溜め込んでいた気持ちを吐き出すと、止め処がなくなり目頭が熱くなり……、
「あ、あれ……、どうして……? わたし、怒ってるだけなのに……、なんで、涙? だって、健一が……、わたしを一人にするから……、いけないのに……」
――どうして一人で先にいくの?
――新幹線でお菓子を分けてあげなかったから?
――そんなまさか……?
――他にもっとある?
――例えば……、
――わからない……。
「かーなこ!」
「わっ!」
座り込んで膝を抱く加奈子を後ろからぎゅっと抱きしめるのは、ここ二日先へ先へといったバカ野郎。
「なんで泣いてんだ?」
「泣いてなんかない! これは、目が乾いたからだってば!」
強がる彼女の目じりをかさかさな手がそっとなぞる。
「だれが加奈子を泣かしたんだ? 俺がとっちめてやる」
「そんなの、あんたに決まってるじゃん……」
その手を握り返し、胸元で交差させる。
「俺、何か酷いことしたっけ?」
「した、すっごい酷いよ……」
「なにが?」
「だって、今日の自由行動、全部先に行ってたし、全然一緒にいてくれないんだもん」
「あ、あぁ、そうだっけ?」
「そうでしょ! どうしてよ」
屋上は海風が届く場所。けれど、カレシというカーディガンは内側からも温めてくれるらしく、ちっとも寒さを感じない。
「んとさ、笑わない?」
「ん? うん……」
「探し物してたんだ……」
「探し物? そんなの一緒に探してあげるよ」
「そういうんじゃないんだ。なんていうか、そういうんじゃない」
「意味わかんない。そんなんでわたしたち一緒にいられないの? そんなんじゃ付き合う意味ないじゃん! このバカ! 健一なんて死んじゃえ!」
「そういうなよ……、だってさ、俺たちの初めての旅行じゃん? これ」
「ただの修学旅行じゃん」
「そうだけど、でも、旅行は旅行だろ? だからさ、思い出になるようなものを探してたんだよ」
「思い出?」
「ああ、これは絶対にすごい! っていう景色、探してて……。でもお寺でも海でもなんかありきたりだったし……」
「どうして一緒じゃだめなのよ」
「一緒じゃ驚かせられないじゃん」
「ばっかみたい」
「でもよかった。だって、加奈子、感動してくれたみたいだし……」
彼らの暮らす場所では見られない景色。ネオンもなければ視界を遮る建物も見下ろせるここだからこその景色。
「百万ドルってわけにはいかないけどさ、でも、よかったろ? ここ」
「うん……」
「あとさ……」
健一はポケットをまさぐり、じゃらじゃらとした何かを加奈子の首にかける。
「ん? なに? これ?」
「探してたんでしょ? 貝殻のネックレスだっけ? 恵美ちゃんに聞いて一緒に探してもらったんだ」
「だからあのとき……」
「プレゼントってのはびっくりさせないと意味ないし、俺かなり必死に探してたんだぞ?」
「うふふ、やっぱり健一ってバカ」
「なんだよ、人がせっかく」
「だってこれ、お姉ちゃんに頼まれてたものだよ? なんか失くしちゃったんだってさ。わたしが欲しかったわけじゃないんだったのに……」
「えぇ……」
「でも、特別にもらっといてあげる。だって健一が一生懸命探してきてくれたんだもん。大切にするよ……」
エナメル質でコーティングされた貝殻をジャラジャラともてあそび、がっくりとのしかかる彼の重さに、加奈子は先ほどまでの不平不満を忘れ、代わりにカレシカノジョという曖昧な幸せに浸っていた……。
続く