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小春十三の短篇_2_1

私のアレ長おじさん

 土曜午前中は勝負時。開店が九時であるにもかかわらず、パーラー質草の前には数人が座り込み、店員から整理券を受け取っていた。
 斉藤栄子もその一人。彼女はまだ学生の身であるが、パチンコ店に出入りしていた。
 彼女はボウシを目深にかぶり、サングラスをかけ、厚めのダッフルコートを着込み、見た目の年齢を誤魔化していた。が、逆に目立ち、さらに背丈、肌のキメ細やかさからは年齢が推測できるというもの。
 なぜ彼女が危険を犯してまで朝早くからパチンコ店の前にいるのかは、安易な金策のため。
 今月の携帯使用料が長電話とメール、チャットなどで跳ね上がってしまい、親に相談するにしても既に前科のある彼女は、「今度一万円を越えたら携帯没収」と通告されていた。
 今回はその上を軽くいく諭吉二人と一葉一人必要だ。しかし、財布の中でほくそ笑むのは野口英世四人きり。到底足りぬと踏んだ彼女は、かつて大勝した記憶にすがりつき、パチンコに希望を繋いだ。

 ――絶対勝つんだから!

 彼女の握る整理券には、〇七の数字が刻まれていた。

~~

 きらびやかな装飾のされたディスプレイでは、ディフォルメされたキャラが所狭しと走りまわる。開始早々当たり目を引いた彼女だが、軍資金が心もとなく、チェッカーは無常にも破滅へのカウントダウンを始める。

 ――もうあと一歩、あとちょっとなんだから!

 栄子の脳裏に浮かぶのは、七を三つそろえて盛大なファンファーレを聴き余裕の笑みを浮かべる自分の姿。

 財布の中では寂しそうな英世が一人、また一人と飲み込まれていくばかり。
 そして迎えたラスト一回転。望みなど既に無い。彼女は絶望しながらもドラムを回し、右から順にほいほいほいと押していった。

 すると、

「あ、もしかして!」

 リーチ目とされる並び。大当たりが来る前の並びは雑誌に穴が開くほど見つめた。それこそ英単語以上の精度で暗記してきたそれが、今まさに目の前にある。

 ――これって、でも、くっそー、あとちょっとなのに、どうしてこんなこと? 運命の神様はあたしを苛めてそんなに楽しいの?

 絶望する彼女だが、財布には五百円すらない。今から誰かを呼び出すも、来る頃にはリセットされてしまう。栄子はがっくりと肩を落とし、携帯の待ち受けに設定されている、チャット友達のシャメを見つめていた。

 髪を茶色に染めたいまどきの髪型の彼。少し遊んでる感じが同級生より大人っぽい。

 ――ゴメンネ。もうしばらく会えないよ。

 近くの大学に通う彼にはチャットではあるものの何でも話せた。
 部活のこと、勉強のこと、進学、趣味、女友達、彼氏、そしてちょっぴりエッチなこと。
 彼は何でも相談に乗ってくれたから。
 それが例の使用料となったわけだが、それでも大切な存在だった。

 ――仕方ない、ゆっこに頼んで、しばらくオフしますってことづけてもらお。

 折りたたみ式の携帯電話をパチンと閉じ、彼女は席を立とうとした。
 すると、隣に座っていた男性がカードを差し出してきた。

「え? え?」

 リーチ目を見計らってくる人もいると聞いた事があるが、その男性は席を移動せず、ただカードを彼女に差し出してきた。
 栄子が視線を向けると軽く会釈する。初老というべき男性はオデコの皺の割りに濃い頭髪を保持し、ネクタイこそ締めていないものの、シャツの第一ボタンまで締めており佇まいが穏やか。
 目も緩やかなカーブを描いており、ちらほらと白髪がある彼は、品のよさと柔和さを併せ持たせる。
 タバコと若干のアルコール臭さの漂うこの場所にいるのか不思議だった。

「早くしないと、終わっちゃいますよ?」
「え、あ、いんですか?」
「ええ」
「ありがとうございます。必ずお返ししますから」

 彼女はカードを受け取ると、再びギャンブラー魂に火を灯した。

続く

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