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……タイッ!?_紛れ話_23

シャワーの後なのに……

 ――シャワーぐらい浴びさせて。

 私の最低限のお願いに彼は頷いてくれた。
 笑顔。なのかな。やっぱり彼もそういうことしたいのね。
 シャワーの水音が外の雨音に混じる。
 切っておけばよかった。この髪じゃ乾くのに時間がかかる。そうすると彼との時間が減る。
 はは、おかしいな。さっきまで帰ろうとしてたくせに。
 興味、失ったと思ったのにどうしてだろ。なんかい逆転されたら気が済むんだろ。何回だまされたら気が済むの?
 せめて上手にだましてよ。

 排水溝に泡が見えなくなるまえ冷水を浴びよう。じゃないとこの身体の火照りをごまかすことができそうにない。

 今しばらく、地球の環境に敵対させてね。

**

 バスタオルと下着、彼の大き目のワイシャツを羽織って寝室に向かう。
 なんかどきどきするな。だって今日、しちゃうんだ。これで紅葉に勝てる。いや、並べるんだ。
 それからが勝負。あなたが合宿に汗を流してる間に肉じゃがとカレーと私と洗濯で彼を奪うんだ。それしか勝てないもの。

「努……?」

 白熱灯の黄色い明かりが照らす部屋は空調で温度を二十六度に設定されている。
 辞書みたいな本を枕にしている彼は読みかけの本にしおりを挟むと私に笑いかける。

「僕は寝袋で寝るから、由香さんはベッドを使っていいよ」

 え?

「少し読みたいから、もう少したったら消すよ」

 ちょっと、それってどういうこと? この展開でその対応はおかしいでしょ。

 オトコがオンナを部屋に誘って帰したくありません。
 シャワー浴びていい? はい、いいですよ。
 僕は本を読んでから寝ます。

 この人ってどうしてこう、朴念仁なのかしら。

 一人でしてるくせにさ。

「……ねえ、何読んでるの?」
「ん? ああ、これは谷崎潤一郎の本で、教育に関するものさ。僕もまだまだ道程を歩き始めたばかりだからさ」
「道程か……。まだ根に持ってる?」
「あはは、まね」
「童貞じゃないくせに?」
「……」
「ねえ、童貞じゃないんでしょ?」
「いや、その」
「だって聞いたよ。紅葉さんと二人きりで」
「紅葉か。アイツは昔から言いたい放題だからなあ。僕も正直参ってるよ」

 本を伏せて頭を掻く彼。
 私がこんなに嫉妬してるっていうのにどうしてそんなにそっけないの?

「なにがまいってるよ、よ。ねえ、私と紅葉さん、どっちを選ぶの?」

 私ばかりあせる。すごく癪だ。

「選ぶって、急だね」
「急も何も当然でしょ?」
「二人とも大切なんだけどな」

 やっぱりこいつも股ずれしてるのか。なんでだろ、私の周りに来る人って。

「もういいわ。寝ましょ」

 これ以上はなしていたらもしかしてまた帰りたくなるかもしれない。
 せっかく二人でいられるのに、もう少し、もう少しだけだまされてたいから。

「そう? うん」

 彼が電気を消すとカーテン越しに街灯の明かりが薄ぼんやりと部屋に入り込む。外ではいまだ雨が降りしきる。クーラーの音がそれに重なり、部屋に静けさが訪れる気配がない。

「ん」
「なに?」
「なんでもない」

 もう、意気地なし。

「由香さん」
「だから何?」
「携帯なってない?」
「え?」

 耳を澄ませると確かに聞こえる着信音。そういえばパパにもママにも連絡してなかったっけ。まあいいか。里奈でも恵でも言い訳はいくらでもあるんだし。
 タオルケットを蹴飛ばし、携帯をとりにいく。

 着信元は美奈子のメールだった。もう、なんのよう? こんな時間にさ。

でぃあふれんず

 困ったよ。聞いてよ。あのやりチンマネージャーが合宿にきやがった。
 しかもこの雨を理由に給湯室に泊まるとかいいだしてさ。
 これ以上陸上部の風紀を乱されちゃこまるっつうの。

 ……そんなことでいちいちメールしないでよ。

美奈子へ

 困ることなんてないじゃない。むしろチャンスじゃない?
 学校でエッチする馬鹿をふんじばってあげなよ。

 ふふふ、送信っと。
 でも美奈子ってかなりまじめなのね。まあ、憧れの君を寝取られたんだし、しょうがないか。

 そしたら数分と待たせずにまた着信。

 由香殿へ

 できるかな。私に。でも私がやらなきゃ誰もしないよね。っていうか、里美なんてさっきから顔赤らめてそわそわしてるし、うん! 私があのやりチン野郎から後輩を守るわ! いつか綾もわかってくれる。だからがんばる!

 なんか熱くなってるわね。とりあえず今鎮火するのも無理でしょうし、ここは煽っておこうかしら。

 美奈子へ

 がんばれー、その粋だぞー。骨は拾ってやるから玉砕覚悟で言って来い!

 私もいい加減なこと言っちゃって。ま、ミイラ取りがミイラにならないようにきをつけてね。あなたはまだ処女なんだしさ。

「由香さん?」
「ん? なに?」

 私が携帯片手に笑いをこらえていると、彼の声。努は私のほうに身体を向けてベッドに手をついていた。

「誰から?」
「だれでもいいでしょ」
「誰でもか」
「気になる?」
「ああ」

 やっぱり気になるのね。うん、釣れるかも。

「へー、そうなんだ」
「由香さん」
「友達よ。美奈子」
「なんだ、前園か」
「幸太ちゃんだと思った?」
「……」
「図星」
「悪いかい」
「んーん、ただ、嫉妬してるんだ」
「格好悪いかな?」
「うん、すっごく」
「そっか。でも、抑えられない」
「紅葉さんと二股してるくせに?」
「紅葉はそういうんじゃないよ。あの子は僕の……」
「キスするぐらい仲が良い関係」
「イジワル言わないでくれよ。君の言う関係じゃないよ」

 もしかしてセフレなだけとか? で、私は家政婦さん? それっておかしいでしょ? 私にも、紅葉にも。

「じゃあ、私にもキスしてよ」

 論理の飛躍は恋の常套手段。

「僕は教師で君は教え子だ」
「部屋に招いておいて?」
「……最近、どうしようもなくさびしくなるんだ」
「話をそらさないでよ」

 それは彼も同じらしい。

「前は一人でいても平気だった。けど、君と、その、妙な関係になってからは毎日、ずっと、君の顔が忘れらない」
「ずるい人」
「だったらデートにでも誘えばって。でもだめだった。もっと苦しくなった。毎日お弁当作ってもらっても、手紙を書いても、全然、足りない……」
「だったら、キスすればいいじゃない。落ち着くよ」
「僕は教師で、君が教え子だから、だからまだ踏み出せない」
「なら私からしようかしら?」
「僕からしたい。好きになった人へのファーストキスだし」
「子供みたい。そんなセカンドヴァージンみたいなこといってさ」
「かも。でも、いつかきっと」
「そんなこと言ってると私がどこかに言っちゃうよ? 大学だって県内じゃなくてもいいし」
「それはさびしい」
「なら」
「でも」

 努は変なところで頑固。だから多分、意気地が無いとかじゃなくてしないといったらしないと思う。

「じゃさ、練習は?」
「練習?」

 私の提案に彼はこちらに寄り添ってくる。

「うん、キスの練習。それなら問題なくない?」
「それは、どうなんだろう?」
「いいじゃない。練習なんだし……」

 私が起き上がると彼は立ち上がる。私は寝転びなおしてタオルケットをそっと持ち上げる。
 ほら、隣に来てよ。

「由香、好きなんだ。君の事が」

 彼は私の隣に寝そべり、また肩を抱き寄せる。
 この前はこれが精一杯だと弱気をもらしていた彼。けど、今は練習。だから何も怖くない。

「由香、やっぱり練習なんて無理」
「いまさら何を言ってるのよ。そんなんだから……」
「これ、本番でいいよね」
「ん、んちゅ!」

 彼、ここぞというときに押しが強いのよね。

 キス、なんかコクがあるわ。

続く

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