「うん。君もパート、がんばってね……」
「ほら、秋雄も学校遅刻しちゃうよ」
「大丈夫だよ。俺脚早いもん!」
あわただしいいつもの日々。
穏やかでのんびりしている夫と、せわしなく遊びまわる子供を見送ったら朝食の後片付け。部屋の掃除と洗濯物を干すこと、それに布団を干せたらそれがいい。
そしてパート。
――どうしよう……。
射精に満足した博は五分ほど寝たあと、起き上がり家の近くの公園まで送ってくれた。
『奈津美さんみたいな綺麗なお母さんが欲しかったな』
振り返ったときにはもう車の音だけを残して去ったあと。
博はいわゆるマザコン。
普段のおとなしい性格からみても頷ける。
仕事の上では別として、さりとて男として意識していたわけではない奈津美からすれば、彼の行動などはた迷惑なだけのこと。
そして、あれがただ一度の過ちで終わるのかといえば、そういえるのかは疑問のこと。
いくら貧弱といえる博でも、女の自分よりも腕力はあるのだろうから。
――辞めたほうが、いいよね……。
時給は仕事に見合ったもの。
まだ打ち解けてはいないものの、仕事仲間ともうまくやっていけるはず。
けれど、店長がアレでは……。
「でも、急に辞めたら他の人が困るし……」
ともかく時計は九時半を指している。
もうそろそろ出勤しなければならない時間だ。
*
午後一時半。お客も少なくなったところで休憩をとるのがACマートのルール。
奈津美は途中の仕事を交代のパートに任せ、スタッフルームへと向かった。
経費節約のため必要以上に電気をつけない倉庫は薄暗く、息を潜めた程度で人がいるかわからなくなる。
「すみません、店長、お話があります……」
ボールペン片手に搬入された商品のチェックをしていた博におずおずと話しかける。
彼はいつもの営業スマイルを二割増にしたぐらいの陽気さで振り返る。
「どうしました? 奈津美さん」
下の名前。
「あの、仕事の件で、私、急で悪いのですけど、辞めさせてもらえないかと……」
「え? どうしてです? 何か嫌なことでもあったんですか?」
車の中でのことをしらばっくれるように言う博に怒りと呆れを感じる奈津美だが、なるだけ冷静に勤める。
「はい、その、昨日のことは……。私には夫もありますし、もう忘れます。ですから……」
「そうですか……、わかりました……」
「失礼します……」
仕事はまた探せばよい。いくら不景気でも、パートの募集ぐらいすぐに見つかるはず。
ここに固執する理由もなく、それが出来る前に辞められて良かった。
そう思い始めていた奈津美だが……、
『お、お願いします……飲ませてください……、店長の精子、飲みたいんです……』
背後から聞こえた機械的な音声は、紛れもなく自分の声。
「奈津美ママ……、綺麗だったなあ……」
しみじみと言う博は笑顔で小型のレコーダーに耳を傾けていた。
「なんですか、それ! ちょっと、どういうことですか……?」
恥ずかしさと不安に困惑する奈津美は博にかけより、その手にあるものを取り上げようとする。
「これは僕のです。あげませんよ」
「僕のって……、どうしてそんなこと……」
「だって、奈津美ママ、素直じゃなさそうだったし……」
「素直じゃないって……?」
背伸びしようにもあと数センチ届かない。それでもぴょんぴょんと飛び跳ねてレコーダーを奪おうとする奈津美。そして、博は……、
「ん? んぅ……むちゅ……」
奈津美の柔らかい唇に、やはり柔らかいものがくっつけられ、それは強引に滑るものをしのばせ始め……。
「くぅ……、ちゅぅ、にゅちゅ……ちゅ……」
気持ちとは裏腹に重くなる瞼。そして身体。背伸びの姿勢も維持できず、彼にもたれかかるようになってしまうのが屈辱だが、唇は……。
「んはぁ……ね? 素直じゃないでしょ?」
「……はぁ……、そんなこと……ないです……」
はたしてどうだろうか?
今の生活に幸せを感じているはずの奈津美だが、それでも足りないものはある。
一番のそれは、昨日博に埋めてもらったもの。
「奈津美ママ、欲求不満でしょ? ほら、僕が解消させてあげるよぉ……」
博は甘える口調になると、エプロンの内側に手を伸ばし、ニットセーターの上から彼女の胸をもみ扱き始める。
「ちょ、っと……あぅん……や、やめてください……、人が、誰か来ちゃいますよ……」
「大丈夫、今の時間帯は誰も来ないから……」
商品の届く時間でもなく、商品チェックは一人で行うべき仕事。そうなれば倉庫など、誰も来る理由がない。
ピンチといえばそうなるが……、
「ね、奈津美ママももう濡れてきてるでしょ? こことかさ……」
抵抗が薄いことに調子に乗った博は右手を彼女の綿パンへと向かわせ、ぐにぐにといじり始める。
「あ、やめ、やめてください……、そんな、酷いです……私には夫も子供も……いて、だから、こんな……あぁん……!」
ラックを掴み、力の入らない身体をなんとか支える。
「……あはは、そうだよね」
「ええ、やっぱりそう思います?」
「!?」
倉庫の扉が開き、女性パートの笑い声が響いてくる。
今の時間帯、彼女たちはレジ、もしくは店内清掃をしているはず。
博と奈津美はいったん意を同じくし、倉庫の奥へと隠れる。
入ってきたのは坂入弘子と木ノ内京子。
二人とも年が近いせいか仕事中もよくおしゃべりをしていて、どちらかというと不真面目な部類にはいる。
続く
「大丈夫だよ。俺脚早いもん!」
あわただしいいつもの日々。
穏やかでのんびりしている夫と、せわしなく遊びまわる子供を見送ったら朝食の後片付け。部屋の掃除と洗濯物を干すこと、それに布団を干せたらそれがいい。
そしてパート。
――どうしよう……。
射精に満足した博は五分ほど寝たあと、起き上がり家の近くの公園まで送ってくれた。
『奈津美さんみたいな綺麗なお母さんが欲しかったな』
振り返ったときにはもう車の音だけを残して去ったあと。
博はいわゆるマザコン。
普段のおとなしい性格からみても頷ける。
仕事の上では別として、さりとて男として意識していたわけではない奈津美からすれば、彼の行動などはた迷惑なだけのこと。
そして、あれがただ一度の過ちで終わるのかといえば、そういえるのかは疑問のこと。
いくら貧弱といえる博でも、女の自分よりも腕力はあるのだろうから。
――辞めたほうが、いいよね……。
時給は仕事に見合ったもの。
まだ打ち解けてはいないものの、仕事仲間ともうまくやっていけるはず。
けれど、店長がアレでは……。
「でも、急に辞めたら他の人が困るし……」
ともかく時計は九時半を指している。
もうそろそろ出勤しなければならない時間だ。
*
午後一時半。お客も少なくなったところで休憩をとるのがACマートのルール。
奈津美は途中の仕事を交代のパートに任せ、スタッフルームへと向かった。
経費節約のため必要以上に電気をつけない倉庫は薄暗く、息を潜めた程度で人がいるかわからなくなる。
「すみません、店長、お話があります……」
ボールペン片手に搬入された商品のチェックをしていた博におずおずと話しかける。
彼はいつもの営業スマイルを二割増にしたぐらいの陽気さで振り返る。
「どうしました? 奈津美さん」
下の名前。
「あの、仕事の件で、私、急で悪いのですけど、辞めさせてもらえないかと……」
「え? どうしてです? 何か嫌なことでもあったんですか?」
車の中でのことをしらばっくれるように言う博に怒りと呆れを感じる奈津美だが、なるだけ冷静に勤める。
「はい、その、昨日のことは……。私には夫もありますし、もう忘れます。ですから……」
「そうですか……、わかりました……」
「失礼します……」
仕事はまた探せばよい。いくら不景気でも、パートの募集ぐらいすぐに見つかるはず。
ここに固執する理由もなく、それが出来る前に辞められて良かった。
そう思い始めていた奈津美だが……、
『お、お願いします……飲ませてください……、店長の精子、飲みたいんです……』
背後から聞こえた機械的な音声は、紛れもなく自分の声。
「奈津美ママ……、綺麗だったなあ……」
しみじみと言う博は笑顔で小型のレコーダーに耳を傾けていた。
「なんですか、それ! ちょっと、どういうことですか……?」
恥ずかしさと不安に困惑する奈津美は博にかけより、その手にあるものを取り上げようとする。
「これは僕のです。あげませんよ」
「僕のって……、どうしてそんなこと……」
「だって、奈津美ママ、素直じゃなさそうだったし……」
「素直じゃないって……?」
背伸びしようにもあと数センチ届かない。それでもぴょんぴょんと飛び跳ねてレコーダーを奪おうとする奈津美。そして、博は……、
「ん? んぅ……むちゅ……」
奈津美の柔らかい唇に、やはり柔らかいものがくっつけられ、それは強引に滑るものをしのばせ始め……。
「くぅ……、ちゅぅ、にゅちゅ……ちゅ……」
気持ちとは裏腹に重くなる瞼。そして身体。背伸びの姿勢も維持できず、彼にもたれかかるようになってしまうのが屈辱だが、唇は……。
「んはぁ……ね? 素直じゃないでしょ?」
「……はぁ……、そんなこと……ないです……」
はたしてどうだろうか?
今の生活に幸せを感じているはずの奈津美だが、それでも足りないものはある。
一番のそれは、昨日博に埋めてもらったもの。
「奈津美ママ、欲求不満でしょ? ほら、僕が解消させてあげるよぉ……」
博は甘える口調になると、エプロンの内側に手を伸ばし、ニットセーターの上から彼女の胸をもみ扱き始める。
「ちょ、っと……あぅん……や、やめてください……、人が、誰か来ちゃいますよ……」
「大丈夫、今の時間帯は誰も来ないから……」
商品の届く時間でもなく、商品チェックは一人で行うべき仕事。そうなれば倉庫など、誰も来る理由がない。
ピンチといえばそうなるが……、
「ね、奈津美ママももう濡れてきてるでしょ? こことかさ……」
抵抗が薄いことに調子に乗った博は右手を彼女の綿パンへと向かわせ、ぐにぐにといじり始める。
「あ、やめ、やめてください……、そんな、酷いです……私には夫も子供も……いて、だから、こんな……あぁん……!」
ラックを掴み、力の入らない身体をなんとか支える。
「……あはは、そうだよね」
「ええ、やっぱりそう思います?」
「!?」
倉庫の扉が開き、女性パートの笑い声が響いてくる。
今の時間帯、彼女たちはレジ、もしくは店内清掃をしているはず。
博と奈津美はいったん意を同じくし、倉庫の奥へと隠れる。
入ってきたのは坂入弘子と木ノ内京子。
二人とも年が近いせいか仕事中もよくおしゃべりをしていて、どちらかというと不真面目な部類にはいる。
続く