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私の咎_08

 最初の仕事は品だし。滑車一杯にダンボールを積んで倉庫と店内を往復すること数時間。
 家事よりもはるかに厳しい肉体労働に、奈津美は休憩時間に疲れた溜息をはく。

「どうですか、島本さん疲れました?」

 同じく休憩中の博が賞味期限ぎりぎりのペットボトルを差し出してくれたので、それを受け取る。

「ありがとうございます。やっぱり久しぶりですからね……」
「でも島本さんもお仕事をなさっていたのでしょ? すぐになれますよ」
「ええ、でも前の仕事は受付だけでしたし……」
「そうですね。レジのほうをお願いしたいのですが、あいにく人の都合がつかなくて」

 笑いながら頭をかく博に奈津美もつられて笑う。
 昔の夫を思い出す幼い笑顔。
 少し、彼に親しみを覚えていた……。

「そういえば……」

「……まぁ、そうなんですか……」

「ただ、少し前に……」

「へぇ、知りませんでした……」

 他愛のない話を休憩時間一杯したあと、奈津美はお茶を飲み干し、頬を叩いて気合を入れ、残りの仕事に向かった……。

―*―

「ふぁ~あ、おはよう……」
「あら、おはよう、あなた。背広出してますから、それとネクタイも……」
「うん、ありがと……」

 朝食を作る間に洗濯機を回す。部屋の掃除はパートの前までに済ませればいい。
 まずは夫と子供を見送る必要がある。
 パートを始めてまもなくは戸惑うことも多かったが、最近はそれなりにこなせるようになってきた。

「秋雄! 学校に遅れるわよ?」
「は~い」

 眠い目をこすりながらやってくるのは父そっくり。
 秋雄はシリアルとハムエッグ、パンをもさもさ食べ始める。
 そこへ着替えた英明がやってきて新聞片手にご飯を食べ始める。
 なんど言っても止めてくれない習慣なので、先に奈津美のほうが折れた結果だ。

「そうだ、貴方、今週私遅くなるみたいなの。夕飯は作っておくからお願いね?」
「ん? そうなの? どうして?」
「なんだか来月のセールのための品卸をするからって言われて。みんなで残って掃除から値段設定まで作業するんだって」
「ふぅん。ご苦労だね」
「貴方ほどじゃないわよ」
「いやいや、家事の合間にパートと残業をこなしてくれるなんて君は妻の鑑だよ」
「もう、褒めたって晩酌は発泡酒だけだからね……」
「残念……」

 がくりと肩を落とした英明だが、すぐに笑顔を取り戻し、かばんを片手に玄関へ向かう。

「あ、あなた、もう行くの? 忘れ物は?」
「あ、ごめん、ハンカチと……」
「はいはい、ハンカチハンカチと……」

 タンスから紺のハンカチを取り出し玄関へ急ぐ。なぜかにんまりしている夫にそれを手渡すと、ぐいと手を引かれ……、

「ん……ちゅぅ……」
「ちゅ……うぅ……」

 夫の固い唇。

 舌はなく、触れるだけ。

「今日もがんばってね……」
「もう、あなたったら……」

 性的ではないキス。たまに不意をついてされる。
 妻であることを強く意識させられる、彼の酷いイタズラ。

 少し嬉しいけれど……、




 物足りなくもある。

続く

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