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……タイッ!?_57

祭り当日

 土曜日。
 相模原夏祭り当日、午前中から昼間にかけて小学生がはっぴ姿で町内をねり歩き「駄賃箱」と書かれたものに気持ちをいただいてる。
 町内のお年よりは孫たちの晴れ姿に喜び、子煩悩な父親はビデオカメラをもって並走していた。

「ふぅ、ひといきつこうか」
「はい」

 今日も朝からヨーヨー作りに精を出している紀夫。そんな義理も昨日果たしたのだが、いつもどおりの理恵からの「オハヨーコール」の言い訳に使わせてもらうことにしたのだ。

「で、どう?」
「ええ、まあ、なんとかごまかしますよ」
「そうじゃなくて、里美ちゃんは?」
「里美さんですか?」
「昨日の話だと彼女の名前だけなかったし」
「はぁ……」

 本当に気になるのはあの日、唇と一緒に気持ちを共有したあの子。
 電話を期待していた弱い自分。誘えない自分。しがらみにとらわれる自分が嫌だった。

「里美さん、かぁ」
「電話したら? もうこうなったら五人だろうが十人だろうが変わらないわよ」
「そりゃそうですけど」
「むしろそのほうが楽しいよ。多分」

 思い描いていた青臭い予定は二人きりで石段をあがること。
 きっと彼女は浴衣姿。普段着慣れない着物に足をとられて躓く彼女。その手を引いて、ゆっくり時間をかけて境内を目指す。何も言えず、何も言わずに、ただ、二人で……。

 しかし現実はオトコ二人とオンナ六人の大所帯。
 理恵ならきっとお好み焼きを食べようと行列に行き、綾の性格を考えれば射的やくじ引きに向かいそう。規律に厳しい感じの美奈子はおそらく小言をこぼすだろうし、久恵は周りお構いなしに寄り添うと思われる。
 稔や優がいたところできっと二人は二人の世界を作るだろうし、里美はおそらく……。

「楽しいっていうか、すごく疲れそう」
「じゃあ、私も行ってあげようか?」
「いえ、いいです」

 相談に乗ってもらえたことについては確かに感謝しているものの、彼女が来ればきっと面倒なことになる。もしくはそうなるようにする人だ。

「にしても遅いわね。どこで道草くってるのかしら。それとも食べてるのかしら?」
「そういえばたこ焼きとかおいしそうでしたしね」
「そうじゃないわよ」
「?」
「おーっす、紀夫!」

 紀夫が竹筒片手にヨーヨーを作っていると、元気の良い声が響いてくる。

「やぁ、綾さ……ん」

 声を出そうとして逆に言葉を飲み込む。
 現れた綾は黄色を貴重として赤の線の入った浴衣姿。胸元と左脚にかけて薄紅色の蝶が舞っており、彼女の長身だからこそ生きていた。多少気になるところがあるとすれば、やや裾が乱れているところ。これもおそらく着慣れていないせい?

「どう? 似合う?」
「うん。すっごく」

 彼女が夜空を飛び交う蝶なら自分はそれに誘われる蛾のようなもの。もしくは彼女を獲物と見立てる蟻なのかもしれない。

「その格好で的屋のバイトするの?」
「んーや、なんか急にバイトをしたいって子が来てさ。急遽暇をもらったのよ」
「へぇ……」
「そんじゃいこっか」
「え? まだ仕事」

 手にはまだヨーヨーの出来損ないがひとつ。後ろにはいくつかの風船の束。

「いいよ。あとやっとくし、もともと私の仕事だから」

 いかにも気を利かせましたとばかりの笑顔の紅葉だが、紀夫はむしろ裏切られたと感じてしまう。

「はぁはぁ……待って、待つのー」

 と思ったら今度は別の声。幾分息切れをしているものの、意思だけはひしひしと伝わってくるそんな声。

「理恵さん。どうしたの? そんなにばてて」
「石段上がって来たの。急いで」

 理恵は赤主体の格子模様の浴衣でいた。彼女のもつ可愛らしくも華やかなイメージに合うそんな浴衣。ただとなりにいる綾のせいで幾分子供っぽくも見えるのが残念だった。

「こんなところでばてるなんて運動不足ね。理恵」
「ナニよ。あたしはあやっちみたいにはしたないことしないの!」

 おそらくは綾は裾をめくって走ってきたのだろう。

「ふふふ、なんとでも言えばいいさ。紀夫は先着一名様の豪華ってほどじゃない商品だもの。さ、行こう行こう」

 腕を取って引っ張る綾は逆にエスコートをする気なのではないだろうか?

「ナニ行ってるのよ。ノリチンはあたしと行くの。ねーノリチン」

 逆方向に引っ張るのは当然理恵。彼女も今度ばかりは見た目に気を使ってる暇が無いらしく裾の間からむっちりとした太ももを見せて踏ん張っている。

「ふんふん、なるほどね。紀夫は先着一名様なんだ。じゃあ私のじゃない?」

「「「え?」」」

 三人の無益な争いを止めたのは紅葉。彼女はつかつかと紀夫に歩み寄ると彼に抱きつき自分のものだと主張するかのように頬ずりする。

「ちょ、先輩?」
「いいからいいから」
「「全然良くない!」」
「まぁまぁ二人とも。いい? このままここで引っ張り合いしても紀夫の股がずれるだけよ? それより今日はお祭りなんだし、楽しんでいったら?」
「それは」
「そうですけど」

 先輩の意見というよりはもっともな意見に頷く二人。もちろん紅葉に言われるのは癪だが。

「でも私はこうして今やるべきことがある」

 背後にあるプールを指差してもっともらしく頷く彼女。

「だからね、こういう提案をしようと思うの。相模原陸上部に代々伝わる夏祭りの伝統。そしてその勝利者こそ、この冴えないオトコの隣にふさわしい」
「さえないって俺のこと?」
「他に誰がいるのよ。で、どんなルールかといいますと、縁日の出し物、いくつかあると思うけど、それらで勝負してきてほしいの。たとえば射的なら景品とれたとか、カキ氷、ラムネの早食いに早飲みってかんじでね」
「先輩、そんな小学生じゃあるまいし……。ねえ理恵さん、綾さん?」
「よーし、運動と勉強じゃ勝てないけど遊びだったら負けないからね」
「望むところだ。ここはひとつ王者の風格を見せてあげるよ」

 いつから王者になったのかは不明だが反り返るほど胸をそらせる綾と、それを下から見上げる理恵。

「へー、王者ねえ。相模原女子陸上部一は別に綾に決まってるわけじゃないんだけど? 教えてあげようかしら!」

 ヨーヨーをバシバシと叩きながらやってくるのは中学生に見まごうばかりの背丈の先輩、美奈子。彼女は白色の生地に色とりどりの朝顔がちりばめられた浴衣でいた。

「私も参加しようかな。伝統のあれもあるし、ついでにね」

 その隣ではひょっとこのお面を斜めに頭にかけた久恵がいる。彼女はその性格なのか、紺色の地味な柄の浴衣に身を包んでいたが、よくよくみると格子模様に刺繍がしてあったりと妙に手の込んだものだった。

「ふむふむ。挑戦者は以上ですか、以上ですね。それでは始めたいと思います。相模原女子陸上部伝統の一戦。第十二回、夏の夜に私は舞う。たとえ一夜の夢幻であっても! 行くわ、きっと、境内のその先まで……」

 妙にテンションの高い紅葉に頷いているのは久恵と美奈子で、理恵と綾はすっかり蚊帳の外。きょとんとしている紀夫に久恵が申し訳なさそうに「ようするに男がいない子がはしゃぐための口実なのよ」と教えてくれる。

「えと、これって来年もしないといけないのかな?」
「かもね。だって十二回とか言ってるし」
「境内の先なんていったら落っこちちゃうよ」
「はいそこ黙る! それでは第一種目は伝統のたこ焼き対決! さあ、石段駆け下りてここまで持ってくる! 形、温度、青海苔、マヨネーズ、各種採点基準があるからね!」
「な、今きたばっかなのに」
「理恵やだよ~、疲れるもん」

 口々に文句を言う一年組み。それに比べて二年ぐみは余裕の表情。彼女たちも石段を上がってきたばかりだというのにその差は何なのか?

「なら脱落ね。紀夫君は私のものかしら~」

 嘯く美奈子に立ち上がる綾。理恵もしぶしぶ立ち上がるとわれ関せずの紀夫をきっとにらむ。

「う~、ノリチンうらむんだからね」
「何で俺?」

 理恵の恨みがましい視線を受けながらも、今の紀夫は風船を膨らませるほか無かった。

続く

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