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小春十三の短篇_1_2

「嘘、昨日はしなかったよ」
「けどいるんじゃ、探すぞ」

 二人は朝食を置いて声のするほうを探る。
 ぶよの生い茂る神社の裏手に小さな竹の籠。中には生後数ヶ月経ったと見られる赤ん坊がいた。

「なんで……いるの?」
「知るか、んなこと……」

 泣き喚く赤子をどうしてよいものかわからず、二人はただおろおろとするばかり。ひとまずマオはあやそうと抱っこするも、余計に声が大きくなる。

「ほらほら、いないない……ばー」

 寛司が間抜けな顔をさらにゆがめるも、赤子は激しく泣き喚く。
 一体何がどうなのかと混乱してしまう。すると、抱っこしていた手が湿ってくる。よく見ると、股間が濡れていた。

「この子、オシッコ漏らしてる」
「まじかよ、えっと、オシメなんてあるか? あ、あるわ……」
「えっと、どうしよ、ここで? ああ、そうだ、神社にはいろ、ここより広いし、そのほうがいいよ」
「んだな。いくぞ」

 マオは赤子を抱え、寛司も籠を抱えてその後を追った。

~~

 神社の中は定期的に掃除がされており、風で格子戸が揺れるものの、それなりに快適だった。それでも硬い床に寝かせるわけにいかず、マオは膝の上で赤ん坊を抱く。
 寛司が白い布のような肌着を脱がせていくと、出てきたのは小指程度のオチンチン。オシメはすっかり濡れており、ほかほかのウンチもこぼれていた。

「あらら、ウンチしてたわ。えっと、えっと……」
「しっかり押さえてろ、いいな……」

 オシメを脱がせてティッシュでお尻を拭く。緊急ということもあり、寛司は番茶でお尻を流し、オムツをあてがった。

「ふぇえ……すごいね、寛司」
「まあな」

 赤ん坊はすっかり機嫌が直り、だぁだぁと笑い始める。ただ、寛司が抱こうとするととてつもなく嫌がり、マオが抱くときゃははと笑う。

「やっぱ男じゃな」
「なに言ってるのよ。もう……」

 とはいえ、全て寛司に任せきりというのは癪に障り、せめて赤ん坊を寝かしつけるぐらいは自分でしたかった。
 マオが人形を抱くようにして揺らすと、赤子は目をとろんとさせる。定期的に振動を与えることで赤子の瞼は重くなり、次第に息もゆっくりになる。

「……この子、どうしよ」
「どうしようもなにも、警察いくしかないじゃろ。あ、病院か? とにかく山降りるぞ。いいな?」
「わかった」

 計画とは多少違うものの、これなら言い訳も立つと、彼女は頷き、社を出ることにする。
 しかし、突然、ほつほつと鼻先を掠めるものが振ってきて、しばらくするとばらばらっと雨が降り始めた。

「まいったな……傘なんかねーよ」

 二人だけならどうとでもなるが、赤ん坊の身体が冷えたら危険。そもそもいつ頃から放置されたのかもわからぬため、その体力も心配だった。

「止むまで待つ?」
「いや、俺が傘もらってくるわ。お前は待ってろ」

 寛司はそれだけ言うと、社を出る。

「あ、寛司!」
「ええな、まっとれよ!」

 一人暗い社に残されたマオは、不思議と不安になった。
 昨日は一人でいても平気だったはずが、胸元できゃははと笑う赤子を見ていると、何故かそれが加速される。

 ――温かい。確かな生命を感じるのに、何故だろう。一人じゃない、寛司も来てくれたのに、どうして?

 むしろ寛司が来たことで、心的緊張がほぐれたのかもしれない。そして、頼りなれている背中を見たから。

 普段は男にも負けないと意気込む彼女も、先のことでそれが机上に立てられたノートによる要塞でしかないと気付いていた。

 たかが赤子一人の排泄物に怯えていた自分が情け無い。そう思った。
 雨の音と寒さに目を覚ました赤子は火がついたように泣き叫ぶ。彼女は内と外の轟音にむしろ自分が泣きたいとさえ思う。

「わあ、どうしろっていうのよ……ねえ、どうすれば寝てくれるの?」

 ふと、帰り道、田んぼで自分と同い年ぐらいの子が口ずさんでいた歌詞を思いだす。

「えっと……こほん……ねんねんころり~よ、おこ~ろ~り~よ~」

 音程には自信がないが、それでも抱っこして揺らせば、再び安心したのか、癪も治まり始める。
 何も意味もわからず、ただきょろきょろと外を見て手を出すその子は、どこか自分に似ていた。

 ――私も一緒か……。けど、でもね……。

 赤子がくしゃみをしたので、彼女は羽織っていたジャンバーでくるむ。少し汚れはしているものの、肌着があるから直接は当たらない。

 ――こんな無責任なこと、どうしてだろう。

 無邪気な瞳を重そうに瞑る赤子は、何故捨てられたのだろうか?
 そもそもこんな人気のない場所に捨てたら、八百万の神々とて困り果てるだろう。幽霊が子供を育てる話はあっても、ここは墓場ではないのだし。

「悪い人がいますね。あなたみたいな可愛らしい赤ちゃんをすてるなんて、ゆるせません」

 彼女は一人憤るも、赤子の前ではそれも続かず、ただ微笑んでいた。

~~

 寛司は傘と毛布、それと産婆をしていた八木ばあさんをつれてきた。
 八木ばあさんは赤子をよしよしとあやすと、もってきたおぶ紐で手際よくマオの背にしょわせ、毛布をくくりつける。
 三人は雨と風から赤子をまもり、いがら山を降りた。

~~

 娘を出迎える父は「どこをほっつき……そいつ、ふむ……、よくやったなあ二人とも」と、怒りもどこへやら、なぜか一人関心していた。
 訝しむ寛司とは別に父の心が読めたマオは「この子は捨て子!」と叫ぶ。

「んなら、誰の子なんじゃ?」

 出生を明かすものは何一つ無く、あるのはチンチンだけ。
 父はその子を抱きかかえると「正則だ」と呼び、高く掲げる。先ほどまでの怒りもどこへやら、一気にバカ親になりだす。
 もし自分に子供が出来たらこうなるのだろうか? そんなシミュレーションをしながら、マオは面倒なことから逃れたと、ほっと息をつく。
 ただし、目を吊り上げた母親には、しっかりと絞られたのだが……。

続く

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