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小春十三の短篇_1_1

神社の裏で

 平泉マオが家を出たのは、父親とのケンカが原因。
 理由は進路をめぐってのこと。
 彼女の学校での成績は常に一位。全国模試では千位代とパットしなかったが、受験者数から考えれば充分な成績。担任からは都会の私立大学、もしくは県内の国立大学への進学を勧められていた。
 だが、彼女の父は頑固で首を立てに振らず、それどころか村に留まり、婿をもらって農業を継げと言う。
 もともと豪農だった彼女の家は戦前、いくつもの小作人を抱えるほどであった。祖父の代にある程度解体させられたものの、裏ではしっかりと村議会議員に根回しをしており、旧来の裁量権を確保していた。
 問題は彼女の父親の代になってなかなか子供が出来ないこと。
 ようやく生まれたマオは女の子。最終手段として婿養子を取らせようという計画があがった。
 しかし、時は平成にして二十一世紀。学力と権力の後ろ盾にたくましく育っていた彼女は、そんな旧世代の風習を真っ向から否定した。

 ――大学にいって勉強して、主席になって、代議士秘書になって、それから政治家になる!

 彼女は一度決めたらテコでも動かぬ性格で、そう叫ぶと同時に家を飛び出した。

~~

 いがら山の頂上からは海が見える。神社から麓を見下ろせば、川と田んぼがミニチュアのように散らばり、学校で遊んでいる子供達はありんこのように小さく見える。

 マオが家を出て今日で三日目。最初の二日は友達の家に上がりこんだが、長居も出来ずと早々に立ち去った。
 途方にくれるも家に帰る気になれず、彼女はいがら神社で夜を明かしたのだった。

 朝になるとお腹も空き、ぐうと頼りない音を立てる。
 マオが困り果てていると、そこへ誰かがやってくる。

 ――まさか、父さん?

 彼女は物陰に隠れるも、どこか期待していた。
 汗と皮脂で汚れた髪は嫌らしく肌に張り付くし、社の中で寝ると体の節々が痛み、すでに根を上げたくなっていたのだ。

「まおー、いるんじゃろ、まおー」

 しかし、やってきたのは元小作人の家の五十嵐寛司だ。もしかしたら父親に言われて探しにきたのかもしれない。
 いっそのこと彼に捕まってしまうのも悪くない。そうすれば自分から帰ったことにもならないし、まだ交渉の余地が見い出せる。

「なにかしら? 寛司」

 彼女なりの打算を講じると、にやける口元きっと結び、顔を出す。

「いたんか……まお、心配しとったで」

 坊主頭にポロシャツ姿の寛司はやれやれといった様子でため息をつき、彼女の隣に来ると、ポンと肩に手を置いた。

「あら、父さんが頭を下げに来ないなら帰る気なんて無いわよ」
「何いってん。お前の親父なぞ勘当だーってすごんでるぞ。マオ、俺も一緒にいくから、はよ頭下げろや」
「え、反省してたりしない? まだ怒ってるかしら?」
「んー、どっちかつうと、冷静じゃな。つか、マジで怖いわ」
「そう……なんだ」

 彼女の描くシナリオだと、父は一人娘の無断外泊と野宿に怒りながらも自分の言動、信条を悔い改めるとなっていた。
 しかし、どうやらそれを通り過ぎているらしい。

「まいったなあ……」
「いったい今度はなにしたんじゃ? まったく、ケンカなんかしよって、俺の苦労も知れや、タコ」
「なによ、あたしがなにしようが寛司には関係ないでしょ。っていうか、父さんに言われてきたくせに」

 父はなにかというと寛司を呼びつけていた。
 腕白なマオと、それをいさめ、時にケジメを代行してきた寛司はマオにとっても心を許せる存在。最近では同性の友達よりも強く信頼している自分に驚くほどだった。
 ただ、今はその気持ちに若干の変化がある。
 それは父のある目的。この前の三者面談が原因だ。

 ――マオさんはやはり私立の大学ですか?
 ――いや、うちのマオは入り婿をとってもらいますわ。
 ――ちょっとお父さん! 第一、そんなアテ……。
 ――何言ってるんだ。おるじゃろ。寛司がな……あっはっはっは……。

 寛司を入り婿にすること。
 それが父の描いたシナリオだった。
 マオは寛司を嫌いではない。むしろ、好き。
 けれど、政治家になると決めた彼女に色恋沙汰は不要。少なくとも当選の目玉を達磨に入れるまでは、誰とも恋に落ち……勝ち取るつもりは無かった。

「ええから、教えろよ。俺とお前の仲じゃろに」
「仲って……んまあ、いいわ。あたし、東京行くの。そう決めた」
「ほう、そうか。なら、お土産は東京バナナでええわ」
「なによそれ。キオスクで売ってるじゃ……って、そうじゃない。大学よ、大学」
「はー、そうか。なんじゃ県の大学じゃダメなのか?」
「ステータスよ、ステータス。それが必要なの」
「ほうほう、つまりマオは料理屋ひらくんじゃな?」
「何故に?」

 おそらくステーキと間違えているのだろう彼に、マオは「はぁ」とため息をつく。

「んでも、さすがマオじゃな」
「え?」
「いなくなるのは寂しいが、やっぱマオは目標にぶつかってくパワフルな女であってほしいわ」
「あ、ありがと」

 てっきり止められると思っていたが、付き合いが長い分、彼は彼女の性格を汲み取ってくれたのだろう。

「出来れば……俺と……」

 しかし、彼もまた彼女に淡い気持ちを描いていたのも事実。

「何?」
「なんでもないわ」

 残念ながらいがぐり頭の彼にそれを公言できる度胸はなく、また自分が彼女の障壁になりたくなかった。

「あ、そうだ、忘れとったわ。これ、差し入れじゃ」
「え? あ、おにぎり! ありがと」

 アルミホイルに包まれたおにぎりとのりを受け取り、早速頬張る。
 ぱりぱりしたのりに、適度の塩気。具はしーチキンマヨネーズ。

「お茶もある」
「さすがですな、寛司殿」

 水筒をうけとり、ほうじ茶の心地よい香りに一瞬の至福を味わう。

「旨いか?」
「うん。すごく」

 空腹もあるが、それ以上に良くできている。握り具合もおコメもすべて、彼女の好みにあっていた。

「へへへ、それな、俺が作ったんじゃ」
「そうなんだ」
 たかがおにぎりと思いつつ、彼の心遣いが温かかった。
「違うぞ、おコメから俺の手作りじゃ」
「え? ホント?」
「ああ、今年取れたやつなんじゃが、量もあれだし、売り物にならんからってくれたんじゃ」
「そうなんだ……」

 彼の手作りのおにぎりを見ていると、むしょうに胸が苦しくなる。
 自分が机に向かっていたとき、彼は既に仕事をしていた。それはあくまでも高校生活の傍らでの仕事だが、それでもどこか眩しく思える。

 自分には学業がある。同い年の子からは畏敬の視線を送られるも、どこか子供っぽさの抜けない自分。大学にいくのも、全て親の力を当てにして……。

 山頂には海の潮は届かぬも、心にしっかりと風が吹きぬけていた。

「あたし……」
「しっ!」

 彼女が弱気な声を出そうとすると、彼がそれを留める。一体何事かと思いつつ、彼女も耳を澄ます。

 ――おんぎゃあ、おんぎゃあ……。

 赤ん坊の声だった。

続く

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