二つのボックスの席に渡って行われていた大富豪大会は幕を閉じていたらしく、参加者は恵美と弘樹を除いて皆夢の世界に旅立っていた。
「……うん、ちょっとね……。それより恵美、なんか紐無い?」
「え? あうん、あるよ……えっと……」
バックから小物入れを取り出し、丈夫そうな紐を取り出す恵美。
「ありがと、よく持ってるね、こんな紐」
「まね。それよか喉乾いた。なんか買ってきてよ……」
「そう? じゃおごるよ……、紐もらうし」
「いいよいいよ、わたし大富豪だし!」
恵美はどうやら大勝利を収めていたらしく、それに傅く弘樹はおそらく……。
「財布はっと……えーい、面倒だ。これごともってゆけい!」
財布といってもがまぐちのようなもの。ほいっと放られたそれを受け取ると、加奈子は「いいのに」と思いつつ、自販機売り場へと向かった。
後ろでは「さすが恵美さま……、ふとっぱら……」としたてに出る弘樹の声が聞こえたが、彼に想いを寄せる二人が見たらどう思うのか?
~~
「なんかおなか空いたわ。何かないの? それ、なに? お土産? ちょっと出しなさいよ!」
弘樹の鞄から零れる紫の包みを目ざとく見つけた恵美は指をさす。
「ひぇえ、お代官さま、これはわしらが年を越すための大事なもんです。どうかお目こぼしを……」
「ほほほ、米がなければお餅を食べればよろしいことよ、さあ、さっさと出しなさい!」
「へへぇ……泣く子と地頭には敵わないわい……」
弘樹は恭しく傅いたあと包みを取り出し広げるが、それはお菓子の類ではなくハンカチやタオルなどの生活雑貨。
てっきりお菓子だと思っていた恵美はがっくりするが、ついで出されたスティックスナックに「ありがと」といってつまむ。
「ほいっと、どうぞ」
「ひゃう!」
その一部始終を遠目に見ていた加奈子は踏ん反りかえる加奈子の首筋に缶ジュースを押し当てる。
「な、ぶれいですぞ、加奈子殿」
「よいよい、そちもわるよのう……」
「なにいってんだか……」
大富豪というよりは悪代官に成り下がった恵美と、貧民からいつの間にか越後屋に成り上がった弘樹に苦笑しつつ、がまぐちをほうり返す加奈子。
「小銭ばっかだったから使えなかったよ」
「あら、ごめん」
「いいよいいよ。代わりにもらったし」
「そう? なんか悪いわね」
「んーん、ここに売ってないし、困ってたのよ……。こっちこそありがと」
それだけ言うと加奈子は手を振って車両を出る。
「ん? んぅ?」
隣のボックスの席には……がいるのに?
見せびらかす幸せの証拠が首に無い?
「どうかなさいましたか、奥様……」
不審に思う恵美だが、半笑いの謙譲語にそれも忘れてしまう。
「いえなんでもありませんことよ……、それよりセバスチャン、わらわは眠いでござるよ」
どうも世界観が一定しない二人は、どうあがいても平民層なわけだが。
~~
散らばったそれを適当に集め、袋に紐と一緒に詰める。
もしかしたら足りないかもしれない。
問題ない。
どうせ姉に渡すものだ。
家に帰った後で適当につなぎ合わせればいい。
ただ、ひとつだけは自分のものにする。
とげとげの多い貝殻。
今すぐに使いたいから……。
「ね、もっかいしよ。もうひとつあったから……」
がまぐちで大事にされていても干からびるだけ。
だから……これが有効活用……。
修学旅行の夜に 完
「え? あうん、あるよ……えっと……」
バックから小物入れを取り出し、丈夫そうな紐を取り出す恵美。
「ありがと、よく持ってるね、こんな紐」
「まね。それよか喉乾いた。なんか買ってきてよ……」
「そう? じゃおごるよ……、紐もらうし」
「いいよいいよ、わたし大富豪だし!」
恵美はどうやら大勝利を収めていたらしく、それに傅く弘樹はおそらく……。
「財布はっと……えーい、面倒だ。これごともってゆけい!」
財布といってもがまぐちのようなもの。ほいっと放られたそれを受け取ると、加奈子は「いいのに」と思いつつ、自販機売り場へと向かった。
後ろでは「さすが恵美さま……、ふとっぱら……」としたてに出る弘樹の声が聞こえたが、彼に想いを寄せる二人が見たらどう思うのか?
~~
「なんかおなか空いたわ。何かないの? それ、なに? お土産? ちょっと出しなさいよ!」
弘樹の鞄から零れる紫の包みを目ざとく見つけた恵美は指をさす。
「ひぇえ、お代官さま、これはわしらが年を越すための大事なもんです。どうかお目こぼしを……」
「ほほほ、米がなければお餅を食べればよろしいことよ、さあ、さっさと出しなさい!」
「へへぇ……泣く子と地頭には敵わないわい……」
弘樹は恭しく傅いたあと包みを取り出し広げるが、それはお菓子の類ではなくハンカチやタオルなどの生活雑貨。
てっきりお菓子だと思っていた恵美はがっくりするが、ついで出されたスティックスナックに「ありがと」といってつまむ。
「ほいっと、どうぞ」
「ひゃう!」
その一部始終を遠目に見ていた加奈子は踏ん反りかえる加奈子の首筋に缶ジュースを押し当てる。
「な、ぶれいですぞ、加奈子殿」
「よいよい、そちもわるよのう……」
「なにいってんだか……」
大富豪というよりは悪代官に成り下がった恵美と、貧民からいつの間にか越後屋に成り上がった弘樹に苦笑しつつ、がまぐちをほうり返す加奈子。
「小銭ばっかだったから使えなかったよ」
「あら、ごめん」
「いいよいいよ。代わりにもらったし」
「そう? なんか悪いわね」
「んーん、ここに売ってないし、困ってたのよ……。こっちこそありがと」
それだけ言うと加奈子は手を振って車両を出る。
「ん? んぅ?」
隣のボックスの席には……がいるのに?
見せびらかす幸せの証拠が首に無い?
「どうかなさいましたか、奥様……」
不審に思う恵美だが、半笑いの謙譲語にそれも忘れてしまう。
「いえなんでもありませんことよ……、それよりセバスチャン、わらわは眠いでござるよ」
どうも世界観が一定しない二人は、どうあがいても平民層なわけだが。
~~
散らばったそれを適当に集め、袋に紐と一緒に詰める。
もしかしたら足りないかもしれない。
問題ない。
どうせ姉に渡すものだ。
家に帰った後で適当につなぎ合わせればいい。
ただ、ひとつだけは自分のものにする。
とげとげの多い貝殻。
今すぐに使いたいから……。
「ね、もっかいしよ。もうひとつあったから……」
がまぐちで大事にされていても干からびるだけ。
だから……これが有効活用……。
修学旅行の夜に 完