないし」
「そっか」
「なに? 何か不満でも?」
「しいて言えばお弁当かな」
「もう、努は食べることしか頭にないの?」
「由香さんのお弁当なら毎日でも食べたいし」
「ほんと意地汚い人。うふふ」

 結局これか。まあ、それでもいいよ。

「じゃあ、大学に行く前に届けてあげる。それでどう?」
「うーん、そういうんじゃなくてさ」
「もう、わがままな人。そうだ、今度は何が食べたい? 今夏休みだし、手の込んだのでも作れるよ。ね、言って御覧なさいよ」
「そうだね、カツどんとかかな」
「そういうどんぶりものは作りたてじゃないとおいしくないわよ。もっとこう、なんかあるかな?」

 自分で言っといてなんだけど、そういえば思い当たらない。

「おせち料理とか?」
「さすがにそれは無理」
「じゃ、肉じゃが。この前実家からダンボールで送られてきてさ」
「汁物かあ。じゃあさ、こうしない? 私が努の家で作ってあげる」

 ん? それはいきすぎじゃない?

「そうかい。悪いね。じゃあお願いしようかな」

 え? そこは教師なんだし、っていうか、キスしないくせに部屋には呼ぶの? なんか順序間違ってない? ねえ、ねえってば……。

「あ、ごめん、私、やっぱり……」
「はい、お待たせしました。ワンタンメン二つね」
「あ、はい、いただきます」

 出張お料理教室はキャンセルで。
 そう言おうと思ったのに人のよさそうなおばさんが愛想笑いと一緒においしそうなワンタンメンを持ってくるんだもの。おなかだってぐうって言っちゃうわよ。

続く

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