そのうちに右手が枕もとの本棚を探り、掌に収まる程度の紙の箱を掴む。
「……ん、やだぁ……なんでそんなのもってるの……」
「いざっていうときになかったら大変だろ?」
「いざってどんなとき?」
「こういうとき!」
布団の山が大きく動いたとおもうと、荒れた海のように波うちだす。
「やぁん! えっちぃ……若葉はまだぁ……」
「なぁ……わかばぁ……」
小波が激しく動くも、静かにゆっくりとそれに多い被る大波に飲まれ、布団の海は静かになる。
「……ん、だって……ちゅ……はぅ……」
「なんだよ……、だってって? それに、若葉がきたせいだぞ、これ。どうするのさ……」
大波に潜む未知の生物は硬くなっており、小波の柔らかな膝の間に挟まれる。
「なんでもう脱いでるの? しんじらんないよ……」
「そういう若葉も……するするする~」
波の間から若草色のウィンターセーターが吐き出され、続いてベージュのシックなプリーツスカートが続く。
「やだ、ちょっと……ずぅるぅいぃ……」
「そうか? なら、俺も脱ぐから公平だな……」
ついで濃紺のチェックの寝巻きの上下。さらに黒のボクサーパンツ。
「な、それってば脱ぎすぎ。っていうか、不公平だってばぁ……」
「そうだな……若葉も……」
小波がはじかれたように布団から顔を出し、右手をわきわきとするが、それを追いかけてきた大波の手が触れ、指がひとつひとつ絡み、徐々に穏やかな水面となると、「ちゅぅ」と音がした。
しばらくの間、波ひとつない穏やかな時間が過ぎる。
~~
布団の中でキスをした。
メリットは顔を見られないこと。
デメリットはどんな顔をしているか見られないこと。
自分はきっとまじめ一色。若葉ならおそらく泣いている。
正直、強引過ぎたという気持ちがある。
ただし、後悔はない。
いつか若葉とはこうなる関係にあったのだ。
今日をその日にする段取りもないが、常に準備はしていた。
八百円のそれは厚さ0.02ミリ。
ほぼないに等しい隔たりも、愛しい人だと我慢できそうにない。
「若葉……俺……、若葉と……」
「ん? なに?」
「いや、ごめん」
「あー、こんなことしといていまさら謝るんだ。ありえないよぉ」
「違うって、そうじゃなくって……ただ」
厚みのない彼女の胸元に頬を摺り寄せる。
ブラは無い。そもそも必要がない。本当は大きいほうが好きだが、若葉に代えられる女性も考えられず、そしてなによりも彼女のやけに早い鼓動を聞くのが嬉しかった。
「若葉、どきどきしてる」
「あたりまえだよぉ、若葉、こんなえっちなことされるの初めてなんだからぁ……」
「そっか」
康平は安心したように彼女の胸元に頬磨りをし、ぷくっとたった乳首を唇に含む。
「ん、や、なんでそんなえっちなことするの?」
「いや?」
「いやって言ったら止めてくれる?」
続く