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私の咎_26

 指輪はACマートの倉庫に落ちてたらしい。
 レコーダーとあわせて落ちていたのをサボリ癖のある二人を探していた頼子が見つけたらしく、落し物掲示板に「指輪あり」と貼っていた。
 それをたまたま店にきていた夫が見つけ、気を利かせた頼子が例の脅迫の証拠を渡したそうだ。
 ――秋雄は僕の実家にいるんだ。僕も今日は家に帰るよ。

 それだけ言うと、英明は着たままの格好で家を出た。

 一人暗い家に残る奈津美は、声も上げずに泣いていた。

 発端から発覚までの一ヶ月に満たない不貞行為。
 無為に騒ぐのも秋雄のためにならないと、夫は両親に内緒にしていたが、そうそうに隠せることでもなく、奈津美のもとに判の無い離婚届が送られてきた。

 不倫相手とされる博からは代理を名乗る弁護士が紫色の包みに五本ほどを包んできて、それで内々に処理してくれと告げてきた。
 彼はレコーダーをなくしたことを奈津美に知られぬうちに関係を終わらせるつもりだったが、すでに後の祭り。当然ながら英明は受け取りを拒み、ことのいきさつと本人の謝罪を求めた。
 しかし、博の心身衰弱と心療内科への入院を理由に断られた。
 その包みはひとまず預かるという形で金庫の中にしまった。

 英明にとって何一つ納得のいかない結末に彼は胃を痛め、入院することとなった……。



 相模原総合病院、六〇三号室。
 神経性胃炎とあって周りからのストレスを取り除くために個室を希望した。
 会社の上司、後輩が何度か訪れたが、理由が理由だけに慰めの言葉も見つけられず、皆果物と社交辞令を置いて帰っていった。

 今は誰とも会いたくない。

 そんな彼の願いを誰もが認めてくれた。

 けれど、

「……いつ、出て行くの?」
「……まだ、見通しがたたなくて……」

 英明は窓を見つめ、奈津美は見舞いの品の桃を剥いていた。

「そう、なら僕が出て行くよ。僕のほうが荷物少ないし」
「でも、それじゃあなたが……」

 胃炎の原因である彼女の見舞いは理由を知る看護師によって拒否されていたが、売店で買い物をしていた英明が、彼女のそれを許した。誰もが反対していたが、本人の希望と洗い物、日用品は奈津美でなければわからないからと無理やりに押し通した。

「僕はさ、また出張があるんだ。単身赴任になるかなって思ってたけど、安心して行ってこれるよ……」
「そんな……」
「はは、安心って言わないね……こんなの……」

 奈津美も不思議に思っていた。
 彼が病室に迎え入れてくれたことを。
 奈津美の不本意な行為で傷ついた夫。何かをしてあげたくても、何も出来ない。
 弱りきった姿を見せつけ、良心を苛めようというのか?

 しかし、夫はそんなそぶりも見せず、怒りから一周して他のことを気にかけていた。

「ねえ、お願いがあるんだけど……」
「何? 私にできることならなんでも……」
「ふふ……、やっぱりいいや」
「そんな……、酷いです」
「けど、なんか、今言うことじゃないし……」
「そう……」

 英明は桃に爪楊枝を刺すと、ひとつ、頬張った。

「たださ、教えてくれないかな。どうして、あんなこと、したの?」
「それは……、私……」

 ――脅されていた……と思うの。

 その一言で済む問題でもない。
 どうせそれで救われるのは自分だけ。
 物言えぬ博に全てを押し付けてしまえば、全てといわずとも納めることが出来るはず。
 夫はきっと博を強く憎むはず。
 そして自分に同情してくれるかもしれない。

 けれど、言えない。

 あの時、博の求めを自分から跳ね除けなかった自分。
 腰を振り、よがり、快楽を受け取った自分。

 そして、最後を通告されて惜しんだ自分。

 夫を裏切ったその咎を拭うことなど出来ない。

続く

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