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僕らの関係 ご機嫌ナナメ?

ご機嫌ナナメ?
「それでは、学祭の実行委員を決めたいと思いますが……誰か立候補する人はいませんか?」
 クラス委員の須藤久美が声をかけるが、誰一人として反応を示す者はいない。
 来る十月の第四週は学園祭。学校側としては男女共学となったことを世間にアピールしたい思惑があり、例年以上に気合が入っている。しかし、それはあくまでも学校側の意思であり、肝心の生徒達は冷めた反応。
「誰もいない場合、推薦でも構いませんが……」
「はい! それならユカリンがいいと思います!」
 里奈が元気良く右手をあげると、ピンクのリボンで留められたツインテールがふわふわと揺れる。
「倉沢、今はホームルームなんだから、ユカリンは無いな」
 担任の井口は爛漫な様子の彼女に眉をしかめる。
「ごめんなさーい。でも、由香さんはそういうの得意だと思いまーす。中学のときから面倒見良い子なんでー」
「そうですか、由香さんはそれでいいですか?」
「他に立候補したい人がいないなら私がやりますけど……」
「ほらねー、イイコでしょー」
「じゃあ女子は相沢さんで決定です。ただ、男子のほうも一人必要なので……」
「はいはーい、それならコータ……じゃなかった、幸太君がいいでーす」
 またも内輪のノリを披露する里奈だが、大半のクラスメートも面倒なことを引き受けてくれるならと異論を挟む様子がない。
「えっと、桐嶋君はいいですか?」
「……はい」
「それじゃあ我が一年C組の学祭実行委員は桐嶋さんと相沢さんの二人に決定です。放課後、視聴覚室で打ち合わせがありますので、忘れずに参加してくださいね」
 久実は必要事項の書かれたプリントをそれぞれ渡して席に戻る。
 引き続き井口が代わって教壇に立ち、今週の予定と学生の気構えなど、ありがたい訓示を述べるが、大半の生徒は右から左に受け流すばかり。ただ、教室を出る前に「倉沢は後で職員室に来るように」と言われたときは、苦笑が漏れた。


 お昼ごはんは学生生活の楽しみの一つ。
 皆一様に活気付き、学食だ、購買だと散っていく。
「あーあ、今日は学食かあ……、やだなあ、今月金欠だし……」
 頼りない財布をチェックしながら恵はがっくりと方を落とす。
「それなら自分でお弁当作れば?」
 由香は水色のランチマットに包まれたお弁当を広げ、いただきますと手を合わせる。
「あたしにそれが出来ると思うか?」
 両親が共働きな恵は、いつも幸太にお弁当を作ってもらっている。もちろん材料代は別途手渡しているが、学食に比べて五十円ほど安上がりだ。しかし、昨日の悪ふざけのせいがたたってか、声をかけにくい。
 仕方なく里奈を連れ立って学食に行こうとすると、幸太がいつものピンクのランチマットにくるまれた二段重ねのお弁当を持ってくる。
「恵……今日のお弁当だよ」
 だが、けっして目を合わせようとはしない。
「あ、ああ、ありがとう」
「それじゃね……」
「なんだよコウ。こっちで一緒に食べようよ」
「そうだよー、皆で食べたほうが楽しいよー」
「僕、学祭の注意事項とか見ておきたいから」
 寂しそうに呟くと、幸太はそのまま席に戻る。
「それなら私も……」
 由香は去り際の彼に声をかけようとするが、昨日の言葉がまだ耳に残る。
『一人にしてよ』
 三人の女子に囲まれ、イタズラに弄られ、どうにもならない生理的反射をさせられる。結果的に快感を与えはしたものの、人としての尊厳を著しく傷つけた。
 ――イタズラが過ぎた。
 由香は謝ろうと何度も彼に電話をして、その度に無機質な着信拒否の音声を聞いた。
 今朝も里奈が仲直りのきっかけになればと由香と幸太を実行委員に推したのだが、逆にそれを口実に逃げられてしまった。
「ふい~、コータ、完全にご機嫌斜めですー」
 良い手が浮かばない里奈はさっさとサジをなげ、手製のサンドイッチを頬張る。
 チーズとハムとレタスだけの質素な具を挟んでいるだけのそれは、恵が目の前にしている幸太お手製の色とりどりのお弁当に見劣りする。
「だいたいさ、コウだってだらしないんだよ。それに、ちっさいことを気にしすぎるんだよ。男ならもっとどーんと構えていればいいんだよ」
 良心の呵責に耐えかねた恵は、幸太を罵ることで平静を装う。
「でも、コータのだし巻き卵、ちっさいことをしっかりしてるからおいしんだよねー」
 里奈はストローを卵に指し、ひょいと口に運ぶ。
「あ、それあたしの! 返せこのドロボー猫!」
「にひひー、もう食べちゃったもんねー!」
 もごもごと口を動かし、ごくりと音を立てて飲み込む。しかし、美味しいというわりに里奈の表情はどこかくらい。
「どうかしたの? 里奈」
「うん。やっぱり、ちょっちいつもより美味しくないもん」
 いつもなら「由香ちゃん、僕が……」「恵ったらまたピーマン残して……」「りっちゃん、また井口先生に怒られたの?」などと他愛の無い会話で過ごすはずのお昼休みも今日はやけに静か。
 三人はがっくりと肩を降ろし、ついでにため息も重ねる。


 放課後、由香は幸太と一緒に視聴覚室へ向かった。
 廊下を歩く二人はどうしてもぎこちなく、由香が後ろを歩く幸太を待つと彼も足を止め、隣を歩くように言うと、短い足を精一杯動かし早歩きになる。
 つまり、全力で避けられている。
 由香は心に細い針を刺されたような痛みを覚える。そして同時にめらめらと燃える上がるものを感じる。
 彼女自身反省する気持ちはあるものの、あまりにうじうじした幸太の態度が腹立たしくあった。
 世間ではそれを逆切れというのだが、当事者となると冷静に自身を振り返ることが出来なくなるらしく、ついイジケタ幼馴染を睨んでしまう。
「由香ちゃん、どうしたの?」
 ――どうしたのなんてこっちが聞きたいわ。いいかげん機嫌直してよね!
 由香は逸る気持ちを押さえ、視聴覚室の扉を乱暴に開いた。


 打ち合わせは思いのほか長く、終わる頃には既に日も沈んでいた。
 ただし、提出書類のいくつかは今週中が期限とあり、由香は提出書類とクラスメートに配るプリントの原稿の編集、校正作業に没頭し、幸太は必要物資の借り出しと準備作業の日程表の作成に追われていた。
「あーあ、こんなにタイヘンなんて思わなかったわ」
「そうだね……」
 相変わらず淡白な態度の幸太は、由香との間に椅子一個挟んで作業に取り掛かっている。
 何度か彼の隣に行ってみたものの、その距離を埋めることが出来ない。
 そのちょっとした亀裂が思考回路で堂々巡りを繰り返し、周を重ねる度に大きくなり、ついには指先にまで達し、普段よりも濃い黒を描く。
 ――なんで幸太ちゃんは……!
 ピシリという破裂音がした。みるとエンピツが折れていた。たまに抑えが聞かなくなる事はあるが、せいぜい芯が折れる程度なのに、今日は持つ部分がしっかりと折れていた。
「大丈夫、由香ちゃん」
 幸太は心配そうに彼女に声をかける。
「大丈夫じゃないよ。さっきから幸太ちゃん酷いってば……」
 しかし、彼の気弱な声を聞くと、溜めるに溜めた鬱憤が抑えられず、ついに爆発してしまう。
「そりゃ昨日は私が悪かったよ? でも、電話にも出てくれない、挨拶しても目を合わせてくれない、お弁当作ってきても一緒に食べてくれない。なんでそんなウジウジした陰湿な仕返しするの!」
 激昂しながら、彼女は瞼が熱くなるのを感じていた。
 このまま気持ちを吐き出していたら、泣いてしまうかもしれない。
 ――いいよ。もう、幸太ちゃんだって悪いんだから。
 ただ、今の彼女は彼を困らせても良いと、特に冷静になろうと思わなかった。
「幸太ちゃんだって男の子なんだから、もっとしゃきっとしてよ、しゃきっと。そんなんじゃ何時までたっても私達に……」
 ――幸太ちゃんのことだからきっと悪くなくても謝ってくる。そしたら、優しい言葉と妥協の言葉をかければいい。それで強引にいつもに戻してしまおう。
 そんな甘い見通しをつける由香だが、幸太は無表情のまま彼女に歩み寄ると、その手をとり、そっと口付ける。
「こう、たちゃん?」
 いったいなんのつもりなのかと訝る由香だが、彼の舌が指先をちろちろ舐めたとき、それを理解した。
 鉛筆の木片で切ってしまったのだろう。じくじくした痛みが指先にある。
 先ほどまでは怒りに我と一緒に痛みも忘れていた。しかし、頭から血が下がると、すぐに痛みがやってくる。若干のくすぐったさというオマケつきで。
「由香ちゃん、痛くない?」
「うん、平気……」
 幸太は鞄から絆創膏を取り出すと、由香の白い指に巻き始める。
「あ、ありがと」
「うん……」
 幸太は少しだけ唇の端っこを上げて頷く。その顔はいつもの幸太に見えた。
 ――仲直りするなら今だ。いや、もう大丈夫かもね。だって幸太ちゃん、どこまでも人が良いし。
「ねえ、幸太ちゃん、やっぱり怒ってる?」
「んーん、もう怒ってないよ。っていうか怒る理由なんて無いよ」
「だって、恥ずかしいことさせて……」
「でも、本当は気持ちよかったもん。だから……、あ、でも、またされるのは困るよ。ちょっぴりどころかすごく恥ずかしいし」
「じゃあ何で私達に冷たいの?」
「だって、顔合わせにくいし、それにまともに顔見ると、また……アレ……もん」
 またもウジウジしだす彼は語尾を濁す。だが、由香は不思議と苛立ちを覚えない。
「私達のこと……、んーん、私を見ると、どうなるの?」
 それどころかこの状況を楽しむ気持ちが芽生えていた。
「由香ちゃん、エッチ、気持ち……あんなことされて……恥ずかしい」
 片言の日本語で話す幸太の気持ちは手に取るようにわかる。そして、股間の辺りでテント設営に余念がないことも。
「それじゃわからないな。うじうじするの、幸太ちゃんの悪いクセだよ。きちんと言わないとオシオキしちゃうよ?」
 幸太は椅子に座り、組んだ腕に顎を乗せる。由香が隣に座っても顔を上げようとする様子もないが、距離を開けようともしない。
「僕ね、精通したの夏休みが終わった頃なんだけどさ、その頃から三人の顔見るとおち○ちんが大きくなっちゃうんだ」
「それは、しょうがないんじゃない?」
「うん。でもね、その、皆のこと考えて僕、いけないことしちゃってるんだ」
「それって、一人でするやつ?」
 幸太は無言で頷き、そのまま目元まで腕で隠す。
「幸太ちゃんだって男の子だもん。しょうがないよ」
 懸命にフォローしようとするものの、男子の性徴に詳しくない由香は同じ言葉をくりかえすだけ。あまりの語彙の少なさに自分を間抜けなオウムかと罵りたくなる。
「この前、皆が僕の家にきて夕飯食べて行ったでしょ」
 先週の末、幸太の両親が急な出張で家を空けることになった。
 それを聞きつけた恵が一人では寂しかろうとやってきた。ただ、彼女の真の目的は帰宅の遅い両親に頼まれていた食事の準備をしてもらうこと。
 幸太はカレーをナベ二つ分作ることになったのだが、恵が分量を間違えたせいでナベ三つ分となり、急遽里奈と由香も呼ばれ、カレーパーティーとなった。
「幸太ちゃんのカレー美味しかったよ」
 にんじんの嫌いな里奈のために摩り下ろしてみたり、風味を出すためにローリエ、バジルなど耳なれない香味料を使ったりと、凝った作りだった。
「その後……」
 おなか一杯食べたせいで動けなくなった四人は、暇つぶしにトランプをした。時計が七時を回る頃に解散しており、特におかしなことは無かった。
「掃除してたらさ、皆がいた場所、すごくいい匂いがして……それで……」
 特に香水の類をつけているわけではない。ただ、スパイスの効いたカレーの持つ発汗作用でそれなりに汗をかいたのを覚えている。皆学校帰りということもあり、スカートにニーソックス。大腿をにじむ汗はそのままクッションに吸われていた。つまり彼は……。
「しちゃったの?」
「ゴメンなさい」
 クッションに顔を埋めて皮の剥け切れていない陰茎を扱く幸太。彼が身近な女子の名前を呼んで自分を慰めていた光景が脳裏に浮かぶ。
 幼い顔立ちの幸太が欲情に突き動かされ、男根を弄る。先端から淫らな汁をこぼし、快感に嘶きながら残り香を吸う。
「幸太ちゃん、キモチワルイ」
「ゴメン……」
 由香が幸太に嫌悪感を覚えたのはこれが初めて。思わず眉を顰めてしまうが、心の中にはもう一つの疑問が芽生えていた。
「ね、イクとき、誰の名前を呼んだ?」

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