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……タイッ!?_56

続々、お誘い

 木曜日。
 その日の部活は早めに終わった。理由はわからないが、顧問の愛理がそう命じたから。

 ――えっと、もうすぐ相模原神社のおまつりだよねぇ。みんなもお手伝いとか準備あるとおもうしぃ、今日はこれで解散ね。
 本当は自分の準備があるのだろう。和彦が彼女に個別に話しかけていったことを見れば一目瞭然。知らぬは当人ばかりなり。あとはそれが世間に出ないようにしてくれれば、陸上部が炎上しなければナニをしていてもいい。
 それが大方の部員の考えだった。

 とはいえ顧問の号令が都合の良い部員たちはそそくさと帰ってしまう。
 まだ出しっぱなしの用具は雑用マネージャー任せにして。

「……うぅ」

 今日に限って比較的まじめな優、稔も「宿題終わらせたいから」と仲良く図書室へ行ってしまう。こんなことなら自分も課題を残しておけばよかったと思う紀夫だが、理恵の補修を待つ間にすべて終わらせてしまいやることもない。

「はぁはぁ……」

 頼みの綱の里美や理恵達は体育の課題である水泳の回数が足らず午後は一時間置きに入りなおしてスタンプをもらっている。
 仕方なく一人奮闘しようとする彼を支えたのはキャプテンの久恵だった。

「ふぅ、ほらがんばって。君も男の子でしょ?」
「そんなこといったって見てのとおりですから無理です」

 高飛びのマットを運ぶ彼は汗まみれになって踏ん張るも遅々として進まない。できればあと二、三人欲しいところ。

「よいしょ、よいしょっと……」

 二人力を合わせてなんとか倉庫に運ぶも、すでに身体は汗と土ぼこりにまみれていた。
 しばらくは動きたくない。たとえこのかび臭い部屋でも。

「はぁはぁ、つっかれたあ」
「そう、ね。もう、ほんと、みんな、薄情なんだから……でもさ」

 久恵はジャージから砂を払い、紀夫の隣に座る。

「二人きり。なんからぶほみたいなベッドあるしね」

 優等生モードから寂しがりやに切り替わる彼女は上目遣いで彼を見る。

「先輩……」

 あきらめないから。

 彼女の残した言葉が耳に刺さる。

「俺、本当は好きな人……」

 いるから。
 それは彼女も知っている。鏡越しの告白を目の当たりにしたのだから。

「でもあきらめない。私しつこいから」

 そっと薄い胸板に寄り添う彼女。それを振り払う余力も気持ちも無い。
 多分ここ最近の彼女の変遷ぶりに中てられたから?

 ――先輩、うなじ白い。運動部なのに。

 髪を掻き分け、ジャージの襟を見つけると白いそれが見える。そのおくにはきっと……。

「ウソウソ。冗談。君の重荷になりたくはないよ。君が里美ちゃんを好きなのはばればれだもん。そして私のことは愛情じゃなくて同情っていうのもさ。んーん? それとも欲情かしら?」
「先輩」
「どっちでもいい。なんでもいい。とにかく寂しさ埋めてくれた君が好き。だから、すこしだけ、わがまま聞いてよ」
「俺は」
「同情してよ。私に」
「……」
「今度の土曜日。お祭りに一緒にいこ。それでもう最後にするから」

 最後にする? 今できないものをどうやって?

 そんな疑問は彼女の目の辺りの化粧を汚す雫が流してしまった。

**――**

 金曜日。
 普段は静かな夏休みの学校なのに人だかりができる。理由は出店の準備を行うため。
 本来なら会場に直接運ぶほうがよいのだが、年々規模を増す相模原夏祭りは場所が神社だけあって通路が狭い。一昨年の祭りでは最初に鳥居近くの店が構えてしまったため運び入れることが困難となり、客足にも影響を及ぼした。
 そのため去年から近くの高校、すなわち相模原高校に物資を一時預け、境内近くの出店の物資から運ぶようになったのだ。

「明日はお祭りだね」
「はい」

 ヨーヨー釣りのバイトをする予定の橘紅葉はどうやって調べたのか紀夫を呼び出し、ゴムプールと空気入れを運ばせていた。

「やっぱり里美ちゃんと行くの?」
「いえ……」

 境内の中腹あたりに店を割り振られたおかげでそこまで健脚でもない紀夫でも何とか運び終える。

「あら、じゃあ理恵ちゃん?」
「はあ」
「なにそのはあって。もっと気合入れなよ。風船には水入れてさ」

 水鉄砲のような竹の筒で器用にゴム風船を膨らませる紅葉は色とりどりの風船を膨らます。
 今日はまだ本番ではないものの、待ちきれない近所の小学生が数名見ており、紅葉はパフォーマンスがてらにいくつか渡していた。

「でも綾さんはどうなの? なんかさっき君にウインクしてたような気がしたけど」
「綾さんもエスコートします」
「え?」

 紀夫の意外な言葉に紅葉は作りかけの風船を放してしまう。

「うわ、つめて!」
「きゃ、きゃっ」

 目の前ではそのしぶきをまともに浴びてしまった子供たちが楽しそうにはしゃぐ。

「えと、なに? ダブルデート? っていうか三人で行くのね。なんだ。おねーさんびっくりしちゃった」
「いえ、先輩も」
「先輩? 私にも来て欲しいとか? やーよ、子供のお守りなんて」
「いえ、美奈子先輩にキャプテンも一緒です」

 釣竿に使う金具がぐさりと黒いヨーヨーを引っかき、パチンと破裂する。

「ナニ? 五Pなの? ちょっと、さすがに、それは、私でも、引くわ……」

 身体ごと紀夫から退く紅葉。もともと倫理観の薄い彼女にして気が退ける彼のらんちきぶりにようやく紀夫も頭を抱えてしまう。

「あー! なんで俺ばっかり! ねえ先輩! 俺そんなにいい男ですか? 違いますよね。ただのマネージャーでしょ? 別に、そんな魅力もないし、お金だって力だって、格好だって全然じゃないっすか。どうしてこんな……、幸せなのに不幸なんですか?」

 たまっていたものが爆発する紀夫にさすがの紅葉も「どうどう」となだめるのが精一杯。

「まさか先輩まで誘おうとか思ってませんよね? これ聞いていじめてやれとか思ってませんよね?」
「ちょっと落ち着いてよ。もう十分楽しいからこれ以上いじめないよ。それより、どうする気? 君は一人しかいないんだよ? それなのに一度っていうか一日で三人、最大四人も傷つける約束して」
「それはそうですけど、でも、そんな、俺だけが悪いんですか? 悪いけど、でも」
「まあこれは不幸というか幸福なのかわからないけど偶然の産物なんだし、ちゃんとみんなに話して回ったら? ほら、綾さんからでも遅くないし」

 階段の下を見ると当たりの無いくじ引き屋を運営する綾が同じバイトの女の子と楽しそうにおしゃべりしているのが見える。

 今ならまだ間に合う。
 けれど、それは彼女の信頼を裏切ることになる。
 もしまた彼女が心を閉ざしたら?
 そこが足かせなのだ。

「……まったく。君は本当においしい子だわ」
「なんですか? おいしいって」
「気にしない気にしない。そうね。こうなったら君の友達を呼べば? だって二人きりとは言ってないんでしょ?」
「え? あ、そっか。そういえば待っていてくれとは言われたけど、確かに二人でとは言ってませんでした。さすが先輩! あったまいい!」

 悪知恵というよりも低の低い言い訳でも藁になる。性欲と恋心の混じったぬかるみにはまる紀夫はそんなものでも掴んでしまう。

「でも、友達……。今から呼べる人なんて……」

 携帯メモリーにはここ最近連絡を取っていない面々の番号がある程度。ついでに言えば相模原ではほとんど里美たちとしか交流がない。

「仕方ないわね。……えっと稔でいい? アイツぐらいなら呼べるから」
「は、はい!」

 紀夫はある種感動を覚えた。普段は迷惑を巻き起こすと思っていただけの先輩、橘紅葉がこうも頼りになる人だとは思わなかったから。

「もしもし稔? うん、明日だけどさ……いいじゃん。優ちゃんと一緒に来なよ。少しはみんなとも仲良くしてたほうがいいよ……」

 ただなぜ紅葉が稔を呼び捨てにするのか、なぜ番号を知っているのかはこの際後回しにして……。

続く

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