「ふふ、なんか大変な関係みたいだな。陸上部員たちってさ」
「私は陸上部員じゃありません」
あんなやりチンとやりマン達と一緒にしないでよ。そういえば美奈子どうなったんだろ。まああの子はしっかり者だし大丈夫よね。
「由香! じゃない、相沢! 大丈夫か!」
里奈が行ったと思ったら今度は井口。
なんだか喧しい人たち。ここ保健室よ?
「あら井口先生どうしたの?」
事情を知らない菅原先生は血相を変える井口に涼しげに言う。
「あ、菅原先生、えと、相沢が倒れたって聞いて」
誰に聞いたのよ。
……あ、そ、なるほどね。
「僕、相沢の担任ですし、だから、その……」
繕うように言うけど菅原先生は苦笑い。
「ふーん、そうですか。そうですよね。はいはい、えー、私はちょいと運動部とプール見て回ってくるんでお願いしていいですか?」
「あ、はい。わかりました」
「それじゃ……ごゆっくり」
ごゆっくりって……保健室で何をゆっくりしていくのかしら?
まあ、ここを休憩に使ってたカップルもいるみたいだけど。
「由香、一体どうして?」
「お弁当」
「作ってきてくれたの?」
「無いわよ」
「そう」
「がっかりしないでよ」
そんなにお弁当がほしいの?
「君が……、可愛い寝顔してたからそのまま家を出たんだ」
「そう」
「もしかしたら僕が帰ってもいてくれるかと思って」
「なにそれ、気持ち悪い」
「そうかい? はは、僕って気持ち悪いか……」
「ねえ、どうして?」
「なにが?」
「どうして紅葉さんに話しちゃうの?」
「それは、彼女ぐらいしか相談できる人がいないから」
「そんなに信頼できるんだ」
「まね」
「そっか……」
「うん」
「私……帰ります」
何度目だろ。この台詞。
「そうかい? 送ってくよ」
「ダメですよ。菅原先生から頼まれてるでしょ?」
「でも君を一人に出来ない」
多分、このあとの展開も何度目になるのかしらね。
**
結局いつものように彼の車の助手席へ……。向う先も一緒。
違うことといえば私がそっちに行くように行ったこと。
――ラーメン食べたい。
その一言で彼は車を安っぽい煌びやかな駅裏へと向わせる。
時間帯だけに駅に向う車も、その逆方向も渋滞。
なのに彼は全然いらいらしてる様子もない。
私と一緒にいられるから?
……なんて考えていられたのはメールを見るまで。
私、どうしたいんだろ。
どういうつもりで駅裏に行くんだろ。
「由香、一体どうしてあんなこと……」
上機嫌だった彼が信号待ちと同時に渋い顔になってバックミラー越しに見てくる。
「んーん、ちょっと貧血と日射病が重なっただけ」
「でも日傘ぐらいしても……」
「それにちょっと混乱してて」
「混乱?」
「うん。努のことが信じられなくて」
「僕が信じられない? どうしてさ」
彼はさも意外という様子で私を見る。
「紅葉さんと私、どっちが大切なの?」
「おい、由香。少しは僕の話も聞いてくれよ。いいかい、僕と紅葉は……」
「大切な人、特別な関係。そんなの聞き飽きたわよ。私が知りたいのはどっちが大切か、どっちがすきかってこと」
「由香が好きだ。どうしてソレを疑うのさ?」
「どうして私との大切なこと、彼女にまで教えちゃうの? 私と努だけが知ってればいいじゃない」
「それは、僕が自信を持てなくて……」
「自信持てないからって彼女に聞くの? 新しく引っ掛けたオンナの扱いがわからないからってさ! ばっかじゃない? ホントバカ。あんたも、私も!」
「由香! ……ゆかさん……」
彼の手が私の手を握る。私はソレを振りほどこうとする。けれど無理。男にかなうはずがない。それがズルイ。けど、どうしても、なんでか、そうなることを望んでるの。
「ねえ、せんせ、私行きたいところあるの。つれてってくれる?」
「ああ、君が望むなら……どこへでも」
「そう、それじゃ、あそこに車停めてよ……」
私が指差す方向は煌びやかなホテルのすぐ隣の駐車場。彼は数秒迷ったあと、車を走らせた。
続く
「由香! じゃない、相沢! 大丈夫か!」
里奈が行ったと思ったら今度は井口。
なんだか喧しい人たち。ここ保健室よ?
「あら井口先生どうしたの?」
事情を知らない菅原先生は血相を変える井口に涼しげに言う。
「あ、菅原先生、えと、相沢が倒れたって聞いて」
誰に聞いたのよ。
……あ、そ、なるほどね。
「僕、相沢の担任ですし、だから、その……」
繕うように言うけど菅原先生は苦笑い。
「ふーん、そうですか。そうですよね。はいはい、えー、私はちょいと運動部とプール見て回ってくるんでお願いしていいですか?」
「あ、はい。わかりました」
「それじゃ……ごゆっくり」
ごゆっくりって……保健室で何をゆっくりしていくのかしら?
まあ、ここを休憩に使ってたカップルもいるみたいだけど。
「由香、一体どうして?」
「お弁当」
「作ってきてくれたの?」
「無いわよ」
「そう」
「がっかりしないでよ」
そんなにお弁当がほしいの?
「君が……、可愛い寝顔してたからそのまま家を出たんだ」
「そう」
「もしかしたら僕が帰ってもいてくれるかと思って」
「なにそれ、気持ち悪い」
「そうかい? はは、僕って気持ち悪いか……」
「ねえ、どうして?」
「なにが?」
「どうして紅葉さんに話しちゃうの?」
「それは、彼女ぐらいしか相談できる人がいないから」
「そんなに信頼できるんだ」
「まね」
「そっか……」
「うん」
「私……帰ります」
何度目だろ。この台詞。
「そうかい? 送ってくよ」
「ダメですよ。菅原先生から頼まれてるでしょ?」
「でも君を一人に出来ない」
多分、このあとの展開も何度目になるのかしらね。
**
結局いつものように彼の車の助手席へ……。向う先も一緒。
違うことといえば私がそっちに行くように行ったこと。
――ラーメン食べたい。
その一言で彼は車を安っぽい煌びやかな駅裏へと向わせる。
時間帯だけに駅に向う車も、その逆方向も渋滞。
なのに彼は全然いらいらしてる様子もない。
私と一緒にいられるから?
……なんて考えていられたのはメールを見るまで。
私、どうしたいんだろ。
どういうつもりで駅裏に行くんだろ。
「由香、一体どうしてあんなこと……」
上機嫌だった彼が信号待ちと同時に渋い顔になってバックミラー越しに見てくる。
「んーん、ちょっと貧血と日射病が重なっただけ」
「でも日傘ぐらいしても……」
「それにちょっと混乱してて」
「混乱?」
「うん。努のことが信じられなくて」
「僕が信じられない? どうしてさ」
彼はさも意外という様子で私を見る。
「紅葉さんと私、どっちが大切なの?」
「おい、由香。少しは僕の話も聞いてくれよ。いいかい、僕と紅葉は……」
「大切な人、特別な関係。そんなの聞き飽きたわよ。私が知りたいのはどっちが大切か、どっちがすきかってこと」
「由香が好きだ。どうしてソレを疑うのさ?」
「どうして私との大切なこと、彼女にまで教えちゃうの? 私と努だけが知ってればいいじゃない」
「それは、僕が自信を持てなくて……」
「自信持てないからって彼女に聞くの? 新しく引っ掛けたオンナの扱いがわからないからってさ! ばっかじゃない? ホントバカ。あんたも、私も!」
「由香! ……ゆかさん……」
彼の手が私の手を握る。私はソレを振りほどこうとする。けれど無理。男にかなうはずがない。それがズルイ。けど、どうしても、なんでか、そうなることを望んでるの。
「ねえ、せんせ、私行きたいところあるの。つれてってくれる?」
「ああ、君が望むなら……どこへでも」
「そう、それじゃ、あそこに車停めてよ……」
私が指差す方向は煌びやかなホテルのすぐ隣の駐車場。彼は数秒迷ったあと、車を走らせた。
続く