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……タイッ!?_58

勝負の行方

「なんですか? アレ? 十二回とか適当なこと言って」
「あら、十二回目なのは本当よ。はい、お釣りね。落とさないでね~」
 紅葉は飄々とした様子で受付をこなし、空いた手でヨーヨーで遊んでいる。

「昔、っていうか、十二年前か。ほら、女子高だったじゃない? だから出会いが無いとかで部員が腐っててさ。それで始まったのよ」
「出会い関係ないじゃないですか」
「直接はね。でもそういうの無いとつまらないじゃない? 息抜きみたいなものよ」

 目の前では釣り金で小さな子がヨーヨー割って泣き出してしまう。

「ほらほら、大丈夫。おねーちゃんがいいのあげるからね~」

 小さな子相手には妙に良いお姉さんを演じる紅葉に感心しながら紀夫も手を動かす。

「じゃあ他の部員は?」
「他の子はみんな予定があるんじゃない?」
「じゃあ今日集まったのは予定が無いってこと?」
「違うでしょ? みんな君が目当てなのよ」
「そうでしたっけ? そうなのかな」
「はい、今度は割らないように気をつけてね」

 黒にカラフルな線の入ったヨーヨーを受け取った子は紅葉に手をふって去っていく。

「お、うわさをすれば戻ってきたよ。うん、さすが一年のエース、綾ちゃんが一着ね」

 黄色い浴衣の前を恥じらいもなく振り乱す彼女は紀夫云々よりもその背後に忍び寄る二年の実力者にむきになっているからだろうか?
 その後ろでは理恵がか細い声で「あたしのたこやき~」とこぼすのが聞こえる。

**

「聞いてよノリチン、酷いんだよ。あやっちあたしのたこ焼きひとつ食べちゃったの」
「ごめん、だって理恵があんまりおいしそうにデコレートしてるからさ」

 悪びれなく言い放つ綾の唇にはたしかに青海苔がついており、美奈子が拭くようにとハンカチを差し出していた。

「ん~、タイムは綾さんの勝利だけど、見た目がね」

 綾の運んできたものは鰹節が申し訳程度にかかっているだけで青海苔もなくマヨネーズもなく、さらにはソースも忘れているという結果。

「え~、そんな~」

「対して理恵さんのは見た目がすばらしいけど、ちょっぴりさめてるかも」

 マヨネーズとソースできれいに格子を描いて鰹節と青海苔が一つ一つ丁寧にかかっている。さらに紅しょうがも添えてあり、申し分ない。

「ふたしたらマヨネーズが崩れるんだもん」
「そして美奈子のは……、なんとも形容しがたい。どうしてこうなったの?」

 美奈子の運んできたたこ焼きはどちらかというとお好み焼きに近い形になっており、たこの足がはみ出ていた。

「私、こういうの苦手なの。ていうか、食べれば一緒じゃない」
「だめだめ。美奈子は大切な人にたいしてもそんなこと言うの?」

 ようやく石段を登ってきた久恵と肩を貸す紀夫。まだ捻挫の尾を引きずっているらしく、なれない履物と恥じらいを装う彼女はダントツのびりだった。

「ちょっとノリチン、なんでキャプテンだけ?」
「先輩はまだ足怪我してるんだから、しょうがないでしょ?」
「う~」

 まったくの正論に言い返せない理恵だが、不満は別腹にたまっていく様子。
 一番最後にやってきた久恵は紅葉にたこ焼きの入ったパックを渡し、小袋にはいっている紅生姜と青海苔をふりかける。
 紅葉はさも当然のように一つまみ口に頬張り、一言。

「ふむふむ、この対決、久恵の勝ちね」
「えー、なんで!」
「納得いかないわ」
「フェアじゃないぞ!」

 高らかと宣言する紅葉に三人はブーイングの嵐。それにひるむ様子なくうんうんと頷き三人を制す紅葉は諭すように落ち着いて話し始める。

「まぁまぁ聞きなさい。お三方。いいですか? 彼女がこのたびのたこ焼き運びで気にしたのはなんでしょう? それは早く届けるという気持ちと届ける物への愛情。怪我をおして、それでいて見た目も上出来。食べる人、さらには作ってくれた人への感謝の念すら感じられる。それらを総合すれば彼女が一番ではないでしょうか? 私はこれ以上美しいたこ焼きを見たことが無い」

 胡散臭い弁舌をとくとくと語る紅葉だが、その実は温かくて見た目の良いたこ焼きが食べられたという満足感からだろう。

「というわけで、第二種目は射的! 今度は急がなくていいよ。しっかり狙ってきてね」
「くぅ、なんだか変だけど、勝負よ綾」
「ええ、負けませんよ先輩!」

 紀夫そっちのけで勝負にいそしむ二人は浴衣を振り乱しながら駆け出していく。

「理恵、ここにいてもいい?」
「いいけど、それだと理恵ちゃんの不戦敗よ?」

 ヨーヨーの敷き詰まったプールの水をばしゃばしゃともてあそびながらさびしそうにつぶやく理恵。

「ほらほら理恵さんも一緒にいこ」
「うん」

 久恵に手を取られてしぶしぶ立ち上がる理恵に紀夫は申し訳ない気持ちを持ってしまう。

「……先輩、もういいんじゃないんですか?」
「ん~もうすこし遊びたいかな。だってせっかくのお祭りなんだし」

 ヨーヨー釣りというよりはむしろ女子部員釣りといった彼女の腹黒さに、紀夫はただ苦笑いをするしかなかった。

**

「とったぜー!」
「私だって!」

 意気揚々として帰ってくるのはもちろん綾と美奈子。しょんぼりしている理恵はストラップ片手に久恵に手を引かれている。

「さあ、こんどはどうだ? あたしの圧勝だろ?」

 綾が抱えてきたのはランドセルぐらいの狸のぬいぐるみ。丸っこくてどこに当てれば倒れるのか、そもそも倒れるのか不思議なものだが彼女はとってきたらしい。

「んーん、ここは私の勝ち!」

 対して綾の持ち出したのはビッグサイズのお菓子。ご当地限定とあるが、どう見ても四国名産品で相模原の面影も無い。

「ん~、これは甲乙つけがたい」

 両者の品物をそれっぽく見つめる紅葉だが、比べるものがものだけにどちらを勝利とすればよいのか彼女も言い訳が見つからないらしい。

「えっと、理恵さん?」

 今にもぐずつきそうな理恵に駆け寄りわけを聞く紀夫。

「ごめん、ノリチン。理恵、取れなかったの」
「お店の人おまけしてくれたんだけどね」

 理恵が持っているのは相模原市のマスコットのストラップ。景品に与かれず落ち込んでいた彼女に見かねた店員がくれたおまけらしい。

「キャプテンは?」
「私はこれ」

 久恵は小さなキャラメルの箱を取り出し、ひとつ彼に渡す。昔懐かしいおまけ付の箱だった。

「一粒で五百メートルだって」
「何がですか?」
「さあ? 走るときの消費カロリーとか?」

 四人の景品を見て改めて神妙な面持ちになる紅葉。先の結果が結果だけに、今回も油断はならないと息を呑む瞬間。

「コホン、この勝負」

 今度こそ勝利とばかりに勝ち誇る綾と、食い下がる美奈子。あきらめムードの理恵は久恵の袖に隠れていたが……、

「理恵さんの勝ちです」
「えー!」

 五人の声が重なるもそれはまさに悲喜こもごも。当然ながら誰も納得ができない面持ちだが……。

「まあ聞きなさい。いい? 今日のお祭りは何祭り? ただの夏祭りじゃないの。相模原の夏祭りなの。ということはよりそれに関連あるものが評価高くなるのよ」
「はぁ」

 みな狐につままれた顔をするしかないが、ルールブックの彼女に逆らって失格にされてもつまらない。

「まず美奈子のポッキー。これどこの名物よ? そして綾の狸。下呂温泉ってあるわよ。久恵のは一粒五百メートルってあるけど六粒だから三キロは離れてる。でも理恵さんのだけは正真正銘ご当地もの。よってこの勝負貴方の勝ちよ」

「わーい!」

 当然のごとく納得のいかない顔をしているのが綾と美奈子。久恵は首をかしげながらも喜ぶ後輩に拍手をしている。

「それじゃあこれは私が預かっておくわね」
「はい」

 手放しに喜ぶ理恵はストラップのことなどどうでも良いらしく、久恵と一緒にはしゃいでいる。

「さて、第三試合だけど、うんと、そうね。あー、そういえばあいつら遅いわね。そうだ。人探ししてきてくれる? 題して相模原のウォーリーこと稔と優を探してここに連れてくる!」
「よっしゃ、行ってくる!」
「負けないんだから!」

 ウォーリーのくせにウォーリーを探せとのたまうも、今度こそ勝つぞと熱血をたぎらせる二人はさっさと走り出す。
 理恵は久恵と意気投合したらしく「一緒にお祭りを見てくるね」と去っていく。

「先輩、なんかむちゃくちゃじゃないですか? っていうか、なんで先輩が景品もらってるんですか」
「だってこれほしかったんだもん。ほら、ご当地ものってなんか集めちゃうじゃない? よく駅とかに売ってる方位磁石付の地図みたいなキーホルダーとかさ。自慢じゃないけど九州は完成してるわよ」
「あー、わかります。って、そうじゃなくて、それ理恵さんのでしょ?」
「いいのいいの。さてさて、コレクションが増えましたっと……ん?」

 ストラップを取り出した彼女が一瞬固まるので、紀夫もそれをひょいと後ろから見る。

 メイドインチャイナ。

 どうやら海ひとつ超えてのご当地ものらしい。


続く

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