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僕らの関係 甘く、しょっぱく、時折濃く苦く

甘く、しょっぱく、時折濃く苦く

「由香ちゃん、ちょっといいかな……」
 お昼休み、幸太は股間の辺りを手で隠しながらをモゾモゾしており、トイレに行くのを我慢しているようにも見える。
「何? 幸太ちゃん」
「あのさ、学祭の打ち合わせで……」
 普段よりはぎこちないものの、昨日のおどおどした様子もなく、里奈や恵にも挨拶を返した。
 由香との一件を知らない恵は「一晩寝たから治ったんだろ」と軽く考えており、真相を知る由香だけが、内心クスリとほくそ笑んでいた。
「うん。いいよ」
 由香は幸太に付き添い、教室を出る。

「ね……あのね……、僕」
「なあに? はっきり言ってくれないとわからないな」
 着いた場所は人気のない音楽準備室。てっきり視聴覚室と思っていた由香も彼の思惑を理解した。そして、その上でとぼけ始める。
「だって、由香ちゃんが……。あのね、僕、昨日ちゃんとアレを掃除したんだ。それで、あんまり皮を被ってるとまた溜まっちゃうらしいから、今日はずっと捲れたままなんだ」
「ふーん。そうなんだ」
「それで、ズボンと擦れて……だんだん……良くなってきて……」
「へー、それで?」
 わざと突き放す由香に、幸太は恨めしそうな上目遣いを送る。
「だから、お願いしちゃダメ?」
「ダーメ。だってまだ放課後になってないでしょ? 幸太ちゃんのお世話は放課後にするって約束だもん」
 精通を終えた、しかも射精の快感を知る思春期の男子の性徴について調べた由香は、彼の悶々とした気持ちをある程度理解しているつもりだ。ただ、今日まで一人劣等感と焦燥感に苛まれてきた彼女にとって、その原因の一つである彼をいじめるというのは、魅力を感じている。
「由香ちゃん。お願い……このままじゃ午後の授業中に出ちゃうかも……」
「え、もう?」
 その告白は少し意外なもの。服の締め付けだけで絶頂に達するなら、教室は常に青臭さが支配してしまう。
「だって、しょうがないじゃない。うちのクラス女のこの方が多いんだもん。匂いだけでもタイヘンなのに、先っちょも敏感すぎて……」
 まだ刺激になれていない亀頭に女子率八〇パーセントを越える教室は、常に誘惑が垂れ流されているようなもの。正直、彼が自分以外で射精に導かれるのは、せっかく手に入れた宝物を目の前でカラスについばまれるようで気分が悪い。
「いいわ。エッチな幸太ちゃんに少しオシオキしてあげる」
「うん! やっぱり由香ちゃん大好き!」
 性的な満足を与えてくれるから好きなのだろうか?
 そんな不安も感じたが、彼女は彼の前に跪き、そしてなれた手つきでチャックを降ろす。
 白のブリーフはあまり通気性がよくないのか、汗と尿の匂いが籠もっている。目眩を覚えつつも、三度目の男の匂いに、どこか酔いしれる自分がいるのを彼女は感じていた。
「今度幸太ちゃんの下着を買いに行こうね。そしてもっと締め付けの弱いの買おうね」
 既に勃起している陰茎は亀頭が露出しているせいか、昨日より大きく見える。
 先っぽから出る淫水を指に絡め、撫でるように扱き始める。最初はゆっくり、調子をみて、すぐに射精させないように調節する。
 時計を見ると五時限目まで十五分ある。せめて十分は彼といけない遊びを楽しみたい。
 そう思う彼女は、わざと焦らすように指先の締め付けを緩くする。
「あ、由香ちゃんの手……気持ちいいよ……だって、こんなに……あぁ、すごい……」
「うん。大丈夫だよ。音楽室だからそうそう声は漏れないよ」
 ここは音楽準備室。もっと甲高い声で鳴かせたとてばれることもない。
 雁首をなぞっても恥垢はでない。昨日はチーズのような芳香を放っていた陰茎が、今日は青臭い匂いだけ。鈴口から垂れる糸はまるで水あめのように糸をひき、光を反射する。
 今ならできるかもしれない。
「ねえ、目を瞑ってて……私がいいって言うまで絶対目を開けちゃダメ。もし約束してくれないなら、途中でやめて酷いことするからね」
「うん。わかった」
 幸太は訝りながらも素直に目を閉じる。由香は彼の態度に満足したのか、不適な微笑を口元に浮かべ、そして大きく開く。
「あ、ふわぁ! ……ん、熱い……すごい、熱いよ……由香ちゃん」
 幸太は壁に頭をこすりつけ、仰け反るように後ずさるが、腰は前に突き出され、陰茎もビクリと動く。
「はむ、ちゅ、んちゅ……はむう……ちゅぱちゅぱ……はぁ……んぅ……はぁ、れろ……んちゅ……ひゃ……ショッパイ……」
「え? 何がしょっぱいの? 由香ちゃん、何をしてくれてるの?」
 幸太は言いつけを守らずに瞼を開けようとする。
「あん、ダメ……お願い……私も精一杯なんだから、見られたら死んじゃいたい」
 真昼の音楽室、廊下にはまばらだが生徒もいる。その裏で自分は彼のモノを愛しげに咥え、舐り扱いている。そんな姿は見られたくない。
「ん、わかったよ、だけど、もう僕……、だめそう……あ、ああ……」
 時計を見るとまだ五分と経っていない。それでも今朝からずっと性的な刺激を強制されていた彼には保ったほうだと、その弱音を許すことにする。
「ん、いいよ、だけど……イクときは言ってね……汚れたら困るから……」
「う、うん……イク、イクかも……あ、ああ、あ、だめー、イクーッ!」
 幸太は例の甲高い声を上げて腰を前に突き出す。由香は受け止める部分と、その周りをハンカチで押さえる。
 熱い精が鈴口から飛び出し、口の中に青臭く苦い粘液が溜まる。舌でそれを促すと、幸太は意味を持たない喘ぎ声を漏らし、かくんかくんと身体を震わせる。
「ん、んー……んぐぅ……はぐぅ……」
 むせ返る臭いに息が苦しくなる。由香は涙を浮かべながら、それでも彼のものを咥える。行き場の無い精液を嚥下しながら、彼女は喉に絡まる彼のいやらしさを感じた。
「んぐ、んぐ……」
 白い喉がコクリと頷く。口元からはややあってから白いものが零れ始める。
「由香ちゃん、ありがと。僕すごく……あ、あれ、由香ちゃん? ご、ごめん。そんなことさせるつもり……」
 快感の収まった彼は約束も忘れて目を開け、うろたえる。
 幸太はポケットからティッシュを取り出し、数枚を重ねて彼女に手渡すので、まだ口腔内に残る残滓を唾液と一緒に吐き出す。
「んぐ……けほっけほけほ……んもう、幸太ちゃん、目を瞑ってっていったのに……悪い子は放課後の……きゃっ!」
 言いかけた言葉を途中で飲み込んだのは、彼が胸に飛び込んできたから。
「なに? 幸太ちゃん……」
 もしかしたら身体を求めてきたのだろうか? ゆくゆくは彼との性行為も想定する由香だが、今はまだ時期的に早く、時間的余裕も無い。しかし、彼の手は乳房を揉む仕草もみせず、ただ寝息のようなスースーという息を立てるだけ。まるで赤ん坊が母親を慕うような姿で。
「もう、どうしたの?」
「僕、由香ちゃんのこともっと好きになったみたい……。ねえもう少しこのままでいよう? お願い……」
 ――幸太ちゃんにはやはり私が必要なんだ。
 幸太を抱き寄せると、絡み合うように身を捩り、栗のような髪をそっと手で梳く。
 何かをねじれさせながら、ふたりはゆったりとした時間を過ごした。

***―――***

 朝のホームルーム。教壇には幸太が立ち、由香が黒板に向かって催しものの候補を書く。
 軽喫茶、お化け屋敷喫茶、仮装喫茶、ジャズ喫茶、アスレチック喫茶、漫画喫茶etc……。
 「喫茶」というキーワードで何とか個性を出そうとするが、どれも二番煎じに聞こえてしまう。
「他に何か案はありませんか?」
 かといって案も出尽くした感もあり、また大半の生徒は各々の部活の出し物の準備もあり、あまり積極的ではない。
 そもそもクラスでの出し物の予算は限られている。喫茶といってもせいぜい近くの業務用スーパーから仕入れたものを温め直すか、コップに移すだけ。それに比べると部活動、特に運動部は部費を仕入れるチャンスと、力の入れようが違う。
 バスケ部は伝統の焼きうどんで毎年近所のお年寄り、OBなど安定した集客を誇り、バレー部はテレビ番組の企画を盗用したゲームで地元の中学生を集め、見込みのある中学生の青田刈りを欠かさない。
 そんなこんなであまりクラスには余力を裂く生徒は多くない。
「はーい」
 そんな中、能天気な声と共に大きく手を振る女子が一名。
「はい、倉沢さん」
「えっとー、手作りクッキーなんかどーかなー?」
 普段からお菓子作りだけは得意な里奈が、ここぞとばかりに張り切っている。
「それはいいけど、学校にクッキーを焼く設備なんかないわよ?」
 家庭科室はあるものの、標準家庭の設備に過ぎず、オーブンのようなものはなく、また当日は園芸部が育てた野菜を使って芋煮を行う予定だ。
「うん。だからクッキーは里奈が焼いてくるの。いいよね? コータ」
「え、まあ僕はいいけど、皆はいいの?」
 実行委員ではあるものの、内輪で盛り上ってよいものかと妙な気を遣う。
「いんじゃないかな。喫茶の品揃えが増えるたほうが華やかだし、それに倉沢さんと桐嶋さんがしてくれるんでしょ?」
 委員長の久実がクラスの無言の意思を代弁すると、里奈は「やったー」と手を叩く。
「じゃあ後は、スケジュールとか当日の分担を決めたいんで、回覧に予定を記入してくださいね。それから、必要となる備品を用意できる人も記入してください」
 しばらく皆はざわついていたが、井口に代わり教科担任がやってくると、皆シンと静まり返る。
 一時限目は古文。二度寝するには静かなほうが良い。

***―――***

 学祭の準備は滞りなく進んでいた。
 もともとしっかり者の由香が計画を立てており、例年の実績もしっかり帳簿に残っている為、予定を立てるのは予想したより難しいことでは無かった。
 近くの業務用スーパーにお茶とジュース、業務用たこ焼きと焼きそばを発注する。クラスメートにホットプレートを準備してくれる人が数名いたので、汎用性を考慮して小麦粉と卵も忘れない。ちなみに、ちゃっかり里奈の希望でファッションフルーツをいくつか仕入れたりもした。明らかに予算の無駄遣いだが、そこら辺は実行委員の特権という話。
 ひとまず簡易調理場を隠すための衝立を用意したが、肝心の飾り付けは喫茶の上に何が着くか不明な為、迂闊に指示を出せない。
 アンケートを実施するも、有効な回答は少なく、かといってワンマンな姿勢で協力を求めることも難しい。無難に「漫画」をつけて、文字通り漫画を置くのは最終手段として、二人はもう少し案を練ることにする。
「コータ、ユカリン!」
 二人が教室で頭を悩ませていると、里奈が白い包みをもってやってくる。ピンクのリボンに包まれており、ほのかに甘い香りが漂う。
「試作品出来たよ。クッキーの試作品!」
 お菓子作りだけは秀でている里奈は、たまに学校にプリンやケーキを持ってくる。それは幸太のお弁当以上の楽しみだったりする。
「へー、どれどれ……恵様が味見して……」
 甘い匂いに誘われた恵が早速手を伸ばすが、里奈はその手をぺしりとはたき、包みを取り上げる。
「ダメだよー。働かざるもの食うべからず。ケイチンにはあげなーい」
「なんだよ、ケチ」
「まあまあ二人とも。でも美味しそうだね。一つもらっていい?」
「うん。一番最初はコータに味見してもらいたいな」
 里奈はにっこり笑い、彼に包みを差し出す。リボンを解くと香ばしい匂いが立つ。
「いただきまーす」
 彼はそのうちの一つを頬張り、頬をもごもごさせる。
「うっ……」
 急に目を見開いたと思ったら胸を叩きだす。そして近くにあったペットボトルを口にするとくいと、ゴクゴクと飲み込む。
「どうしたの幸太ちゃん……まさか、美味しくなかったとか?」
「はは、おっちょこちょいの里奈だからな、おおかた塩と砂糖を間違えたんじゃないの?」
 食いはぐれた恵はここぞとばかりに軽口を叩く。
「そんなことないもん! ケイチンじゃあるまいし!」
「ほー、言ったな? ならコウに聞いてみようぜ? なあコウ、美味しいのか? まずいのか?」
「う、うん……えと、里奈ちゃんのクッキーは美味しいよ」
 にんまり笑顔で断言する幸太に、里奈はそれ見たことかと恵に振り返る。
「どーだ。まいったかー」
 一体何をまいるというのかはさておき、里奈も味見に一つ摘む。
「んっふふー、やっぱり里奈はお菓子の天才、パティシェ……だ、も……ん」
 緩み無い笑顔がやや引きつる。一体何事かと訝る由香は、幸太と里奈を交互に見比べ、首をかしげる。
「んーと、えっと……、里奈ね、もうちょっち研究するから、みんなは待っててね」
 里奈は包みを乱暴に掴むと、冷や汗混じりのぎこちない笑顔を浮かべて教室を出る。
「何? あれ……」
 由香は友人の奇行に腕を組んで頭を捻る。
「さあ? 悪いもんでも食べたんじゃないの」
 恵も訳がわからないと手の平を上げてお手上げを示す。
 ただ一人、真相を知る幸太は、乾く喉をお茶で潤していた。

***―――***

「だいたい……、みんなアンケート、あぅ……答えてくれたよ……」
「そう? それで、一番多かったのは?」
「えと……や、痛い……んぁ……、えと、漫画喫茶と仮装喫茶が十票ずつ、それと……あ、だめ、そんなにされたら……」
「続けないとダメ……」
 人気のない教室、放課後の打ち合わせ。しかし、片一方の男子は陰茎を露出させ、もう一人の女子にそれを弄られている。
 左手で付け根を掴み、右手はさっきから亀頭を指で弾く。その度に男子は悲鳴をあげ、集計結果を落としそうになる。
「どうしてそんな……痛いことするの?」
「だって、ムカつくんだもん。今日の幸太ちゃん……」
「僕、悪いことした?」
「した!」
 日中のことを思い出すも、何も思い当たることは無い? いや、一つあるが、それは由香の思うほど甘い出来事ではなく、むしろ……。
「なにさ、そんなに里奈のクッキーがおいしかった?」
「そんなこと……」
「すっかり鼻の下に伸ばしてさて……。幸太ちゃん、可愛い里奈が好きなんでしょ」
 嫉妬する彼女は半眼で彼の陰茎を睨みつつ、それでも頬を朱に染めている。
「だって、僕は味見……」
「私はもらってないよ? 同じ実行委員なのに! きっと里奈は幸太ちゃんを自慢のお菓子で釣ろうとしてるの……あームカツク!」
「由香ちゃん……」
 指で弾かれる度に身体の芯に響く傷みが生まれる。それでも間抜けな亀はその口から涎を垂らしている。
 もしかしたら自分はマゾなのかもしれない。
 何度目かの刺激のとき、かすかに歓びを覚えた自分がいたことを、彼は冷静に受け止めていた。
「里奈ちゃん、可愛いから……」
「んー! やっぱりそうなのね! もう幸太ちゃんなんてこうして、こうして! あーもう、はむぅ……!」
「うぅ!」
 激昂した彼女は指で二度弾いた後、亀頭を思い切り咥える。
「こうははん、いなはほんなほほひないんらから……、わらひらけあ、こうははんを……あから、わらひだけのこうははんれいれ……」
 口に陰茎を含んだ状態で喋る彼女は何を言っているのかわからない。それでも熱心に彼の股間を前後するその行為は丹念で、舌はねっとりとした唾液が絡み、彼女の性格らしい、しつこい責苦を繰り返す。
「ん、ああ……すごいよ……、由香ちゃん……イイッ!」
 昨日の彼女は咥える様を見られたくないと嘯いていた。だが、嫉妬に煽られた彼女は恥じも外聞もなく、とにかく彼の中での自分を確立するのに必死だ。
「ろうなの? いいれひょ? ねえ、おひえれ、こうははひゃんのなかのいひばんはだれかって……」
「そんなの……由香ちゃんにきまってる……よ……だって、そうなんだもん」
 情欲に飲まれた彼の言葉を真に受けたのか、熱の籠もった半眼を向け熱心に舌先を動かす。頬肉に押し付けられ、雁首をなぞられる。鈴口をほじられるとジュンとした我慢汁が絞り出される。それをじゅずずと音を立てて吸われたのをきっかけに、幸太は下半身を解放させる。
「由香ちゃん、も、僕……でる……由香ちゃん、イク!」
 教室であることが彼の声を殺させる。本当は甲高い声で絶頂を宣言したいのだが、周りの誰かに気付かれてはいけない遊びも出来なくなる。
「いいよ、来て……そのまま、わらひのくひに……んぐ……んぐ、ん、えっほ……あはぁ……」
 遠慮なく吐き出される大量の精を口で受け止める由香。自分を飲み込まれていく錯覚に陥る幸太だが、彼女にならそうされたいと願う。
 しばらく射精の余韻に浸る幸太だが、下半身の疼きが納まると同時に冷静さを取り戻していく。ひとまず身体を離し、ポケットからティッシュを取り出し、彼女に差し出す。
 由香はどろりと精を吐き出し、その量を見せ付けてくる。
「ん……やだぁ……幸太ちゃんのエッチなミルク……こんなに出ちゃって」
「ゴメン……由香ちゃんがあんまり上手で、つい一杯出しちゃった……」
 悪びれる様子もなく謝る幸太の先端は、まだチョロリと我慢汁が滲む。由香がそれをハンカチで丁寧にふき取り、後始末をしてくれる。まだ敏感らしい亀頭はシルクの滑らかな肌触りで弄られる度にビクビク動き、その鎌首もまだできると主張している。
「まだ元気だね……。これが元気だと他の子と浮気しちゃいそうでやだな。もう少し抜いていい?」
「うん、いいよ」
 そういって二度目を始めようとする二人だが、廊下をぱたぱたと走る音に慌てふためく。その足音はこっちに向かってきているらしく、だんだん大きくなる。
 二人は大急ぎで後始末を始め、匂いを消す為に窓を全開にする。すると吹き込む風がせっかく整理した紙を飛ばしてしまう。
「たっだいまー! ……あれ、二人ともなにしてんの?」
 嬉しそうに教室に飛び込んできたのは里奈。その手には何故かホットケーキの乗った皿を持っているが、今の二人はそれどころじゃない。
 由香は口元を拭い、幸太は床に這いつくばって、まだ大きいままの部分を隠す。都合よく書類も散らばっているおかげで違和感も無い。
「さっき家庭科室借りてホットケーキ焼いてきたの。味見してくれる?」
 こんがりとキツネ色に焼けた表面とメープルシロップの香りが美味しそう。売り物として遜色のない出来栄えに、二人はすっかり感心する。
 里奈は一切れ摘むとはふはふしながら頬張る。
「うん……うん。美味しい。でも……、もう少し苦いほうがいいかな?」
「ふーん。ユカチンは苦いほうがいいんだ。じゃあコータは?」
 里奈は由香に這いつくばる彼の元へと歩み寄り、一切れ手渡す。
「う……ん。うん甘くて美味しいよ。やっぱりりっちゃんはお菓子作るの上手だね」
 裏もなく、素直に誉めたつもりの幸太。
「ふんふん……。ねえ、コータちゃん……」
 しかし、里奈は何か言いたそうに彼の顔を覗き込む。ツインテールがフリフリ揺れ、子犬のような丸く、ちょっと垂れ目がちな瞳が彼を射抜く。
「なに? りっちゃん」
 思わず後ずさる彼を里奈は逃さない。
「んーん、なんでも無い……」
 予想に反し、彼女は何も言わず引き下がる。普段なら「まいったかー」「美味しいでしょ、でしょ?」としつこく感想を求めるはずが、やけに素直で、逆に不安になる。
「それじゃあ、また明日ー」
 里奈は元気良く宣言すると、そのまま教室を出て行った。
「なんだったのかしら? 里奈……」
「さあ……」
 今度ばかりはさすがの幸太も理解できずにいた。

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