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私の咎_10

 セールが始まると、それは嵐のような忙しさだった。
 休む暇もなくセール品の陳列とレジの補佐。客は長蛇の列を作り、普段暇なはずのお昼過ぎでも人が絶えることがなかった。

「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、本日○○が安くなっております。さあさあ、お買い得ですよ、この機会にぜひお買い上げください! いらっしゃいませ、いらっしゃいませ!」

 店内に響く店長の声に客はその売り場へと群がり始める。
 その隙を縫ってそのほかの棚の陳列に向かう奈津美たちであった。

―*―

 セール最終日の頃には倉庫一杯にあった品もほとんどが売りさばけ、たたまれたダンボールがいくつも束ねられていた。

「島本さん、それ片付けておいて」
「あ、はーい」

 残業に続く残業にへとへとになっていた奈津美だが、仕事中は弱音を吐かないようにと踏ん張り、ビニール片手にダンボールに向かう。



 一通り終わるとまた持ってこられるの繰り返し。時計が閉店時間の八時を過ぎたころになってもまだ終わらず、他のパートは持ち場を終えた順に「お疲れ様」と去っていく。
 本来なら奈津美もそこで上がれるはずなのに、店長である博は「これもお願い」と仕事を持ってきてくれる。

 ――ふぅ、残業代出るからいいけど、やっぱりきついわ……。

 小さな社会ではあるものの、それでも無為に時間を過ごすよりはいい。お金も子供のことを考えれば、多いほうがよいのだから。

 そう自分に言い聞かせ、奈津美は残りの作業を終えるべく、黙々と仕事をしていた。



「お疲れ様」
「あ、店長……」

 疲労感に包まれた身体は内面が熱いのに、表面が妙に冷たい。
 時計を見るとまだ八時半。本来なら午後のパートの人が明日の準備と清掃をしている時間なのだが、セールのシフトのせいでそれらは明日の朝に回されたらしい。
 それならば自分も早く帰らせてといいたかった奈津美だが、差し出された紙コップに威勢をそがれる。

「これ、新商品なんだって、試飲してみてよ」

 なみなみと注がれたジュースを奈津美は遠慮なく受け取り、ごくごくと飲む。

 赤い水。葡萄の香りと甘さ、ほんのり苦味もあるが、美味しい部類のもの。

「美味しいですね」
「そう? よかったらもう少し飲む?」
「え? あ、はい、でも他の人は……」
「いいのいいの。今まで残ってくれたんだし」
「それなら遠慮なく……」

 苦味。大人の味。というよりも、純粋に大人の飲み物。
 そう感じたのは、身体が妙に火照り始めてからのこと。
 最初は仕事を終えたあとのそれだと思っていたが、葡萄に隠れたアルコールの臭いに気付いたのは、少し足がふらつき始めた頃。

「これ、お酒ですか?」
「ええ、そうですよ。っていうか、気付きませんでしたか?」
「はい……、お酒はちょっと……、主人にもいつも我慢してもらってますし、いくら試飲でも悪いかなって……」

 そうは言いつつも、注がれるワインを受け、ゆっくりとだが飲んでしまう奈津美。
 それほどお酒が好きでも強くもない彼女だが、女性受けを目的にしているらしいそのワインは口当たりが甘く、後味がすっきりさせる苦味で確かに彼女の口にもあったのだ。
 さらに最近蓄積させた疲労とストレスのせいで、お酒の誘惑に耐えることができなかった。

「帰りはどうします?」
「自転車ですけど、押して帰りますから大丈夫です」

 すっかり顔を赤くしてしまった奈津美は鍵を握り締めてふらふらと立ち上がる。

「なんなら送りますよ? そうですよ、そのほうがいい。さ、行きましょう」
「でも、悪いですよ」
「いえいえ、無理にお酒を勧めたのは私ですし……」
「はぁ……」

 腕をとられぐいぐいと引かれる奈津美。頭では抵抗しなければと思うも、飲みすぎていた身体は博の思うまま……。

続く

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