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……タイッ!?_54

約束

「声出していこー」
「おーっ!」

 合宿組みが戻って最初の月曜日。キャプテンである久恵の号令のもと、集団で校外ランニング。
 真面目といえばそうなる彼女だが、それでもこの変わりようは部員たちからすれば意外そのもの。

「ねえ、私たちがいない間にキャプテン何かあったの?」
「知らないよ。もう……」

 里美は隣を走る理恵に聞くも、最近トレーニングを怠けていた彼女はすでにわき腹を押さえて苦しそう。

「ふふふ。アレは恋してるのよ」

 そんなおり、首を突っ込むのは陸上部の問題児、紅葉だ。

「先輩が恋?」

 三つ編みと地味な黒縁眼鏡の久恵に限ってそれはない。
 合宿前ならそう思えたものの、久しぶりに見た彼女は大幅なイメージチェンジを行っていた。

 まず髪は肩にかかる程度に切りそろえ、外側にはねさせて色を抜いている。
 目元の名句も行っているらしく、まつげがしっかりカールしている。
 スタイルこそ変わらないものの、仕草に若干の違いがある。例を挙げるのならマネージャーと事務的な話をする際、みょうになれなれしく肩に触れること。そして距離だろうか?

「そう。恋なのよ」

 紅葉は自分だけは知っているという様子でそのままうんうんと事故解決して去っていく。

「なんだろ。紅葉先輩」
「さあね、あの人はいつもあんな感じだし」
「そうかな? いつもならもっとセクハラしてくるとおもうんだけど……」
「なら、紅葉先輩も恋してるんじゃねーの?」

 二人の間にずいと割り込むのは日吉綾。長距離走を選択している彼女にはこの程度の練習は文字通り朝飯前にこなしている。

「紅葉先輩が?」

 意外そうというよりは不愉快そうに里美は低い声で言う。

「まね。だってあの人確か好きな人いるとかいないとか……」
「ほらほら一年! 無駄話しないの!」

 綾に隠れて自己主張するのは前園美奈子。今日も小さな背丈を大きく見せようと一センチ底上げしてあるシューズで走る。

「はいはい、よーし、相模原女子陸上部! がんばろー」

 体育会系ならではのとりあえず気合をいれてごまかしてしまえ作戦。コウを労したのか美奈子は満足げに前へと行く。

「んー」
「どうしたの? 理恵」
「なんか変だよね。みんな」
「そう?」
「だって変に元気いっぱいなんだもん。夏休みももうすぐ終わりなのに」

 思いつくことといえば週末の相模神社で行われる夏祭り。それが終われば二学期だが、それでも楽しみは楽しみだ。
 里美もそれに例外ではなく、妙な興奮があった。

「やっぱりお祭りかしら?」
「お祭りだね。そういえばサトミンは誰と行くの?」
「え? ああ、私はちょっと約束してるから」
「ふーん。そうなんだ」
「うん。あはは」
「へ、うふふ」

 お互い妙に乾いた笑い声を上げてしまうのは偶然なのだろうか?

**――**

 洗濯物との格闘も今週でひと段落つく予定。
 来週からは練習時間も短縮されるし、保健室のクリーニング代行も終わるはず。

「よし、おしまい! 次はと」

 タオルを計三十枚干し終えた紀夫は久恵に頼まれていた活動報告書を書こうとボールペンを持つ。

 ――久恵先輩、変わってくれたのかな。なんかすごく可愛くなったし。

 それが自分のおかげなのかといえばそれは自惚れが過ぎる。けれどきっかけを与えたのも事実。

 ――いやいや、今は仕事仕事!

 日誌を開き最近の出来事を紐解く……と、一枚のメモがあった。
 一瞬にして動悸が高まる。
 白い封筒は簡素にして質素。色っぽさのかけらも無い、少し前の彼女そのもの。
 きっとこれは、多分……。

 ――おちつけ、きっと報告書の書き方かなにかでしょ。

 たかが封筒一枚開くのに深呼吸を二回。いざ開こうとしてやめて、またあけようとして、それを三度繰り返してようやく開く紀夫。

 相模原夏祭りの夜、神社の裏で待ってる。

 メモにはワープロ印字でそれだけしか書かれていなかった。
 差出人は不明。そもそも受取人も不明。
 しかし、動悸は治まらない。
 むしろそれが誰によるものなのか?
 それが気になったから。

**――**

「お好み焼き食べにいこっか?」
「私パス。太ると困るし」
「えー、サトミンはもう少しお肉つけたほうがいいよ。じゃないと困るよ」
「なんで理恵が困るのよ」
「えー? 理恵が困るかな? ねえノリチン。困らない?」
「え? なんで俺」

 無茶な振りをされて戸惑う紀夫だが、今気になっているのは手紙の差出人。ついでに受取人。

「とにかくパス」
「そう? でも今日は特別においしいよ? だってチーズとお餅が半額の日だもん。理恵、絶対にうまく焼いてあげるんだけどなあ」
「絶対にパス。お断りします。ぜーったいお断り!」

 両手で耳を塞ぎ、言いたいことを言うとそのまま走り去る里美。
 いったい何がそこまで彼女を拒否させるのかは不明だが、したり顔の理恵を見る限りでは何か理由があるようだ。

「ふふ、サトミン。考えはお見通しだわさ」

 いやらしい笑いを浮かべる彼女は魔女のように言い放つ。

「理恵さん。いったいどうしたの?」
「ふーん。ノリチンはわからないんだ。今の乙女の攻防がさ」
「乙女の攻防? 今のが?」
「ニブチン」

 それだけいうと理恵も行ってしまう。

「あ、ちょっと。お好み焼きは?」
「ふふーんだ」
「ちょっと理恵さん!」
「そんなに食べたい?」
「もうおなかぺこぺこなんだけど」
「今週の土曜日、お祭りに一緒に行ったら考えてあげる」

 笑顔の理恵を送ることもできず、ただ一人十字路に立ちすくむ紀夫だった。

続く

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