「ん、んぅ……」
なんかすごい寝汗。べったりだわ。シャツも下着も。
あくびをしながら起き上がるとベッドの上にはすでに私一人。携帯を見るとすでにお昼前。努はお勤めで私はアンニュイな午後……。
やばっ、パパとママに何も言ってなかった。どうしよ。無断外泊なんてなったら言い訳がメンドイよ。恵に頼めないかな? アリバイ工作。
ん? どうしてだろ。着信、美奈子からしかない。
もしかして怒って電話も入れないとか? ん~考えられなくもない。
どうしよ。やばいかも。こんなの努に相談しても意味ないし、かえって泥沼化しちゃう。
「はぁ……」
悩んでも解決しないし、ご飯たべよ。肉じゃがあるしさ。
汗ばんだシャツを脱がずに台所へ向かう私。ゴミは出勤と一緒にもっていってくれたらしくすこし小奇麗に。けど、朝食の残骸がいくつか。
鍋は開けっ放しだし、今夏なんだからどうなっても知らないよ?
ん?
しょうがない。カレー作ってあげるわよ……。
空になった肉じゃがの鍋と「美味しかったよ」の置手紙を見て私は着替えを始める。
**
カレーは煮込むほど美味しくなる。野菜は溶かし用と具の分で別々に仕上げるのが私のやり方だ。
近くのスーパーで買ってきたナスとブロッコリー、それとジャガイモにんじん、たまねぎ、肉はさいころステーキが半額になってたからそれにした。他にカレールーを中辛と甘口。
多分アイツは甘口だと思う。
さて、最初はたまねぎをみじん切りにして炒めないとね。
**
ひとつの鍋はカレールーとジャガイモ、にんじん、あめ色になったたまねぎを煮て、もうひとつの鍋にブロッコリーとナス、余ったジャガイモとにんじんを煮込む。
ある程度火が通ったら具の鍋は火を止めて片方は弱火でことことと煮込む。
本当はワインかなにかを入れたかったんだけど売ってくれないからしょうがない。代わりにローリエの葉を入れたから台所に高貴な匂いが漂う。
目をつぶってればあのレストランを思い出せるわ。
「さてと」
現実に戻った私は昨日干していなかったワイシャツを洗濯機から取り出し、代わりにシーツを洗う。
ハンガー干しじゃしわが取れないけど、努がアイロンを持っているはずもないし、できるだけ伸ばすだけにする。
「ふんふふーん、ふんふーん」
平日の昼下がり、夕食を作りながら洗濯物を干す私。
なんだか新婚さんみたい。
こういうのってどうなんだろ。
私って結婚願望あるのかな? 彼に抱かれてたときだって頭の隅っこにリアルが残ってたけど、今の選択肢はなかったな。
やっぱり経済力かしら。
努は私立校の先生だし贅沢こそできないけど安定してる。
だからかな。
だとしたら私って結構あざといかも。
るるる……。
なんとも珍妙な着信音。というか昭和テイストなそれは私のじゃない。
努ったら忘れ物かしら。しょうがない人。
音を頼りに部屋をうろつく私。寝室? 違う。浴室? 違う。玄関? あった。
折りたたみの薄紅色のかわいい携帯。私が手に取ると切れちゃったけど、取っていいのかしら? っていうか、他人の携帯見るのっていいことじゃないと思うの。
ん~、でも彼の番号知りたいし、いいよね? いいよ。
彼の携帯をとって私の携帯に電話。うん、これでいつでも彼の声が聞こえる。
まあ、いつも学校で顔合わせてるけどね。
ぶる、ぶる、ぶる……。
今度はなに? メール。あそうだ。メールも登録……。また貴方なの? 紅葉さん。
**
ヤッホー努
あたしは合宿中だよ。とほほ。
そっちはどう? 由香落とせた? まあむりだろうけど。
まあふられたらふられたであたしが慰めてあげる。
いつでも泣きついてきていいよ。
努ちゃんなら大歓迎だし。なんちて。
そういえばこの前のズ――
なにが慰めてあげるよ。まったく。っていうか、私のこと、どうして紅葉が知ってるの?
気になったらとまらない。私は紅葉からと思われるメールを開いてみる。
Re:お悩み相談
なに? 由香さんにそんなことされたんだ。
ふーん。なんか複雑。てか、あの人他にオトコいたのに。
多分これはアレをアレしてあげたときのこと。っていうか、年下になんてこと相談してるのよ。
Re:お悩み相談2
ふーん、彼女ないてたんだ。で? 努は何をしたいの?
それが重要じゃない? だって彼女は貴方の生徒なのよ?
そう、あの日のことまで知ってるの……。どうして、話しちゃうの。紅葉なんかに……。
Re:Re:お悩み相談2
おっかしいの。泣き顔見たら笑顔が見たいの?
もうそれは恋ね。うん、恋だわ。
フェラから始まる恋物語ね。
そうだ。映画のチケットあるよ。努と一緒に行こうと思ってたけど譲ったげる。
あとさ、あのレストラン行ったら? それからギガのテーマパーク。
女の子なら誰でもジューンブライドに憧れるし、きっと笑ってくれるわよ。
あの映画ってこの人の趣味だったんだ。
Re:デートの報告
映画行かなかったですって? もう、せっかく楽しみにしてたのなのにぃ! きーっ!
まあいいわ。それよりレストランもすぐに出たの? しかもジューンブライドイベントもパスなん……。
もうなにしてるのよ。せっかくひとが入念な計画をたてたっていうのに。
まあいいわ。私の方からちょい探ってみるし。
なんか私の周りによく来るなって思ったらそういうことだったんだ。
そう、二人で私のこと……。
ふふ。もっと上手にだましてよ。
なんで私ってこんな恋愛……。
いえ、ニセモノね。
最初から、全部。
カレー。きっと美味しいから全部食べてね。
そこまでは嬉しかったしさ。
私はガスコンロの火を止めた後、仕上げのやり方だけメモして彼の部屋を出る。
鍵は、いいや。別に。
続く
やばっ、パパとママに何も言ってなかった。どうしよ。無断外泊なんてなったら言い訳がメンドイよ。恵に頼めないかな? アリバイ工作。
ん? どうしてだろ。着信、美奈子からしかない。
もしかして怒って電話も入れないとか? ん~考えられなくもない。
どうしよ。やばいかも。こんなの努に相談しても意味ないし、かえって泥沼化しちゃう。
「はぁ……」
悩んでも解決しないし、ご飯たべよ。肉じゃがあるしさ。
汗ばんだシャツを脱がずに台所へ向かう私。ゴミは出勤と一緒にもっていってくれたらしくすこし小奇麗に。けど、朝食の残骸がいくつか。
鍋は開けっ放しだし、今夏なんだからどうなっても知らないよ?
ん?
しょうがない。カレー作ってあげるわよ……。
空になった肉じゃがの鍋と「美味しかったよ」の置手紙を見て私は着替えを始める。
**
カレーは煮込むほど美味しくなる。野菜は溶かし用と具の分で別々に仕上げるのが私のやり方だ。
近くのスーパーで買ってきたナスとブロッコリー、それとジャガイモにんじん、たまねぎ、肉はさいころステーキが半額になってたからそれにした。他にカレールーを中辛と甘口。
多分アイツは甘口だと思う。
さて、最初はたまねぎをみじん切りにして炒めないとね。
**
ひとつの鍋はカレールーとジャガイモ、にんじん、あめ色になったたまねぎを煮て、もうひとつの鍋にブロッコリーとナス、余ったジャガイモとにんじんを煮込む。
ある程度火が通ったら具の鍋は火を止めて片方は弱火でことことと煮込む。
本当はワインかなにかを入れたかったんだけど売ってくれないからしょうがない。代わりにローリエの葉を入れたから台所に高貴な匂いが漂う。
目をつぶってればあのレストランを思い出せるわ。
「さてと」
現実に戻った私は昨日干していなかったワイシャツを洗濯機から取り出し、代わりにシーツを洗う。
ハンガー干しじゃしわが取れないけど、努がアイロンを持っているはずもないし、できるだけ伸ばすだけにする。
「ふんふふーん、ふんふーん」
平日の昼下がり、夕食を作りながら洗濯物を干す私。
なんだか新婚さんみたい。
こういうのってどうなんだろ。
私って結婚願望あるのかな? 彼に抱かれてたときだって頭の隅っこにリアルが残ってたけど、今の選択肢はなかったな。
やっぱり経済力かしら。
努は私立校の先生だし贅沢こそできないけど安定してる。
だからかな。
だとしたら私って結構あざといかも。
るるる……。
なんとも珍妙な着信音。というか昭和テイストなそれは私のじゃない。
努ったら忘れ物かしら。しょうがない人。
音を頼りに部屋をうろつく私。寝室? 違う。浴室? 違う。玄関? あった。
折りたたみの薄紅色のかわいい携帯。私が手に取ると切れちゃったけど、取っていいのかしら? っていうか、他人の携帯見るのっていいことじゃないと思うの。
ん~、でも彼の番号知りたいし、いいよね? いいよ。
彼の携帯をとって私の携帯に電話。うん、これでいつでも彼の声が聞こえる。
まあ、いつも学校で顔合わせてるけどね。
ぶる、ぶる、ぶる……。
今度はなに? メール。あそうだ。メールも登録……。また貴方なの? 紅葉さん。
**
ヤッホー努
あたしは合宿中だよ。とほほ。
そっちはどう? 由香落とせた? まあむりだろうけど。
まあふられたらふられたであたしが慰めてあげる。
いつでも泣きついてきていいよ。
努ちゃんなら大歓迎だし。なんちて。
そういえばこの前のズ――
なにが慰めてあげるよ。まったく。っていうか、私のこと、どうして紅葉が知ってるの?
気になったらとまらない。私は紅葉からと思われるメールを開いてみる。
Re:お悩み相談
なに? 由香さんにそんなことされたんだ。
ふーん。なんか複雑。てか、あの人他にオトコいたのに。
多分これはアレをアレしてあげたときのこと。っていうか、年下になんてこと相談してるのよ。
Re:お悩み相談2
ふーん、彼女ないてたんだ。で? 努は何をしたいの?
それが重要じゃない? だって彼女は貴方の生徒なのよ?
そう、あの日のことまで知ってるの……。どうして、話しちゃうの。紅葉なんかに……。
Re:Re:お悩み相談2
おっかしいの。泣き顔見たら笑顔が見たいの?
もうそれは恋ね。うん、恋だわ。
フェラから始まる恋物語ね。
そうだ。映画のチケットあるよ。努と一緒に行こうと思ってたけど譲ったげる。
あとさ、あのレストラン行ったら? それからギガのテーマパーク。
女の子なら誰でもジューンブライドに憧れるし、きっと笑ってくれるわよ。
あの映画ってこの人の趣味だったんだ。
Re:デートの報告
映画行かなかったですって? もう、せっかく楽しみにしてたのなのにぃ! きーっ!
まあいいわ。それよりレストランもすぐに出たの? しかもジューンブライドイベントもパスなん……。
もうなにしてるのよ。せっかくひとが入念な計画をたてたっていうのに。
まあいいわ。私の方からちょい探ってみるし。
なんか私の周りによく来るなって思ったらそういうことだったんだ。
そう、二人で私のこと……。
ふふ。もっと上手にだましてよ。
なんで私ってこんな恋愛……。
いえ、ニセモノね。
最初から、全部。
カレー。きっと美味しいから全部食べてね。
そこまでは嬉しかったしさ。
私はガスコンロの火を止めた後、仕上げのやり方だけメモして彼の部屋を出る。
鍵は、いいや。別に。
続く