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……タイッ!?_72

自分

「花火、終わっちゃったね」
「うん」

 先ほどまでは石段も帰る人でごったがえしていたが、それも引けると祭りの後の閑散としたむなしさが漂い始める。
 神社の入り口、鳥居を少しくぐった程度の石段に座る二人は寄り添い、手をそっと重ねるだけ。

「ね、帰らないの?」
「里美さんこそ」
「私はまだここにいる」
「なら俺も」
「俺だって。さっきは僕だったくせに」

 くすすとわざとらしく声を上げる里美に、紀夫はためいきのように笑う。

「僕か……。なんかさ、俺っていえば少しは強くなれるかと思ってたけど、やっぱりだめだったみたい。人ってそう簡単に変われないね」
「うん。無理だよ。だって全然イメージ違うもん」
「そっか、そうだよね。僕って、そういう感じだよね」
「うん。そのほうがいい。そのほうが紀夫って感じするし、無理とかいいやすい」
「なんでさ、頼りなくない?」
「使いやすい!」
「やっぱり使ってるんじゃないか」
「えへへ、ばれたか~」

 そういってもたれかかる里美。その肩に手を回すべきか迷う紀夫の手を、彼女はぐいと引き寄せて距離を狭める。

「人、もういないね」
「うん、二人だけだね」
「なんで帰らないの?」
「だって、そしたらもう、里美さんと、こうしてられない気がして」
「そうだね。明日からは昔の私たちだから……」
「そう……」

 頑なな彼女の気持ちは変わらないらしく、立ち上がると同時にその手も離れる。

「いい? 君はこれからも陸上部のマネージャー兼雑用だからね。さぼったりオンナ子に手をだしちゃだめ」
「……うん。わかったよ」
「それじゃ、さよなら」

 そういって里美は軽快にジャンプする。

「さ、帰ろ」

 紀夫はまだ未練があるのか、ゆっくりと石段を降りる。
 もう見込みが無いのは承知のこと。かといって陸上部に別れを告げる必要も無い。
 逆に言えば、里美の目を気にせずに自分を慕ってくれる彼女達になびけばいい。
 むしろ、下半身については好都合。

「はぁ……」

 にもかかわらず、口から出るのはため息ばかり。
 こんなとき、理恵ならなんていってくれるだろうか? 綾なら? 美奈子なら、キャプテンならなんて言って慰めてくれるのだろう。
 物理的にも精神的にも一人になることはない。なのになぜ? どうしてため息しか出ないのか?
 少し肌寒い風が前髪を揺らすと、そのまま道路わきに倒れそうになる自分が情けない。
 祭りの夜だけ臨時に設置される青空駐輪場までもう少し。けれど後ろ髪を引かれるのが事実。

「ほら、なにとろとろ歩いてるの?」
「え?」

 どんと背中を押されてよろけること数歩。振り返れば愛しくも悲しい想い人。いまさらなんのために自分をせかすのかわからず、ただぼんやりするばかりの紀夫。

「もう、家に帰るまでがデートでしょ? ね、今日は送っていってくれるよね」
「あ? あ、ああ、うん。もちろんだよ」
「よかった。やっぱなれないもの履くもんじゃないよね」
「でも、すごくかわいいよ」
「こいつ、うまいこといって何する気?」
「あはは、ばれたか……。それじゃ自転車取ってくる。待ってて」
「うん。早くね」

 駐輪場へ向かう紀夫は急ぎつつ、またあふれ出した気持ちを腕でぬぐった。

**――**

「私ね、最近、気になる子がいるんだ」
「え? 誰……!?」

 自転車の荷台に女子高生を一人乗せて走る紀夫。ライトは最近不調で灯りが薄く、こころもとない。
 そんなおりに聞かされる里美の気になる発言。
 既に自分はその対象にないとしても、どうしても気になってしまう。

「誰?」
「ふふ、内緒」

 そういって背中にきゅっとしがみ付く里美。
 それだけで充分。彼女は少し前に戻るといったのだし。

「ねえ、島本君は?」
「俺? んー、僕もいるよ」
「そっか、恋してるんだ」
「うん。けど、僕はその子のことを悲しませてしまったから、だから、嫌われてもしょうがないんだ」

 目頭は性懲りも無く痛みを覚える。

「そうなんだ。でも、大丈夫だよ。きっとその子だってわかってくれるよ」
「そうかな」
「そうだよ。だってその子、多分、そうね、えっと、ね、遠回りしてよ。考えるからさ」
「わかったよ」

 時計はようやく九時を回るところ。夏休みの頃を考えれば高校生が二人、自転車で二人乗りしていたとしてもよくある光景。ついでに無灯火であっても。

「それでね、多分、大丈夫だよ」

 不快指数の高い最近においてそれでも密着するのをやめない女子。男子は坂道を下るのを理由にスピードを落とし、対向車が来る度に路肩に止まる。

「ありがとう香山さん。僕、絶対にその子だけを見るよ。だから、きっと、振り向いて、もらいたい……」

 希望と宣言の入り乱れる言葉。勢いは通りを行く車の音にかき消され、それなのに背中に伝わる安らぎの圧迫感。

「変わる……、絶対に……だから、待っててよ、里美さん……」

 頬に伝う線が白く乾いたあと、このことで二度と泣くまいと誓う「」がいた……。

続く

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