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小春十三の短篇_1_8

 正則がきて二回目の二月、マオは駅にいた。見送りは寛司と正則と母親のみ。可愛らしいパンダの着ぐるみに身を包む正則は、寛司に抱きかかえられると、「ぱぱ」と呟く。
 たまにすれ違うおばあさんが「若いママさんね」というので、二人は顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。

「えっと……、行ってくるね」
「ああ、行って来い」
「電話するね」
「ああ」
「手紙書くよ」
「わし、筆遅いぞ」
「……」
「……」

 他にもいっぱい話したいことがある。なのに、寛司もマオもどちらも唇が重い。

「……止めないの?」

 先に口を開いたのはマオ。反対側のホームで電車が出たとき、別れを予感して勇気が出た。

「マオは俺を張り飛ばしてでもいく。だから好きじゃ」

 彼女は東京の大学に合格した。
 最後まで反対していた彼女の父だが、正則を正式に養子として迎えたので、彼女に跡取りとしても未練は無い。もっとも、彼女の旅立ちの前日は飲めない酒を一升瓶で開けてしまい、今も布団の中で喘いでいるはずだ。

「そう……寂しいな」

 ――連れ去ってなんて言えないよ。

 寛司とはあの日の一度だけ。
 ピロートークのとき、マオの「私は行く」の宣言に、彼は「愛してるから」と了承した。ただ、彼に教えられた女は、もう一度あの日の熱情に触れたかったのだ。

「けどな……正則。こいつはママがほしいんじゃな」
「まーま、まーま」
「ママじゃないよ。マオだよ」

 甲高い警笛が鳴らされると、もうお別れ。マオは小さめのリュックに詰まった荷物を大切そうに抱え、電車の奥へと引っ込む。

「それじゃね!」

 最後は笑顔で別れたい。だから笑った……はずが、

「邪魔だぞ、入り口に立っていると」

 何故か一緒に乗り込む寛司は、正則を彼女の母親に渡す。

「え? え?」
「それじゃあ寛司君、マオをよろしくね。悪い虫がつかないように見張っててね」
「はい、おばさん。任せてください」
「ちょっと、どういう事?」
「しっとるか? 東京の大学には農業科ってのがあるんじゃ。これからの農業の発展の為には、学が必要じゃからな」
「嘘、だって」

 信じられないという表情のマオに、寛司は「合格通知」と書かれた紙を見せる。

「俺だってやるときはやるんじゃ。つまり、まあ、そういうことじゃな」

 彼は不器用そうにウインクをすると、正則に向かって手を振った。
 寛司は乗降口の隅っこ二人分のスペースを作り、これから始まるであろう新生活を思い、目を瞑る。マオも彼の肩にそっと寄り添うと、規則正しい息をする彼の鼻をつまみ、目を瞑った。

 もっとも、彼女の見る夢は、あの日の続き、さんさんと輝く日の下で正則にたかいたかいをしてあやす彼と、それを優しく見つめる自分の姿。

 それはあと四年ほど遠い未来だが……。


神社の裏で 完

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