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逃げ出しタイッ……。_最終話

歩みタイッ!?

「初めまして、宮川雅美と申します。訳あってこちらに転校してきましたが、皆さんよろしくお願いします。えと、特技といえるものはありませんが、趣味というかスポーツを見るのが好きです。特にサッカー! 見ごたえがありますよね。でも、音楽とかも普通に聴きますんで、そう考えると趣味ってないかな? あはは、結構いい加減な人ですけど、気楽に話しかけてくれると嬉しいです」

 ふれあいの丘フリースクール。
 地下鉄と電車を乗り継いで一時間弱の駅から徒歩十五分。
 八階建てのビルの六階と七階に入っており、生徒は四十人程度。
 大学資格検定の取得や、帰国子女の単位認定なども扱い、生徒によっては専門学校などのオリエンテーションを行っている。

 不登校、いじめに遭った子たちを立ち直らせるための施設としかイメージしていなかった雅美だが、実際に教室に踏み入れて思ったのは、意外と明るいこと。
 窓は大きく南向き。教室はそんなに広くないものの、少人数クラスのおかげで一人あたりの面積が結果的に広い。
 入学前に見学したとき、生徒たちはみな何かしら目標を持っているのか、とくにまとまりもなく活動している。
 参考書を開いてもくもくと勉強をしていたり、真剣なまなざしでイーゼルに向かったりとさまざまだ。

 今もみな心を自分の興味に向けているのか、新入生に興味もなさそう。けれど、なかには真摯に雅美の自己紹介を聞いてくれる子がおり、その女子はにこやかな視線とたまに頷いてくれ、それが素朴に嬉しかった。

「えっと、よろしくお願いします」

 もう一度頭を下げたところで、その子が立ち上がり手を差し伸べてきた。
 ストレートのさらさらヘア。ちょっぴりつりあがっている目が猫を連想させるけど、どこかさびしそうな子。

「私は真澄梓。よろしくね」
「こちらこそ、真澄さん」
「ねえ、雅美さんはどこから来てるの?」
「うん、えっと……から」
「なんだ、近いかも」
「へえ、真澄さんも」
「もう、真澄さんなんてやめてよ、梓って呼んでよ」

 初対面にもかかわらずおしの強い彼女はファーストネームで呼ぶように言う。
 どこか苦手と思いつつも、彼女にはどこか自分と似ている雰囲気があり、反発する気持ちが生まれない。

「じゃ、じゃあ、梓!」
「なあに? 雅美」

 満足気に頷く梓を見ると、雅美の中で何かが解けたような気がした。
 少し前までがんじがらめに絡まり、結び目も見えなかったものが、緩み、肩が軽くなる、そんな気分。

「えっと、ここ、案内して。なんか同じ扉ばっかりでよくわかんないの」
「ええ、ついてらっしゃい……といいたいけど、私も最近きたばっかりだけどね」
「あらら」
「うふふ、それじゃ、探索でもする? ……ちょっとそこの貴方、鏡君だっけ? 案内なさい」

 梓は少し考えたあと、イーゼルに向かう男子に声をかける。
 鏡君と呼ばれた男子は一度驚いたように彼女を見るが、彼女の早く来いという手招きにほいほいとついてくる。

「何? 真澄さん」
「この子、新入生なの。ま、私もだけど、ちょっと案内してよ」
「え?」
「いいでしょ? 絵を描いてるだけじゃ身体がなまるわよ? たまには身体も動かさないと」
「……ちょっと梓、悪いわよ」
「いいのいいの。彼、優しいから」

 一方的に話を進める傲慢な態度に雅美は小声でそれを諌めるが、梓は気にするそぶりもない。

「ああわかったよ。じゃあ、最初は職員室から」
「ちょっと、そんなとどうでもいいでしょ? 最初に誰でも行くんだから。もっとこう、そうねえ、八階って何があるのかしら?」
「八階は食堂だよ。ここのビルの人たちはみんないつもそこで食べてる。結構美味しいらしいし、後でいこうか?」
「んー、そうねえ、もうおなかもすいてきたし、どうせ授業なんてないでしょ? ね、今から行きましょ」

 といっても時計はまだ十一時を少し回った程度。

「梓、見かけによらず食いしん坊?」
「ふふふ、今は成長期なのよ」

 彼女の学年は知らないが、おおよそ十七歳の彼女にこれ以上成長の余地があるのだろうか? そんな疑問を抱きたくなるが、今朝は雅美もカフェオレ一杯しか口にしていない。

「まあいいや。いこ」

 だから頷いた。

「ほら鏡君も……えと、名前なんだっけ?」
「鏡双冶。真澄さん、これで何度目だい?」

 双冶はため息をつきながらも嫌がる様子なく名乗ると、雅美に一礼する。

「よ、よろしく」

 双冶は梓にあれこれと注文をつけられ、その一つ一つに「うんうん」と頷いていた。

 ――なんだか、苦労しそうな子ね。

 階段を上る途中も梓の講釈は続き、彼女の性格が知れてくる。

 ――なんかお嬢様っていうか、女王様って感じね。

「ちょっと雅美、何がおかしいの?」
「ん? あ、いや、別に、そうじゃなくて……、あ、なんかいい匂いしてきた!」

 ありがたい説法の矛先が向きそうになったのを察知した雅美は、二人の間をさっと通り抜けて階段を駆け上がる。

「もう、貴女だって食いしん坊じゃない!」

 それを追いかけてくれる新しい友人と、その子分。

 ともかく、秋の終わりに始まった新生活。
 夢の続きは自ら歪めたが、現実の続きは動き始めている。

 予約済みの切ないイベントまで、しばらくはこの元気な友人に付き合うのも悪くない。

 それが転校初日の感想。

「もう、待ってよ!」

 階段下から聞こえてくる梓の声を振り切り、

 今は前に進みたい。
 適度に、適度に……。

完?

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