FC2ブログ

目次一覧はこちら

……タイッ!?_55

続、お誘い

 火曜日。

「ねえ、紀夫君」
「あ、先輩……」
 一人部室で提出物を書いていると、小柄な先輩美奈子がやってくる。
 彼女から話しかけてくるのは意外……なのだろうか?
 ただ返す言葉が見つからないのは確か。
 この前は勢いのまま彼女を求めてしまった自分がいて、それを少なからず後悔しているのだから。

「どうしたの? そんな驚いた顔してさ」
「いえ別に……」
「なに? まだこの前のこと気にしてるの?」
「そりゃまあ……」

 頭を悩ませる問題のひとつ。かといって謝るという懸案でもなく、落とし処が見つからない。

「ふふ、私は感謝してるよ? すごく気持ちよかったし、どきどきしたもん」
「はは……はぁ」
「まさにミイラ取りがミイラになったんだけどね」
「なんのことです?」
「んーん、こっちのこと。それよりさ、なんか部活の雰囲気変わったよね」
「そうですか?」
「うん。だってキャプテン見た? なんか女の子してるしさ」

 そういう彼女も唇が若干不自然な赤をしており、指先も運動部に似つかわしくないピンクの様相。

「そういうの悔しいな」
「ライバル意識ですか?」
「んーん、やっぱりオンナなんだなって思って」

 そういって視線を自分の手に落とす美奈子。
 爪のお手入れはまだ未熟なのかいくつかムラがある。

「そんなの、当然じゃないですか?」
「君は肝心なところがわかってない」

 昨日も似たようなことを言われた気がする紀夫。かといって思い当たるところも無く、ただ思い悩むだけ。

「ねえ、キャプテンと何かあった?」
「何も……ないです」
「そう? なんか君にべったりな気がするけど?」

 彼女の観察眼は正しい。事実久恵は事務仕事にかこつけて彼の周りをうろついていたのだから。

「俺はマネージャーですし、当然じゃないですか?」
「それだけとは思えないな。だって彼女、女の子してるもん」
「その女の子してるってなんですか? もう、先輩までからかわないでくださいよ」

 このまま話していたら彼女のペース。巻き込まれたらきっと余計なことをしゃべるに決まっている。そう確信した彼は強気に声を荒げて会話を終わらせることを選ぶ。

「こういうの……、女の子してるっていうのよ」

 一歩、二歩。ゆっくり近づいてほほをなでる美奈子。つま先立ちして膝をおって、そっとほほを合わせる二人。どちらとも無く、ただ雰囲気で。

「今週の土曜、空けててくれたら、もう一度ぐらいいいよ?」

 甘美な誘惑は互いの弱みを知っているからこそ……。
**――**

 水曜日。

 タオルを干すもどれもしわだらけ。いつもなら気をつけているのに、今日は一つ一つが上の空。
 その理由は昨日の美奈子の誘惑が原因。

 ――午後六時、鳥居で待ってる。無理にとはいわないわ。ただ、少し、ふふ、悪い先輩ね。でも、来てくれたら嬉しいの。

 別れ際、彼女ははやる唇に人差し指を押し当ててキスを遮った。
 それが悔しく、ずるく、期待させた。

 ――俺ってどうしておんなに流されやすいんだろ……。

 ダブルブッキング。しかも女子二人とお祭りに行く。クラスの男子が聞いたらなんというのかわからない、少なくとも半分は殺される内容に紀夫は内心心細くなっていた。

 ――やっぱり断らないと! うん、そうしよう。

「うわっと!」

 紀夫が決意を固めると同時に視界が布で覆われる。今さっき自分でぞんざいに干したばかりのタオルが巻きついたのはその恨みだろうか?

「わ、わわ、うぐぐ」

 締め付けを増すタオルに紀夫はそのまましりもちをついてしまう。

「はっはっは。だせーな、紀夫はさ」
「綾さん……」

 振り向けば太陽に隠れて豪快に笑うのは綾だった。もともとの彼女がどのような性格は知らない紀夫だが、これなら少し前の距離をとる彼女のほうが良かったとも思えてくる。

「もう綾さん酷いよ」
「里美に浮気しようとした罰なのじゃ」
「な、俺は浮気なんて……」
「誰だよ? 夜這いするなんていったのはさ」
「あ、アレは紅葉先輩に騙されて」
「怪しいな」
「怪しくなんか……ないさ」

 里美に対しては確かに怪しくない。けれど夜這いに関しては?
 するほうではなくされるほうであり、まったくの白とは胸を張れないのも事実。

「ふふん」
「はは」
「ははは……」
「良かった。綾さん元気そうでさ」
「ま、な。うん。感謝してるさ」

 豪快な彼女の繊細な微笑み。きっと本当の彼女の顔なのだろう。
 ちょっとした行き違いが彼女を硬質化させ、自分の熱くなった下心がそれを溶かした。
 紀夫だけが知っている本当の彼女。いやらしい彼女。

「なあ、そのお礼してなくね? あたし」
「え? そんなことないさ。俺も調子に乗ったし」
「いやいや、それじゃあたしの気がすまないっての」
「そう? それじゃあお言葉に甘えて……もらえるものはもらっておきます」
「うむ、苦しゅうない。それじゃあ褒美に綾様の一日エスコート権を進呈しよう。今度の土曜日は決まりだな?」
「え? もしかしてお祭り?」
「ああ、んじゃ頼んだぞ。あたし的屋の手伝いあるけど、休憩とかいって抜け出すからさ。迎えに来てよ。お願い!」
「ちょっと綾さん……」

 走り去る綾を呼び止められないのはきっと彼女が見せたはにかむ笑顔のせい。
 自分だけに見せてくれる素直な顔は二人でシーツを汚したとき以来のことなのだし。

続く

Trackback

Trackback URL
http://13koharu.blog73.fc2.com/tb.php/205-320c7fdb

Comment

Comment Form
公開設定

プロフィール

小春十三

Author:小春十三
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ

創作検索ぴあすねっとNAVI
dabundoumei
trt
オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび  
リンク予定


二次元世界の調教師様のサイトです。



無料アクセス解析